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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
三章 頭角これくしょん―頭これ
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頭角これくしょん―頭これ

今回も少し長めです

 ガタンと体が揺れる。その衝撃で俺は目を覚ました。気を失ったことは覚えている。後頭部の痛みが、何かしらの面倒ごとに巻き込まれたことを告げている。拘束されていることもなく、乗せられている軽トラの荷台に、逃げられないように仕掛けが施されていることもない。

 誰が何の目的で俺を攫った(?)のか、運転席を覗き込む。


「睡眠薬まで盛ったのに起きるとはな」


 若干身を屈めて、しかしそれでも甲冑は着込んだままで運転している一踏破軍がいた。


 シュールなんて話じゃないんだが。魔族の連中はどいつもこいつも、時代錯誤な奴らが多いことは知ってるが、これは流石におかしいだろ。


「起きたのなら仕方ない。もう一度眠ってもらうぞ」


 そう言って、路肩にトラックを停めた一踏破軍は降車する。俺もむざむざやられるつもりもないので、荷台から降りて抗戦の意を示す。


「実はあの後こっぴどく魔王に怒られてな。連れてこられないのなら、せめて敗北しろと」

「そうだろうよ」


 勝手な現場判断で上の命令を無視して、何の利益も得られず、挙句の果てに損害だけ叩き出せばそうなる。魔王が怒る気持ちも、敵ながら分からないでもない。


 助手席から取り出したのであろうヘルムを被った一踏破軍は、いよいよ臨戦態勢だ。俺も【裂断「ドラゴンクロウ」】と【竜の眼光】を発動する準備を進める。いつかの修行の成果で、【「ドラゴンクロウ」】なら無宣言で発動できるようになっている。


「では改めて名乗らせてもらおう。肩書は魔王軍が将の一人、一踏破軍! 名をガルア! では尋常に参ろうか!」

「【竜の眼光・瞑】」


 一踏破軍――ガルアの名乗りに合わせて、今度こそ【竜の眼光】を宣言する。その副次的効果として、俺の両目に文字盤が出現する。右目には発動した時点の時刻が、左目には動き続ける現在時刻が。中二病甚だしいこの演出は恥かしいことこの上ないのだが、それを我慢するに余りある効果がある。


 爆発を加速器代わりに、文字通り爆速でガルアが突っ込んでくる。【「ドラゴンクロウ」】はやはり格下狩りの側面を持っているが、竜シリーズでは一番目立たない。

 よっぽど濃密な魔力で防御しない限り、この爪は突破できない。


 ……今更遅いかもしれないが、フラグだなこりゃあ。

 兎にも角にも、攻撃しなければダメージは与えられない。魔力での防御をしようにも、魔力量が膨大でない限り持久戦に持ち込めば勝ちだ。


「貴様のことは調べてあると分からないのか?」

「やってみなけりゃ分からねえだろ!」


 嘘だ。薄々分かっている。この爪は防がれる。

 ガルアが持つ剣と俺の手がかち合う。どちらかが打ち負けるのではなく、そのまま拮抗する。身体能力では俺が劣っていることは確実なので、【「ドラゴンクロウ」】の性能で保っている状況だ。


「私はあまり魔術が得意でなくてな。貴様も知っている通りの爆破と、あとはこの程度の芸が、私の手のすべてだ」


 何がこの程度だ。無生物に魔力を纏わせるのは十二分に規格外の才能だ。アマナでも、魔法を使わなければこんな芸当はできない。

 剣に魔力が帯びているなら、鎧もそうだと見ておくべきだ。消費する魔力は莫大だが、俺は魔族の基準を知らない。想定するなら常に最悪をイメージするべきだ。幸い剣は一本。魔術を含めても、攻撃の手数はそこまで多くはならないだろう。


「【狙撃「エイミング・ショット】!」


 何の属性も乗っていない弾丸を発射する。高密度の魔力を貫くには、超高威力の攻撃か、こうした貫通力のある魔道を使うのがセオリーだ。しかしたかが一発であればガルアは反応して防御するか、剣で叩き落す。牽制も含めて、続けて四発放った。

 無論それだけには頼れない。【「ドラゴンクロウ」】を手に、俺も弾丸とともにガルアの命を狙う。


「対多数。それは私が最も得意とするところだ」


 嫌な風が頬を舐めていった。慣性を押し殺して、ガルアから距離を取ろうと、遮二無二体を後方へ蹴り飛ばす。

 ガルアが、一度地を踏んだ。


 間に合わない。熱と暴風が俺の体を包み、空へと浮かせる。自由を奪われた体は風のままに吹き飛ぶ。熱に肺をやられないように息を止めるが、外皮を襲う灼熱は免れない。

 一度着地する。それだけで勢いが失われることはなく、そのままもう一度跳ねる。二度目の着地でようやく地に収まったものの、一メートルは衝撃に引きずられた。

 どこも骨折している様子はない。火傷も深刻ではない。だが、ダメージは深刻だ。

 体は動く。なら戦える。たった一撃食らった程度でダウンしていては、陛下に笑われる。激痛なら慣れている。


「もろに食らったと思ったのだがな。立つか、ジュン・ネリン」

「立つとも。俺は切り札を見せただけで、まだ切ったわけじゃねえからな」


 【竜の眼光】を発動してから、まだ五分も経っていない。お膳立ても済んでいないこんな状況で切ることはできない。解除された【「ドラゴンクロウ」】をもう一度発動する。まだ魔力には余裕があった。

 ガルアも爆破を使用するにはある程度時間を要するのか、再び俺が肉薄しても即座に爆破魔術を使用してこない。空を抉る竜の爪を、ひたすら剣や腕で防御するだけだ。


「爆破だけというのも華がない。少し魅せてやろう」

「華は花火で十分だっつーの!」


 俺が一旦距離を置いたところで、剣の魔力に火属性が追加される。これで単純な出力が上がった。こうなっては、【「ドラゴンクロウ」】で相手をするには心もとない。


「お前にあまり手の内は見せたくねえんだがな!」


 空を一度裂き、宣言する。


「【裂空「ドラグーンタスク」】」


 効果は単純、【「ドラゴンクロウ」】に、直線軌道のみだが爪の射出を加えたものだ。出力自体も上がっているので、ぶっちゃけ完全上位互換である。

 もちろん消費も増えているが、比較して約一.一倍という、破格の燃費。発案設計開発製造すべてメイドインアマナ。元々構想は練っていたようで、俺が時空間魔道を使いこなせるころを見計らっていたらしい。

 射出しても解除されることはなく、すぐさま次の牙が生えてくる。竜というよりは鮫だ。


「第二ラウンドか。いいだろう」


 一度に装填できるタスクの数は指の数と同じ十。再装填にかかる時間は数にかかわらずきっかり一秒。方向は指先からの直線限定だが、性能は素晴らしいと言う他ない。

 先に二発、次に三発、最後に残った五発を乱れ撃つ。この距離からなら、互いに前進しようとも一秒はかかる。痛む体を身体強化で補強しつつ、ガルアと打ち合う。互いに上がった出力はやはり俺の方が上。加えて言えば、タスクへ切り替えたことで、その差はより大きく開いた。身体強化の補正も相まって、剣と手刀でかち合えば剣を弾くことができる。


 数度打ち合ってもそれは変わらない。タスクは軌跡を描き、着実にガルアの魔力を削っていく。距離を開ければタスクが弾け、自身の攻撃は届かない。距離を詰めれば、爆破というカードをちらつかせることができるが魔力が削られていく。

 一方俺も残魔力が少し不安だ。決めるのなら、ガルアの爆破ゲージが溜まりきっていない今!


「っ!」


 ガルアの剣を大きく弾く。これでも魔力を削ることができたが、ここからさらに追い打ちをかける。右腕を一度引いて、手で五つの牙を作り、それを撃ち出す。


「がっ、ふ」


 より強固、より稠密に魔力を纏わせた牙がガルアの鎧を二度突破する。肉の中に手が沈んでいく手応えが心地悪い。初めての手応えだが、もう二度と味わいたくない。

 深々と突き刺さった腕を引き抜く。短く呻いたガルアが崩れ落ち、地に伏せる。それを確認した俺は、腕に絡みついた血を振るって少しだけ落とした。特有の嫌な臭いが俺の鼻をつく。


「結局、【竜の眼光】は使わなかったな」


 そう、ひとりごちる。切り札は見せないことに越したことはないが、ここまで出番がないと、不遇にも感じる。

 陽は昇っている。今ごろ、俺がいないことに気づいたアマナが喚いていることだろう。

 取り返しのつかないことになる前に、俺の無事を確認させなければならない。そう思って、踵を返した。



「……詰めが甘いな、ジュン・ネリン……ッ!」



 二度目の爆音。直撃を食らうどころか、無防備な状態で背から超規模の爆発を受ける。せめて、着地までの数度のバウンドは受け身を取ろうと身を捩じらせたが、それは失敗に終わった。俺の想定以上に爆発の威力が高かったのだ。


 一度目は左肩から落ちた。嫌な感触を感じたきり、左腕が動かなくなる。

 二度目は右足から落ちた。今度は嫌な音が聞こえた。やはり右足は動かなくなった。

 三度目でようやく受け身を取れた。残った場所は痛みながらも動く。


 左脚を立て、右膝を地について、前方に立つ男を睥睨する。腹から夥しい量の血を流し、喀血しながらも効き手に剣を携えてこちらへ向かってくる。


「どうやら、貴様を生きて連れ帰ることはできなさそうだ」

「……忘れてねえか? 俺にはアマナがいる」


 そう言った俺を、ガルアは嘲るように笑った。


「人は生き返らんよ。貴様がその証左だ」

「あ? 何言って……」

「……悪いが、それを語るほど、私の命は残っていない」


 目の前までやってきたガルアが剣を振り上げる。こいつは、俺以上に限界が近いのだろう。精々重傷な俺と違って、ガルアは明らかな致命傷を負っている。


「そうだな、お前はここで死ぬ」


 俺はガルアを見据えて、もう一言続ける。


「【竜の眼光(ドラゴタイマー)(アウェイクニング)】」


 左目の時計が止まる。


 そう唱えた瞬間に、俺に鮮血が降りかかる。即死したガルアは、何の断末魔も残せない。

 【竜の眼光】の効果。それは宣言してから、もう一度宣言するまでに使った魔道すべてを再現する。なぞるのではなく、再現。仮にガルアが魔力の鎧を纏っていたとしても、俺の爪は、牙はその内にある体を直接穿つ。また、タスクのような銃撃の場合は、軌跡すべてに再現判定が下りる。弾ではなく、直線となって再現されるわけだ。


 もちろん魔力消費も凄まじい。魔力が決して並ではなく少なくもない俺が、魔力の残量を気にしていたのはここにある。【竜の眼光】は仕様上二度の発動を必須とし、二度ともに魔力を消費する。再現される魔道では魔力を消費しないので、量をきちんと考えておかないと、費用に見合わない効果になってしまう。途中で俺が【竜の眼光(きりふだ)】を切ることを渋ったのはそのためだ。


 魔力の消費は体力の消費とイコールではない。まったく別のエネルギーなので、魔力を大量に使ったからと言って、倒れたりはしない。しないのだが、今の俺は満身創痍で魔力もほとんど空に近い。

 張り詰めた緊張感が解けたことによって、片隅に追いやられていた負担が一気に押し寄せてくる。


「……少し、少しだけ……」


 加えて、純粋に寝不足だ。

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