筋力王者! 脳キング!
今回、若干文字数が多いです
「ではではでーは! 第一回チキチキ魔道大会かいさーい!!」
城にある実践場、そのど真ん中でアマナは高らかにそう宣言した。
急に知り合いを集め始め、城の従者にも声をかけていたのは、こういうくだらないわけだったのか。前者は変人ばかりなのでともかく、後者はほとんど来ていない。
名無の修業が始まって一か月と半月。俺もある程度仕上がり、名無の修業も終わったと陛下から連絡があった。それから一週間でこれだ。
つーか第一回ってお前、これから何回か行うつもりか。
「おいアマナ、ひとつ質問がある」
俺とレオンが嫌な未来を予知して肩を落とし、女子二人がきゃぴきゃぴと会話する中、しれっと仕事を放棄している陛下が手を挙げた。
「何だい?」
「試合形式はどういう形だ? あと優勝賞品はなんだ?」
どうやら陛下は数を数えられないらしい。一回国を挙げて、IQテストでもした方がいいんじゃないか?
「形式はトーナメント。商品は各々に沿ったものを用意している。期待し給えよ」
おそらくは、アマナの背後にあるホワイトボードに、組み合わせや試合順が書かれている。問題は、それを考えたのがアマナだということだ。
俺とレオンは溜息を吐いた。
「多分、今回はレオンに大きい被害が及ぶことはないだろ」
「いや、アマナとレイがもし当たったらと思うとな……」
「ああ……」
ロボットアニメも真っ青のビーム合戦になるのは間違いない。果たして実践場はその熱量に耐えられるのだろうか。いいや耐えられない。
ま、まあ、地下なだけ、周囲の家屋が消滅したりすることはない。それだけは安心だ。裏を返せば、そこ以外に安心できるところはない。
「期待不安の組み合わせが今明かされる!」
ぐるんとひっくり返されたホワイトボード。それを見て、悲鳴を上げる参加者が二人。
「この人ちょっと頭おかしい!」
「今日ほどお前がイカレてると思った日はねえ!」
俺と名無だった。
初戦に俺と陛下、第二試合にレオンとレイ、そして一回戦最終試合にアマナと名無の対戦があり、最終戦での勝者はシード権を得、二回戦の勝者と最終戦となる。
一応、今回の主役は俺と名無という体で進めるとアマナは準備の段階で言っていた。その主役を一回戦で潰すのは、流石に試合運びを分かっていないとしか言いようがない。
もし、仮に、万が一に、なんらかのアクシデントがあって、二人にハプニングが起こった場合にのみ、俺と名無が決勝で戦う未来があり得るかもしれないが、俺は一回戦で勝ったとしても、レオンかレイ(十中八九レイ)と戦うことになる。
俺が優勝する確率は、色違いのモンスターが草むらから飛び出してくる確率よりも低い。
「何を言ってるんだ、これ以上ない組み合わせじゃないか。私とクロノ、どちらが師として優れているか、どちらが格上か、そして何より、ジュンと名無のどちらが強いかを確かめられるいい機会だ」
「前者は二人で勝手にやってろ! 俺たちを巻き込むな!」
一回戦最終戦でアマナと陛下がドンパチやればいいだけの話だ。俺と名無が絶対強者に挑む理由としては不十分にすぎる。
「えー、でももう決めちゃったしなあ。油性ペンで書いたし書き換えられないよ」
「何のためのホワイトボードだ!」
「別に殺し合いをしろって言ってるわけじゃないんだから。それに、ここには優秀な回復道士もいる。万が一の時には私に任せるといい」
「ぐ……」
そう言われると、俺としては反論できなくなる。名無は勢いに押されると流されるところがあるので、俺が折れるとその時点でこの組み合わせで魔道大会とやらが開催されるだろう。いや、厳密にはもう開催されてるのか。
「開幕降参ってありなんですかね?」
「アマナ主催だからな、『面白くない』と言ってまず許可されない」
「享年一五歳……短い人生でした……」
流されるどころかもう死ぬ覚悟まで決めている。もちろん本気ではないだろうが、名無が覚悟を決めているのに、俺がそうしないのは癪だ。
溜息を吐いた俺は、アマナに「これでいい」と言って未成年組のもとへ戻った。
「参加者も全員納得したようだし、早速第一試合やってみよう!」
納得したんじゃなく折れただけだが、いちいちつっかかるのも司会進行の妨げになるので言いはしない。
第一試合はいきなり俺の出番だ。身長二メートル近い肉の塊が俺の前に立つ。
「いきなり本気を出しはしねえ。胸を貸してやるよ」
「はあ、まあ、お手柔らかにお願いします」
陛下が手を抜くと言っても、俺の近接戦での強さは身体能力に由来するものではなく、魔道に由来するものだ。冷静にひとつひとつを回避していけば、恐れるほどのものじゃない。
だから、俺は最初から本気で、なんなら殺す気で陛下の相手をしなければ、一瞬すら相手にならない。
「両者とも準備はいいね? それじゃあ――開始!!」
その声とともに、俺は大きくバックステップ。陛下は最初の行動を譲るつもりなのだろう、首の関節を鳴らしながら余裕をかましている。今のうちに、やれるだけの準備を終えておかなければならない。陛下が本気を出せば、俺程度の動体視力、反射神経では追い切れない。
俺は、最初に切り札を切った。
「【「竜の眼光・瞑」】!」
「あ、それはやべえ」
陛下がそう言うと同時に、その姿がぶれる。
どこに、と思考する暇すら与えられず、俺の視界は暗転した。
目を覚ますと、俺の視界にはアマナの顔が広がっていた。
「痛むところはないかい?」
「ああ、まあ」
「うん、よかった」
どうやら俺は陛下にワンパンで沈められてから、アマナの膝枕で眠っていたようだ。軽く頭を持ち上げて周りを見渡してみると、今の試合は陛下とレイが戦っているようで、レオンが端の方でぼろ雑巾の如く転がっていた。しかし、名無は無傷のまま、陛下とレイの戦いを見守っている。
「なんだ、お前棄権したのか」
「当り前じゃないか。私は何より誰よりジュンが大事なんだ」
「へいへい」と適当に返事をして起き上がる。実践場の壁は、ところどころ少しだけ融解している。ここを造ったタイミングでは、レイのビームなど意識していないので当然だ。
レイは陛下を近づけないために、細いビームを乱射しているが、陛下の反射の前には大した意味を持たず、徐々に距離を詰められていく。
近接の鬼である陛下の手が届く範囲に入れば、終わったも同然。痺れを切らしたレイは両手をかざして、大技を放つ態勢に入る。
「もうっ! これで決めてやりますよ! 【ドラグフレイム・ムーヴメント】ッ!!」
名の通り、火竜が迫る錯覚すら起こさせる光帯が、直径五メートルオーバーの魔道陣から這いずり出る。陛下はもちろん回避のために動くが、赤い大蛇は陛下に狙いを定めている。鎌首をもたげて、進行方向を変えた。
「ここをマグマ溜まりに変える気かこいつは!?」
「レオン拾っといた方がいいね」
「命拾いしたと思ったらこれですよ!」
大蛇のうねりにあわせて、実践場が地獄へと変わっていく。気絶しているレオンはアマナが拾い、俺と名無の未熟者二人は必死に絶大な熱量から逃げ回る。
それに追われている陛下はと言えば、
「いい筋してるが、魔道の練りが甘いな!」
そう言って陛下は跳んだ。
「「跳んだぁ!?」」
アマナ以外の全員が、陛下のとった予想外の行動に驚嘆の声を上げる。
陛下の跳んだ先は前。暴れ回る大蛇が迫りくる前方だ。そのまま落下すれば、大蛇の腹に跳び込む形になる。身体強化は魔力耐性とは別物だ。そうなれば、いくら陛下とてただでは済まない。
陛下の行く末を、固唾を飲んで見守る。陛下の高度は重力に従って下がっていき、そして――!
「着地ぃ!?」
「はっはっはぁー!! 俺をその辺の奴らと同じにしてもらっちゃあ困るぜ!!」
「ビームの上を走るとか、いくら何でもぶっ飛びすぎでしょ!」
レイの言う通りだ。魔道に干渉できるのは魔道、もしくは魔力のみ。内側を強化する身体強化ではこんな芸当、できるはずがない。しかし、そんな現実が目の前に広がっている。
「結界だね。あいつあんな奥の手を残してたんだ」
「結界? だったら俺たちにも効果が及んでるだろ」
「あれは特殊だ。自分の体に張り付くように結界を展開してる。効果は……言わなくても分かるか」
「……魔力遮断か」
「違うよ。身体強化だ。あいつがそんな小難しいことできるわけない」
俺はずっこけた。陛下はどこまで行っても、新たな力を手にしても陛下のままだった。
確かに、結界なら魔力遮断の特性を持っていなくても、魔力に対しての耐性は身体強化と比べると天地ほどの差がある。いや、そう考えてもなあ……
アマナと陛下に常識は通じない。幾度となく反芻したその言葉を、また反芻させる。
「これで、終いだ」
魔道を蹴って、レイとの距離を一気に詰める。レイは幾度かビームを放つが、陛下は腕を交差させてガードするだけで耐えきった。
着地した陛下はレイの顔面に向けて渾身の右ストレートを放つ。たったそれだけの動作なのに、風魔道にも引けを取らない突風が吹き荒れる。
「俺の勝ちでいいか」
「……っ」
両手を上げて、完全に戦意喪失しているレイは、陛下の問いに首を何度も縦に振ることで答えた。
アマナが棄権し、その流れでしれっと名無も棄権しているので、この時点で陛下の優勝が決定した。
「お前はいいのか? この結果で」
「構わないさ。ジュンならそのうち、あいつに勝てるようになるからね」
重い期待だ。だが、自分にそれを可能とする可能性が眠っていることは、今回の件で知った。
時間と空間。それらを操作する才能の片鱗が俺にはある。穿孔はそれだった。
「いようアマナ! 優勝してやったぜ!」
俺が決意を固めていると、陛下が意気揚々とアマナに声をかける。
各々に沿ったもの。アマナは試合が始まる前に、商品はそれだと言っていた。陛下に沿うものと言えば、俺は一つしか思いつかない。
「はい」
レオンのついでなのかレオンがついでなのか、アマナに守られていたホワイトボードの下にさりげなく置かれていた箱の中から、アマナはあるものを取り出して陛下に手渡した。それは、俺の想像に違わないものだった。
「なんだこれ」
「プロテイン」
これ以上なく、陛下に沿った優勝賞品だ。
「おう、ううん、いや、嬉しいが、なんか違くね?」
「君から見て珍しいものを私が用意できるわけないし、そりゃあこうなるよ」
そう、陛下は陛下。一国の王なのだ。陛下にとって珍しいものは、世界的に見て珍しいものになる。アマナなら見つけることができるだろうが、流石に時間を要する。
「それじゃあ、第一回チキチキ魔道大会はこれにて閉幕! 第二回の開催予定は未定だよ! 参加したい人は私にまで声をかけてね!」
次回の参加人数は、少なくとも三人は減るだろう。




