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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
二章 筋力王者! 脳キング!
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筋力王者! 脳キング!

「師匠のお墨ももらいましたし、ちょっとだけやりましょうよジュンさん!」


 今日明日は休むつもりだったんだが……名無の成長度合いを確かめる名目で戦ってもいいか。そこまで本気でやらないだろうし、明日丸一日引きこもって休めば休息にはなるだろう。

 「よいしょ」と声を上げて名無が立ち上がる。そして実践場の中央へ向かっていく。すると、入れ替わりのように陛下がこちらへ向かってくる。


「なかなかどうして見込みのある奴だ。疲労も溜まってるから万全じゃねえが、気は抜くなよ」

「俺も馬鹿じゃないですよ」


 近接特化の相手に、わざわざ近づく馬鹿じゃあない。遠距離の手数は少ないが、中距離の手数なら多いとまではいかずとも戦える程度にはある。俺の近接攻撃は、ほとんどが致命傷につながるので、今回は封印すべきだ。


 軽く体を解しながら俺も中央へ向かう。名無と向き合うと、いかにもウキウキな様子で軽く跳ねている。試したい気持ちは分からないでもない。

 俺もちょうど、試したい魔道がいくつかある。


「審判は多分大師匠がやってくれるでしょう。ルールはまあ、大雑把で。ジュンさんは致命的、強化系の魔道を禁止、私は全力でジュンさんを殺しにかかります」

「さっきまでの感傷的な雰囲気どこ行った!」


 しかもしれっと、俺にめちゃくちゃなハンデを追加してやがる!


「やだなあ、意気込みの話ですよぉ! あ、でも致命的なのは本当にやめてくださいね。私、まだ避けるのはちょっと得意じゃないんです」

「分かったよ」


 もとよりそんな危険なものを使うつもりはない。空間魔道のなりそこないと言えど、その攻撃力だけなら本物と比べても遜色ない。

互いに準備運動を終えた俺たちは開始の合図もなしに、まったく同時に動いた。


「ちょっと! 離れないでくださいよ! 私美少女ですよ!?」

「知るかボケ!」


 いくら美少女でも、身体強化込みで突っ込んできたら避けるか離れるかするに決まっている。


「オイテメー羨ましいぞコラ!」


 例外は黙っていてほしい。


 と、名無から距離をとった俺は、早速名無の成長を目の当たりにした。魔族の魔道は魔術と言い、人間のそれとはいくらか機構が異なる。それに明るい俺ではないが、今までのものよりは格段に性能が上がっている。

 強化すべき部位のみを強化する。これは消費節約の基本だ。


「【ライトニングスピア】、【フレアスピア】」


 俺は下がりながら、魔道を二つ宣言する。ありふれた汎用魔道で、穿孔魔道のように特殊な効果もない。精々火と雷の付与による多少の威力向上、それぞれの特性付与程度だ。


「そんなありふれた魔道、見切って――!」

「【ユニックス】」

「ほえ?」


 手元に展開された魔道陣を重ね合わせる。赤と黄の陣は混ざり合ってオレンジになる。

 【ユニックス】。二つ以上の魔道を統合し、新しい魔道を疑似的に作り出す魔道だ。


「【炎雷「電光石火」】」

「ほえーーーーっ!!」


 オレンジの陣から射出された槍は名に恥じぬ速度で名無に迫るも、間一髪で回避される。得意じゃないとか言っていた割には、きっちり避けられるようだ。


「ちょちょちょちょっと!! 致命的なのは無しって言いましたよね!?」

「ああ、避けられただろ?」

「当たらなくてもどうということはあるんですよ!」


 万一当たったとしても、反応できているなら反射的に強化は当たりそうな場所にも及ぶ。ダメージはいくらか軽減できるし、ここは城。優秀な回復道士が何人もいる。後遺症の心配もいらない。

 当たれば超痛いだろうが。


「禁止! 今の禁止です! グレーゾーンですよ!」

「しょうがねえなあ」


 名無は、立ち止まって大声で【ユニックス】禁止令を発令する。今の一槍がどれだけ怖かったのかは本人のみぞ知る。禁止されたのならそれはもう仕方ない。次の手を繰り出すまでだ。


「【「竜の咆哮(ドラゴインディグネイション)」】」

「ぬぎっ!」


 俺が魔道をまたひとつ宣言すると、名無が変な声を上げたきり動かなくなる。

 【竜の咆哮】は、俺の魔道の中心である竜シリーズの最新魔道だ。竜シリーズ自体、大層な名前とは裏腹に格下にしか効かないものが多いドラゴンクロウもだ、これはその特徴がより顕著に表れている。


 俺の声が届く範囲で、一定以上の魔力を纏っていない者の動きを制限する。具体的な範囲は俺にもわからない。使えないことはない、程度に俺が使える時空間魔道を、最大限使える形にしたもので、アマナの技術力の賜物だ。


「いやあ、毎度毎度、ジュンさんが使う魔道はちょっとチート染みてますねえ!」

「身内に本物のチートがいるのにそれを言うのか」


 お前が稽古をつけてもらってる相手も、この国有数のチートだぞ。


「無理ですよこんなの。こんなの使われたら私勝てないじゃないですか。ずるいですよ!」

「ずるいもクソもあるか。使えるカードを切って何が悪い」

「降参です! 私はあくまでちょっと強いだけの普通の魔族なんです!」


 名無は徹底的に俺と戦闘の相性が悪いようで、開始早々だというのにもう降参した。

 ため息を吐いた俺は【竜の咆哮】を解除する。体が自由になった名無は、前傾姿勢のまま固まっていたので顔面が地面と接した。「ぶべっ」と呻いた名無は、尻を突き上げた体勢のまますすり泣き始めた。


「私が頑張ってる間に、ジュンさんも頑張ったら意味ないじゃないですか」

「俺だって享年二歳で死ぬつもりはさらさらないんでな」

「ジュンさんはハムスターか何かですか?」

「死ぬつもりはねえっつってんだろ!」


 軽口をたたく余裕があるなら、修行自体は順調に進んでいるんだろう。当初の目的である名無の様子を見るという目的は達した。俺個人としては、陛下が名無に変な気を起こしていないかが気がかりだが、まあ、大丈夫そうだ。あの人はあの人できちんと師匠をやっている。


 三人に別れを告げて、実践場を後にする。地下から地上へ戻る途中で、地響きのようなものが聞こえた。もしや魔王軍がとも思ったが、それにしては城内が落ち着いている。正面出口に繋がる廊下を歩いていると「またあいつだよ」、「クソクリエイター」などの単語が聞こえてきたので、犯人はアマナで確定だ。朝起きた時に俺がいなかったことで癇癪でも起こしたのだろう。昨日の晩に早朝出かけると伝えた上で、書置きまでしてきたのはまるで意味を成さなかった。


「腹痛めるのは俺なんだぞ……!」


 本人の目の前で言うと、「私は頭を痛めた」とか言い出しそうだ。

 急がなければならない状況なのに、現場には行きたくない。そんなジレンマが俺を苛み、走るとも歩くともつかない、競歩のような、小走りのような妙な運動をさせる。

 悩みの種が胃痛の種だ。スイカの種を食ったら腹から芽が出るという話を思い出した。


「アマナァッ!!」

「ジュン!」


 怒号全開の俺と、寂しかったといわんばかりに目いっぱいに涙を浮かべ、両腕を広げて俺に突進してくるアマナ。その後方で、レオンが剣を杖代わりにして膝をついている。

 まずは隙だらけなアマナの顔面に左ストレートを放つ。短い呻き声をあげてノックバックしたアマナの右を抜けて、レオンのもとへ向かう。


 レオンの背にはいたるところに亀裂が走り、本体をぶち抜かれた門の姿があった。レオンの奮闘によって、かろうじて半壊と言える形で済んではいるが、これではもはや門ではなく鳥居と称した方が正しい。


「大丈夫か、レオン」

「死ぬかと思った」


 鎧のほとんどを剥がされ肩で息をしているレオンは、俺の肩を借りて頼りなく立ち上がった。


「強くなったね、レオン。私と相対して五分戦えたのは初めてじゃないかな? 本当に、強くなった」

「いい話風に〆ようとしてんじゃねえぞ」


 鼻っ柱を赤くして、しみじみと語るアマナの目的はすでに達したも同然。俺としても、これ以上ここに留まる理由はなかった。

 そう、なかった。


「お前が騒動を起こすたびに、俺がどれだけ方々に謝ってんのか知ってんのか!?」

「でも、すぐ許されるよね」

「そりゃあ俺が悪いわけじゃねえからな!!」


 皆、アマナを許したわけじゃなく、アマナに振り回される俺を気の毒に思って許してくれているだけだ。同情だ。幸い金は腐るほどあるから、主膳費などには困らないが……


「自分が巷で何て呼ばれてるか知ってるか?」

「天才美女魔法使い」

「クソクリエイター、略してKCだよ!!」

「私は別にカードを作ったりしていないよ」

「――――ッ!」


 アマナのふざけきった態度に、言葉が出ない。周囲の人間たちが向ける憐憫の視線も、レオンから俺に移っている。


「まあ、ひとえに愛だよ。愛なら仕方ない。そうだろう?」

「仕方なくねえよ、世が世なら大罪人だぞ!」

「そんな世なら、私が天に立つ」


 もう駄目だ。アマナは真面目に会話をする気がない。たとえどんなことがあろうとも、アマナに頭を下げさせることはできないだろう。


「悪い、謝罪はまた今度改めてする」

「最悪、修繕費を振り込んでおけばそれでいい。大臣たちには俺から説明しておく」

「……すまん」


 レオンに深く謝罪する。ただでさえアマナからの負担が大きいのに、弁明まで任せるのは本当に忍びない。


「……帰るぞ」

「オッケー」


 聞き分けのない犬を躾けているような気分だ。

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