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今日から名無し

 俺の朝は早い。


 クソッタレな生みの親の分を含めた飯を作るため、というのも理由のひとつだが、何より俺は健康志向で生きている。

 人造人間(ホムンクルス)である俺は、本来なら普通の人間より貧弱な身体だ。しかし俺を暇潰し感覚で作ったクソッタレが、魔道に関して全能と言っても差し支えない存在だったために、むしろその辺の一般人よりは身体が頑丈だ。


 まあ、そんなことは日常ではどうでもいい。二歳児と煽られることは腹立つが。


「すぅー、ふぅー……すぅー」


 一度、深く呼吸をして、もう一度大きく息を吸い込む。


 女らしさを一切感じさせない恰好で眠りこけているクソッタレ。右腕はベッドの外へ投げ出され、左腕は腹部に置かれている。

 黒インナーに短パン。部屋着にしても年頃の女性が着るような服ではない。せめてネグリジェなら色気もあったものを。


 十分に肺に空気を取り込んだ俺は、思い切り叫ぶ。


「いい加減起きろォォーーーッ!! もう昼だぞニートォッッ!!」


 腹を起点に喉を通り、口を砲身として放たれた声の砲弾は涎を垂らしているニートに着弾するも、大した効果は得られない。


「……あ、う……は、んんんぅ」


 首を揺らし、呻きながら起き上がったそいつは、俺を視界に捉えるなり、にへらと笑う。


「おはよーございますジュン殿! 今日も元気でなによりぃ!」

「目え覚めたならさっさと着替えて降りて来い。昼飯はもう作ってる」

「我ながら有能に育ってくれたものだよ。私嬉しい」

「いい反面教師がいたからな」


 俺の母親(本人は姉と自称している)とも言うべき女、アマナ・ネリン。誰に言わせても史上最も優れた魔道師と称される、自他ともに認める稀代の天才。有史以来唯一の魔法使い(・・・・)。他にもいろいろ称号があるが、挙げるとキリがないので割愛する。

 とにかく、アマナは魔道において、過去にも、おそらく未来にも右に出るものがいない。


 のそのそとリビングまでやってきたアマナは案の定着替えていない。本人は気にしていないのだろうが、俺が気にする。世間体とか。俺まで変人扱いはされたくない。


 俺の顔を見てにこにこしながら、もそもそ朝食を食べるアマナ。俺を可愛がる気持ちは分からないでもない。それでも、飯時に見つめられると食べにくいので、今は勘弁願いたい。


「ジュン、今日って何か予定あった?」

「あー、確か呼び出しがあった。城に来いって」

「面倒。パース」


 焼き魚を突くアマナは心底嫌そうな顔をする。そんな顔をしても、引きずって連れて行くのは確定している。こいつが俺に甘い性格でよかったと、こういう時に思う。


 アマナはその実力ゆえに、国から依頼をされることが多い。逆に、その性格ゆえに、個人から依頼されることは少ない。魔道をいくつも造った功績として、人生を三回繰り返してもあまりそうな金を貰っているにしては、働いている方ではある。


「一緒の布団でぬくぬくしようよ。こんな寒い日にわざわざ出歩くことないってー」

「自分が今どんな格好してるか考えような!」


 今の季節は初秋だ。


「私が思う幸せは、好きな人と一日中だらだらすることだと思うんだけど、どう?」

「どうじゃねえよ自堕落すぎんだろ!」

「私の真名は怠惰のラストって言ったら……信じる?」

「怠惰と色欲が混ざってんじゃねえか!」


 アマナが真面目な顔をする時は、大方嘘を言っている時だ。こいつが怒る時や、本当に真面目な時はまずため息が出るので分かりやすい。頭脳がどうなってるかは分からないのに、感情だけは分かりやすい奴だ。


「飯食ったら行くぞ。本当だったら昼前に来るように言われてんだからな」


 二人分の食器をシンクまで運び、洗う時間はないので水を被せて軽く水につけておく。

 インナーを脱ぐことなく、上から白いローブを羽織る。アマナは寒がりの気があるので、短パンの上からさらにもう一枚、ズボンを穿いた。

 漸く頭が覚めたのか、大きく伸びをしながら窓際に立ったアマナは、ぽつりと呟く。


「なんだか今日は、人助けに魔物を倒したい気分だなあ」

「…………」

「そんな目で見ないでよ。興奮するじゃないか」


 視線を明後日の方へ向けた俺は、大きくため息を吐いた。

 戦線から遠いとはいえ、魔王の侵攻を感じさせないその日常が、かれこれもう二年続いている。アマナが本気になれば魔王程度の敵は簡単に倒せるだろうに、それをしないということは何か考えがあるのだろうか。


 いや、ないな。面倒なだけだ絶対。


 そろそろローブの襟首を掴もうと窓に近寄る。これ以上遅れるとレオンにどやされる。


「おっと危ない」


 近付いて来た俺をアマナが押し倒す。危ないとは言いつつ、その動作はわざとのように――



 俺がアマナの向こう側に見たものは、超速で飛来する人型の何かだった。

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