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1章 プロローグ


コメディ少な目、シリアス多め

処女作です。思い入れ強いです。

僕の作品の登場人物は大体この物語が原型です。

暇つぶしに読んでみてください。わりとガチです。

「平和を享受し続けたこの国は、本当に平和というものを理解しているのだろうか、そうは思わないか?」


 月光が象る自身の淡い影に目を落としながら、窓際に立つ男が呟く。

 ここは東京、とあるビルの最上階。

 この瞬間も人々は笑い、泣いているのだろう。

 眼下に広がる街の光は、眩しくも儚なげだ。


「それで、いかがなされますか?」


 部屋の隅からその声は発せられた。

 目を凝らせば、やっとそこに誰かがいるということが分かる程度、暗がりに溶け込むようにその男はひっそりと、声を発しなければその存在に誰も気づかないであろう立ち居振る舞いで、ただひっそりと佇んでいた。


 その男の顔からは感情が読み取れない。

 部屋に明かりがないということもあるが、もし今、部屋の照明が全て点いていたとしても結果が変わらないことを窓際の男は知っている。陰々滅々という言葉を鋳型に流し固めたような男なのだ。 

 それは影に服を着せたような男だった。

 そしてその『影』が今度は沈黙で問いかける。

 といっても既に答えは決まっていた。後は窓際の男が「状況開始」の一言を告げるだけで全てが動き出すのだ。


「ずっと前から準備をし、待ち続けた状況が今目の前にある。それをしない理由はどこを探しても見当たらない。《プロセッサ》の結論だ」


 窓際の男はそう言いながら苦笑した。

 煌めく街の明かりは、その数だけ物語を背負い主張する。

 取るに足らないありふれた小さな物語が身を寄せ合い、街を作り今日まで夜空を照らしてきた。一つ一つの明かりが消えても、新しく始まる物語がそれを埋め、また何事も無かった様に今日も、昨日も、その前も。

 だが、明日はどうだろう。


「………」


 これは決まったことだ。ずっと願っていたことだ。

 沈黙が支配する空間、窓際の男は自分がその役を負ったことを後悔するかのように苦悶の表情を浮かべていたが、ふいに『影』に目をやり、はっきりと言った。


「始めたまえ」


 窓際の男は、『影』の顔が喜悦に歪むのを確かに見た。    


 




――――――――――――――




「さて、それでは君をどうしようか、どうしたらいいと思う?」

「あの、出来たら助けていただけないかと……」


 時は夜、外は雨。 

 アキラは口元を引き攣らせながら、本日二度目の銃口にお願いしてみる。

 なぜだ、どうしてこうなった……

 窓から街灯の明かりすら入ってこないところを見ると相当な郊外だろうか。教室位の広さで、6面ほとんどコンクリートが剥きだしの部屋だ。おそらくどこかの廃校の教室だろう。


 昼間、九死に一生を得る事件に巻き込まれ、なんとか助かった後、警官らしき女性である静流に連れられて車に乗ろうとした。そこまでは覚えている。

 そして気付いたら両手足を拘束され、椅子に座らされた状態でこの部屋にいた。

 確かに〝ちょっと危険で美人なおねいさんとお知り合いになって、そんでもって二人で秘密を共有したいです!〟 とか、初詣で賽銭箱に500円を叩き込みながらお願いはしたが、ここまでの危険は望んでないし、墓まで即行で持って行かされそうなレベルの秘密を共有したいと願ったわけでもない。


「悪ノリし過ぎでしょ神様……」


 思わず呟いてみたものの状況が好転するわけでもなく、周りを見渡しても役に立ちそうな物もない。小石でもガラスの破片でも何かあれば何とかなるのだが、こんな廃校らしき場所にしては不自然なほどに何も無いのだ。

 静流に直接干渉が通用しないのは先ほど経験済みだ、アキラは軽く息を吐いて全てを諦めた。

 本当は、幼馴染のヤキモチ魔法攻撃とか、ツンデレ少女のヤキモチ日本刀攻撃とかで死ぬのが男の幸せだとアキラは思うが、美人なおねいさんに殺されるのもまあ幸せな部類だろう。

 だから少しでも幸せに死のうという訳のわからない思考でもって、目の前の美人なおねいさんを、これから自分を殺すであろう静流を目に焼きつけながら最後の瞬間を待った。


「ではもうわかるな?」


 静流はまるで


 子犬の頭を撫でる時にするような微笑みをうかべ

 小さい子供の手を握る時にするような動作で凶器を包み

 艶めかしく引き金に添えた指に力を込めようとして、そして……

 

 話は少し前に遡る

      



    

 □□□□□       





 夏目アキラはごくごく普通に幸せな高校生であった。

 戦後の混乱期にも職を失わない堅い職種の共働きの両親と、少し変わった1つ下の妹の4人家族。

 毎年の誕生日には家族全員から値は張らずとも心のこもったプレゼントを送られ、年に数回妹と喧嘩をし、年に一回両親は夫婦水入らずで旅行に行く。そんな温かな、春の日差しのように心地よい暖かさを備えた家庭で育ち、日々の何気ない一コマの素朴な幸せを噛み締めることが出来る少年だった。

 

 学校でも友達には恵まれ、クラスの中心ではないが、若干弛めの愛嬌でもって男女問わず人気があり、少し高めの身長や、整った童顔にやっかまれることなく、ごくごく平和に学校生活を送る、温厚で口調もやさしく、どこか頼りない微笑みを絶やさない。それがアキラという少年であった。

 そして今日は高校一年二学期の終業式、式を終え、街に繰り出し、初詣はどうするとか、クリスマスに彼女と過ごす奴は死ぬべきとか、友達と年相応の馬鹿な話をして、夕方帰宅したところから物語は始まる。

       

「ただいまー、あ~~彼女が欲しい……」


 いつものように帰宅の挨拶なのか願望の吐露なのかよくわからないことを言いながらアキラは靴を脱ぐ。


「おかえりー、っつーか千夏が彼女になったげるっていつも言ってんじゃん」


 これまたいつもの返しがリビングから聞こえてきた。

 最近伸ばし始めた髪がやっと縛れるようになったらしい。顔だけ見ればかなり可愛い女の子。

 夏目千夏。

 絶賛ブラコン中の中学三年生だ。ちなみに座右の銘は「近親婚超上等」。くりっとした大きな目と、泣きボクロが自慢らしい。

 リビングに入ると、キッチンから野菜を刻む子気味のいい音と、何かを煮つける甘辛い良い匂いがする。


 両親が残業ばかりの共働きなので、家事は兄妹で分担制。

 最近ちょっと体つきが女らしくなり、エプロン姿が板についてきた妹の後ろ姿も見慣れたものだ。

 普通なら将来はきっといい奥さんになるんだろうなあと微笑ましく思う光景だが、アキラは自分の妹が決して微笑ましい性格をしていないことを知っている。なぜなら……


「お兄ちゃんお帰り! ご飯にする? お風呂にする? それとも、あ・た・し?」

「…………お風呂で」

「いや~ん! もう! お兄ちゃん恥ずかしがっちゃってぇ~~!」

 

 これである。

 戦前でも「それとも、あ・た・し?」を現実で言う電波さんは絶滅危惧種だったらしいというのに、戦後の今でもこれである。

 この妹は萌えと電波を取り違えているらしく、兄が何に対し恥ずかしがっているかも理解していない。世の中には世間体というものが存在するのだ。

 はあ……とため息をつきながらアキラは風呂場に向かった。脱衣室で服を脱ぎ散らかし、風呂場に入る。

 

 夏目家では、というかアキラが風呂場に入ってまず最初にやらなければいけないことは二年前から決まっている。これを忘れると風呂に入ったのに疲労困憊で風呂から出てくる羽目になってしまう。

 

 ――ガチャッ


 鍵を閉めることだ。この時点で色々と理解していただきたい。

 そして、日が昇り沈むことが必然なように、また今日も脱衣室の扉がバーン! と音をたて、「おっ背中流っしま~~~~~す!」という頭の悪い掛け声と同時に、風呂場の扉がガタガタいい出す。


 ここでいつもなら扉の向こうに「くそう……遅かったか……」という呟きと共に、すごすごと引き下がる人影が見えるのだが、なぜだか今日は含み笑いと共に優々と遠ざかる人影が見える。アキラは一抹の不安を覚えつつも、冬の湯船の気持ちよさに瑣末な不安など感じられなくなり、ただ深く息をついた。アロマだマイナスイオンだと騒いだところで、


「冬の風呂は最強だな……」   


である。


「しっかし……」


 心配だ。近親婚上等な変態妹でも、アキラにとっては大事な可愛い妹に変わりはない。

 同じ中学に2年間一緒に通ったが、その時後輩から聞いた話によると、妹は容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、教師生徒から信頼度抜群という見事な完璧超人っぷりだったらしい。妹ながら羨ましく思ったものだ。

 そしてそんな妹が異性としての注目を浴びないわけがなく、よくお決まりの場所に呼び出されては告白されていたのだが、「私にはお兄ちゃんがいるので」の一点突破でその全てを撃破してきたらしい。

 

 一時期、アキラに「渡り」をつけようとする男子が後を絶たなかった。

その時期が過ぎると、アキラは何故か女子から疑惑の目で見られ、男子からは「それどんなエロゲ?」旨の質問攻めに遭った。そして更にその時期が過ぎると、何か全てを受け入れたかのような、生温かい空気が教室を支配するようになった。

 『夏目千夏「妹は妹なんだから、恋愛対象として見れるわけないよ」立ち聞き事件』 において、全校女子全てが敵にまわるという不条理極まりない仕打ちを受けたこともあったが、今となっては懐かしい思い出だ。というか妹と修羅場とか、どんなエロゲだ。

 色々と考えていたらのぼせてきたので、そろそろ上がろう。

 アキラは勢いよく立ちあがり湯船から出た。そして体を流すべくシャワーに手を伸ばす。それにしても


「あいつ、ちゃんと結婚出来るのかな……」 


 やはり心配である。

 隙あらば自分に突撃してこようとする。いつも何か企んで、何か仕掛ようと計画しているのだ。そう、今だってきっと……

 

 ――カリッ カリッ…………カチャッ


 そう今だって風呂場の扉がカチャッっと…… カチャッ?


「おっ背中流しに参りました! っつーか前もっ! いやん」

「なっ!」


 アキラは両手で胸を隠し、偏った人の腐った脳を直撃するであろう綺麗な尻を、声の主に突き出しながら叫んだ。


「ちょ、ちょっと千夏! 何で! どうやって! 『いやん』じゃないよ!」


 少年紙によくある『水着でお風呂』なんつー愁傷なものに、全く興味も敬意も示すつもりがありませんと体全体で表現する変態妹がそこにいた。

 満面の笑顔で両手両足を大の字に広げ、手に怪しげな道具を握って得意そうにしている妹からは、何故か『褒めて』オーラがダダ漏れだ。

 かろうじて胸と腰に『伊藤酒販』の粗品タオルを巻いてるのは果たして褒めるべきところなのだろうか。確かに、えっ? というくらいくびれた腰や、あれっこんなにあったっけ? と成長著しい胸には兄とはいえ多少グッとくるものがあるのかも知れない。しかし、伊藤酒販の大将が泣いて喜んだとしても、兄としては叱るべきところだ。


「千夏、その左手のものは何ですか……っ!」

「知り合いに頼んで買ったの! 鍵屋さんの必須道具だよ! あれだよあれ、警察24時とかでモザイクかかってるあれ! 10万円もした!」 

「最近土日バイトしてると思ったら……」

「うん、これ買うため」

 

 …………。

 アホかっ

 もう何からツッコんでいいのか全くわからない。

 テレビで放送出来ない道具を片手に喜んでいることを怒るべきだろうか、受験間近なのにこんなものを買うためにバイトしていたことであろうか? それともシンプルに入浴中の兄に突撃してきたことか? そうまでしてここに来た執念を褒めるという超展開か?

 いよいよ頭が混乱してきたアキラに対し、目の前の変態が行った行為は実にシンプルであった。

 右手を突き出し、人差し指に力を込める。ただそれだけのことだ。

 

 ――プシュ~


「ぐああああああぁぁぁッ!」


 アキラの目に激痛が走り、意思とは無関係に涙がポロポロこぼれ出す。


「千夏っ! まさか……!」

「うん、これ防犯スプレー、超軽めの配合のやつ! ほら危ないから座って!」


 これはいわゆる犯罪行為ではないでしょうか。

 防犯用具を犯行に用いるなんて発想が自由すぎると思います。

 といっても、普段から「愛があれば全てが許される」などとのたまう沸いた頭の持ち主に、倫理や道徳を説いてたところで無駄な話だ。何やら聞こえる「はぁ……はぁっ……」という荒い息遣いについてはもうコメントすらしたくない。

 千夏が「じゅるっ」と涎をすすって言い放つ。


「お兄ちゃん……きれい…………」


 こ・い・つ・はッ!

 もうこれは兄として、というか人として怒るしかない。キレていいところだ。

 アキラは、すでにいっぱいいっぱいの混乱した頭で、まず何を怒るべきか考える。

 こういう場合は順序正しく理路整然と怒るのが効果的なのだ。そして、兄として人として、人生の先輩としての経験則から、一番許せない部分を最初に持ってくるべきだとの結論を導き出す。

 アキラはブルブル震えながら言葉を捻り出した。


「み……」

「……み?」


 千夏が首を傾げる。アキラは自身を抱きしめながら叫んだ。


「見ないでぇぇぇぇぇ――っ!」


 そんな兄の絶叫に対する妹の反応は不謹慎極まりないものであった。


「やだ……超かわいい…………」


涙が止まらない。きっとその半分は心の汗だ。アキラはそう思った。






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