泥棒
「起きておとなしくしろ」
いきなり聞こえた聞き覚えのない声に、男は飛び起きた。
「一体なんです」
男は、おびえながらも、その声の主を探していた。すると男は、自分が縄で縛られていることに気がついた。
「お前は、もう逃げられないぞ。さぁ、金を出せ」
また聞き覚えのない声がする。男は、一度冷静になろうと、深呼吸をしたあと、やわらかい口調で、会社で客と話すような態度でこう言った。
「あなたは、金が目的なんですか?」
いまだに男はその声の主を見つけられてはいない。見渡す限り、どこにもいない。少し遠い場所で大きな声でこちらに呼びかけているそうだった。
「いや、そうじゃない。目的は他のところにある。ただ、今は金だ。金をとりあえずはよこせ」
「金じゃない?もしかして俺のことを…」
「あぁ、そうだ。だがまずは金だ」
殺されるとわかっていながら、金を差し出すなんて、本当に俺の人生は最期までついていないと感じながら、男は金のある場所を示した。すると声の主は男の指し示した場所に向かい、金をとった。
「これだけか」
「そうだ…もうない、俺もこの縄をほどけそうにない。観念した。もう殺すなら痛くないよう一思いにやってくれ」
男は今までの人生を悔やんだ。もう少し良い行いを積んでおけば、こんなことにはならなくてもすんだのかもしれない…でも今からそんなことを考えても遅いことは、男自身が一番よくわかっていた。
「殺す?殺すものか。人の家で寝て、寝ぼけているのか?今からでも遅くない、自首をしなさい」