水晶龍の洞窟 7
六人でぞろぞろ街外れの幽霊屋敷に向かいます。カイルとマルセルが並んで歩く後ろをついていくマーガレットに、アンが耳打ちしました。
「マルセルに親切にされたからって、うぬぼれたらダメなんだからね」
エミリも続けて言います。
「私たちはあんたなんかより、ずっと、マルセルに大事にされてるんだから」
モーラが言います。
「私たちの大事なマルセルがあなたなんかに振り向くことはないんだから」
マーガレットは不思議そうに首をかしげます。
「あなたたちはマルセルの家族なの?」
三人はムッと押し黙るとそれぞれに違う方向を向きました。
アンが言います。
「今は違うけど、この先、そうなるわ」
エミリが言います。
「アンなんか無理よ。マルセルが選ぶのは私よ」
モーラが言います。
「二人ともバカみたい。マルセルは私と結婚したいに決まっているじゃない」
マーガレットは、ぽん、と手を打ちました。
「あなたたちはマルセルの婚約者なのね。あら、でも変だわ。婚約者は三人もいらないわよね」
アンとエミリとモーラが口々に言います。
「私だけがマルセルのお嫁さんになるの。他の二人は関係ないわ」
ぴたりと足を止めた三人は、にらみあったまま動かなくなりました。カイルがマーガレットの腕を引いてにらみあう三人から引き離しました。
「あんなのに関わりあうなよ」
「まあ、あんなのだなんて失礼だわ」
「そんなことを言っていると痛い目を見るぞ」
「痛い目?」
「ほら、始まった」
カイルの視線を追うと、三人が掴み合いの喧嘩を始めたところでした。
「まあ、彼女たち、勇猛なのね」
「勇猛ねえ……」
ため息をついたカイルがマルセルの背中を突っつきます。マルセルは足を止めて振り返りました。
「兄貴、止めてやれよ」
カイルが三人を指差すと、マルセルはにこやかに「いいんじゃない?」と言います。
「よくないだろ」
「面白いから放っておこう。それより、ほら着いたよ」
道は鬱蒼とした森の奥に向かっています。
「ここから先が幽霊屋敷の敷地だよ。足を踏み入れると二度と戻れないらしいよ」
マーガレットの瞳が輝きます。
「すごいわ、呪いの屋敷なのね! ぜひ呪いの正体を探りましょう」
ずんずんと歩いていくマーガレットについていきながらカイルは「趣旨が変わってるぞ」とぼそりと呟きました。
森は手入れされないまま、てんでに枝を伸ばし、絡み合い、下草はぼうぼうと、まったく歩きにくいのでした。マーガレットは慣れない草むらに足をとられて、なかなか前に進めません。
「お手をどうぞ、レディ」
「まあ、ご親切に」
マルセルが差し出した手をマーガレットが取ると、後ろから絹を裂くような悲鳴が聞こえました。
「だめよ、マルセル!」
「悪い病気が移るわ!」
「病気じゃなくてもキケンよ!」
アンとエミリとモーラがぎゃあぎゃあとマーガレットの危険性を説こうとわめき散らします。髪はボサボサ、服は破れてアザや引っ掻かれた傷、噛まれたあとが腕にも顔にもいっぱいで、危険なのは三人の方だと一目で分かります。
マルセルは気にもとめず、森を抜けていきました。
森は急に切れました。目の前に降ってわいたような館が現れました。小さな城塞のようなガッシリとした造りで、カイルの家が十軒は入りそうです。窓は小さく、まるで外と繋がるのを嫌がっているようでした。
その建物の、城門のように大きな扉の前に、小さなおばあさんが立っていました。丸い顔に丸い眼鏡をかけたかわいらしいおばあさんです。
「なんだい、大騒ぎして。はた迷惑だよ、昼寝から覚めちまったじゃないか」
おばあさんは人懐っこい笑顔を浮かべているのに、ツンケンとした声で文句を言います。
「これは失礼しました、マダム。突然の訪問、お許しください」
「許せるもんか」
おばあさんは孫に話しかけるかのような優しげな表情で続けます。
「どうせお前たちも呪われたババアを見物に来たんだろ。ええ、ええ、私は呪われてますとも。自分の思い通りの顔もできない、声もでない。やってられないよ!」
子守唄を歌っているように見える微笑みでおばあさんは愚痴をこぼします。マーガレットはびっくりして口もきけません。
「マダム、どうかその悲しみを取り除かせてください。あなたの真実の姿を取り戻しましょう」
マルセルの言葉におばあさんは、ちょっと考えこみました。
「あんたたち、呪いをとこうっていうのかい?」
「ええ」
マルセルはマーガレットの背中を押しておばあさんの前に立たせました。
「こちらのレディがね」
マーガレットはぽかんとした顔でおばあさんと見つめ会いました。おばあさんは黙ってマーガレットを観察すると「ふんっ」と鼻息をもらしました。
「できるならやってもらおうじゃないか。呪いのもとは屋敷の中だよ。ついて来な」
おばあさんに招かれるままにマーガレットは屋敷に足を踏み入れました。カイルが後に続きます。マルセルも扉の中に入ろうとするとアンが言いました。
「マルセル、怖いわ、呪いの屋敷なんて」
エミリも言います。
「ねえ、そんな女の子、置いて帰りましょうよ」
モーラが続けます。
「危険に近づくなんてやめましょう」
マルセルは軽く肩をすくめると三人に背中を向けました。
「帰りたいなら、ご自由に。僕はこんな面白いことを見逃すつもりはないよ」
三人は、すたすたと歩いていくマルセルの後を追っていきました。
日暮れて真っ黒な森に、扉が閉まるギィ〜ッという音が響きました。