表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

幕間 星空の街と小さな運び屋

灯が決意を固める話です。

この話から蛍と灯の衣装が変わります。

 長い旅の中で、蛍と灯の服がボロボロになっていた。

 これでは見た目で判断され、仕事に支障が出る可能性が高い。

「灯。金はちゃんともっているな?」

 こくり、と頷く。服の事は蛍に任せれば、灯の服もちゃんとした物に買い換えてくれるだろう。

 街に着いてから、すぐに洋服店へ向かう。

「蛍、後は任せて大丈夫か?」

「モチロンよ。バッチリ可愛いの買ってくるから」

 少し不安ではあるが、ここは蛍に任せる。

 蛍に続き、灯も店に入っていく。僕はといえば、店の前で待機していた。

 街並みを眺めながら、何か仕事の話がないか耳を澄ませる。

「――今日はお星様見えるかな?」

 小さな子がそんな事を言っていた。

 今のところこの街の情報は、あまり掴めていない。

 せいぜい、夜空が綺麗だということくらいだろうか。休む分にはちょうど良いが、資金の事を考えると頭が痛い。

 店の中から賑やかな声が聞こえた。おそらく蛍と灯の声だろう。

 ――灯の回復は思った以上に早かった。

 初めて人を自分の手で殺め、こちら側にやってきた彼女は、今度は何を望むのだろうか。

「おまたせ、環」

 店から出てきた蛍と灯。

 蛍は赤いジャケットに赤のショートパンツ。内側には黒のタイトなシャツを着ていた。

 その一方、灯は太ももが隠れるくらいの裾の短いローブを着ていた。

「どうかな? 似合ってる?」

「動きやすいならそれで良い」

「ふふん。環はまだまだ褒め言葉が下手ね」

 褒めているつもりはない。彼女達が今の格好で動きやすいならばそれで良かった。

 灯が初めて自分で稼いだ金だけで済んだみたいだ。不幸中の幸いだと言える。

「環さん、どうでしょうか?」

「少し短いが、気にならないか?」

「はい。こちらの方が動きやすいので」

「それなら良い。今日は泊まれる所を探すぞ」

 新しい服を着た二人を連れて、適当な宿や空き家を探す事にした。


 ボロボロの空き家を見つけ、そこを拠点とする事にした。

 部屋も荒れてはいるが、身を隠すにはちょうど良い。

「仕事、あるかしら?」

 窓から外を眺めながら、蛍はそう言った。

「まだわからない」

「そっか」

 それ以上、仕事についての話は続かなかった。

 蛍の隣から窓の外を眺め、人の通り見つめる。望みは薄そうだと、どことなく感じた。

「今日のところは休んでおく。――灯」

「何でしょうか?」

「少し街を歩くぞ。蛍は――」

「ここを見張っておくわよ。いってらっしゃい」

 蛍にこの場を任せ、僕は灯を連れて街中に戻っていった。


 食料として缶詰を持ち歩いているが、今はそれを非常食として取っておきたい。

 昼に食べる分を買い、灯と街を歩く。

「あの、環さん」

「なんだ?」

「どうして私だけを連れてきたのですか?」

 僕を見上げ、そう問う灯に対して、僕は答える。

「社会見学だ。もうすぐ開けた所に出る」

 坂を上り、展望台に出た。この場所からなら、街を一望できる。

 木造の柵に寄りかかり、僕達は街を見下ろした。

 長閑な街並み。歩く街人は、ここからなら小さく見えた。

「絶景ですね」

 眼下に広がる景色を眺めながら、灯はそう零した。

 風で灯のローブがなびき、頭を覆うようにフードが被さった。

「灯、一つ聞きたい事がある」

「はい。何でしょうか?」

 顔をこちらへ向けないで、彼女は僕に返事をする。

 まるで、どんな事を聞かれるか、わかっているかの様に。

「このまま、僕達と一緒に来るか?」

 戻るならば今のうちだと、彼女に問いかける。

 もちろん、もう後戻りなんてできない。ただ、試したかっただけだ。

 すると彼女は小さく笑って、僕を見上げた。

「一度染まってしまったら――」

 フードを押さえながら、彼女は続ける。

「もう後戻りなんて、できませんよ」

 灯の見せた笑顔はどこか悲しげで。

 それでいて、彼女の新たな決意を表していた。

「わかった。だが、今の灯はただの荷物だ」

「わかっています。強くなります」

「覚えてもらう事もたくさんある」

「どれも大切な事です。ちゃんと覚えます」

「後は――」

「環さんに尽くします」

 僕をまっすぐ見つめ、灯はそう答えた。

 今までの灯の言葉とは違う、もっと重たい言葉だ。

「蛍を忘れているぞ」

 そう茶化すと、彼女は目を丸くした。

「え、えっと……」

「冗談だ。灯は僕と契約しているんだ。それで良い」

「……なんとなく、蛍さんの気持ちがわかる気がします」

「余計な事は考えるな。――仕事を探すぞ」

 はい、と頷いた灯を連れて、坂道を下りる。

 先にある街並みは灯から見ればもう、ただの仕事場だろう。

 今までの様に景色を楽しめない。それが僕達というものだった。


「――環。ねぇ、環」

 その晩の事。突然、蛍に叩き起こされた。

「灯ちゃん、外に出ていったわよ」

「……追いかけるか」

 灯の行く場所は検討がついていた。

 空き家から出て、まっすぐ展望台に向かう。

「ここにいたか」

 座って夜空を見上げていた灯に声を掛けると、はい、と彼女が答える。

「綺麗ね」

 灯の隣に座り、僕達も夜空を見上げる。

 空一杯に広がる星の海は、この街の名物だと聞いていた。

 きっと灯は、そんな言葉も覚えていたのだろう。

「星空を見上げるのも、これで最後でしょうか」

 寂しそうに呟いた灯に、蛍はクスッと笑った。

「そんな事ないわよ」

 灯の頭を撫でながら、蛍は続ける。

「だって、あたしも環も、今はこうして見上げているんだから」

 生きていれば、こうして何かを澄んだ気持ちで見る事だってできる。

 僕達の数少ない過去の自分にだって触れられる。

「そうじゃないと、やっぱり面白みに欠けるじゃない。ね、灯ちゃん?」

「……そうですね。だったら、こんな時間を大切にしなければいけませんね」

 そう蛍に答えた灯の笑みは、どこまでも澄み渡っていた。

 今だけは、そんな彼女の姿を見ていたかった。

ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!

新たに決意を固めた灯は、これからどんな仕事に向かうのでしょうか。

一週間前後ででまた更新したいと思っています。

では、また次回まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ