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カンジョウ  作者: 5番目
6/10

邂逅

過去の記憶を思い出させる。

 それから、僕達は語り合った。証明としての愛情と、対価としての肉欲と。その他にも色々な事を。忘れてしまったのか?

 苦しむのは忘れていたいから。怖いのは思い出してしまうこと。あの時の君は都合の良い沈黙だけを愛していた。

 彼女と運ばれたこの病院で、君は苦しんで、そして忘れてしまった。僕の存在と、愛情と全く同価値な愛欲を。ただ綺麗なものだけを見て、それを全てだと思い込んで、自分の足下に散らかる醜悪には目もくれず。なんで僕を見ては頭を抱えたのだろう。僕はそんなにも醜いだろうか?残酷だよね、僕達に明確な違いなどない筈なのに。

 おそらくさ、君は事故の前にも苦しんでいたんだろう。でも、それでも酷いんじゃあないか?酷いというのは君自身に対して、そして僕に対して、それと彼女に対してだ。僕達皆が被害者なんだ。君が悩ませているのは君自身だけじゃない。僕は誰を憎めばいい?誰を恨めばいい?忘れられた者はどうすれば思い出してもらえるだろう?

 彼女はどうする?彼女がどうしたいのか、どうされたいのか、考えた事があるか?僕達みんながこの生き地獄の中に居るんだ。

 目を開けて。白い病室も窓際のベッドも頭の傷も全て現実だ。僕の存在さえも例外ではない。

 僕は思い出したんだ。いや、戻ってきたんだ。この白い病室に。シーツの温もりに寄生して。君の記憶と感情に。

 僕は君に巣食う。それも君が忘れようとしていた愛に。君は必死に忘れようと、鎮めようとしていたが、無駄だろうね。そもそも別たれてしまった事が異常だったんだ。

 君の恐れる内なる欲を、僕は制御する事が出来る。君が無為な言い訳で封じ込めたそれを、僕は正しい形に昇華させる事が出来る。僕は凶暴なんかじゃあないよ。君自身がそうなんだ。

 まだ頭を抱えているのは傷が痛むから?それとも思い出したくないから?どうして分かってくれないんだ?僕も、彼女も全部分かっているというのに。

 ほら、隣のベッドを見て。何か思い出さないか?ほら、整えられたシーツを。君は間違ってもそこに彼女の面影なんて見てはいけないよ。彼女はここに居なかった。彼女は最初から僕の元に在る。君の隣になんて居ないんだよ。

 いい加減今を直視しなよ。君が真に恐れているのは彼女だ。僕じゃない。まだ僕を恐れる振りをして、それを言い訳にして彼女を見ようとしないの?

 君はどうにか情欲を鎮めようとしているが、彼女はそれを望んでいるんだ。

 彼女は君が思うよりも、ずっと醜いし馬鹿だ。汚された聖女は既に堕ちた。君は知らないだろう。知ろうともしなかっただろう。彼女の過去を。僕は知っているよ。僕はそれを望んだからだ。

 思い出して。彼女の傷を。恐れているのは君だけじゃないと、ただ理解すればいい訳ではないが、君にはそうする事しか出来ないだろう。それ以上を望むのなら、いっそ彼女を汚してしまえばいい。そうすれば全て分かるだろう。

 僕達の存在は許されるべきものだ。それを君が証明するんだ。彼女を使って。

 顔を上げて。何も君は一人じゃないのだから。

 今日はここで終わりにしよう。

 これは、君の口癖だったか。君が彼女に、いや、自分に言い聞かせていた言葉。

 今日は、ここまでにしておこう。

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