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カンジョウ  作者: 5番目
4/10

不快

 僕は彼女を見つめている。彼女は僕を見つめていない。彼女はいつもそうだ。

 目の前に居るのは確かに僕なのに、ずっと俯いている。

 僕は何も言わない。彼女も何も言わない。僕達はずっとそうしている。

 僕が彼女に伝える愛情、彼女はそれに沈黙で答える。

 意味を持たない言葉が、ただの音であると。彼女はただそうやって逃げているだけだ。

 愛にも、情欲にも沈黙を守るのならば、僕はどうするべきなのだろうか。

 問い掛ける。君の見ているのは誰だ?と。

 彼女は答えない。

 問い掛ける。君の欲求を満たすのは何だ?と。

 彼女は答えない。

 僕だけを見ていて欲しいのに、彼女の欲求を全て満たすのは僕であるはずなのに、彼女は僕を認めてくれない。

 僕は、望まれざる存在だった。

 彼女の腕を掴む。傷痕を上から撫でる。僕がこの傷口を開けてしまって、閉じる鍵を持ち去ってしまえば、彼女は僕を見てくれるだろうか。

 彼女は力なく俯いているだけ。

 どうして、何も言ってくれないんだ。僕に苦痛を与えられるかもしれないのに、なんで抵抗しないんだ。

 痛みを求めているのか?それとも諦めているのか?

 なあ、その傷はどうして出来たんだ?どうして作ったんだ?痛みを求めていたのか?

 彼女は何も言わない。

 何か言ってくれよ。願わくば、全てを白日に晒してくれ。

 自傷の理由を。虐待の原因を。愛情の本質を。

 彼女がその口を開けて語ってくれれば、全く心配する事もなく、このまま往けるのに。

 知っているんだ。その傷が自分で刻んだものだって。

 知っているんだ。君が愛だとか恋だとか情欲だとかに希望を抱いてはいないって。

 どうしてそんな事をしたんだ?痛かったのか?血はたくさん出ただろうか。本当にそれで癒されたのか?

 彼女は自分の事を語ってはくれなかった。出会った時からそうだった。彼女は他人の話を聞くばかりで、自分については喋りたがらなかった。

 八方美人な彼女が、発する言葉が本心からのモノじゃない事は、僕には明らかだった。

 ずっと相槌を打って、相手を肯定して……。誰もが彼女を聖女だと思っていたのに。

 君の父親だってそう思っていたんだろう。

 それが善い事だと言うつもりはないが、恐らくそれも愛情だったのではないか?面影の判らない程歪んでいるが、歪んだ愛も、また愛なのではないか?

 そんな怖い顔をしないでくれ。

 君は唇を噛んだ後で、必ず涙を目に貯める。

 今日はこれで終わりにしよう。

 君は誰にも愛情を向けなくて良い。

 彼女は、自分だけを愛すればいいのに……。

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