八話
「魔法はね?おつげがあった属性しか使えないんですの。それは絶対ですわ。火に選ばれた魔法使いは火属性以外の魔法を使えないのです。その代わりに魔法はおうようせい?が高いんですわ、ひとつの属性でたくさんのことが出来るのですわ」
そう言って満足そうに胸を張るアリア。恐らく誰かから教えてもらったことをそのまま言ったのだろうが、自分がしっかり覚えていること。また、他者にそれを教えてあげられた事が嬉しいんだろう。
(応用性の部分は危なかったけどな、しかしなるほど。つまり選ばれた属性の魔法を使って見せれば証明になると。しかし雷と闇の魔法で応用性が高いとはどうゆうことだ?よくある小説みたいに闇の中に物を半無限に収納できるとか?雷で体を刺激して速く動いたりとか?夢があるなそれ。まぁ俺の魔力量で使える可能性は少ないが)
「セント?」
いきなり黙ったからか、アリアが顔を覗き込みながら名を呼んでくる。
(可愛い)
「いや、なんでもない。大事な事を教えてもらったな、ありがとうアリア」
「いえいえ、お安いごようですわ。それでセント?改めて属性を教えてもらっても?」
「ああそうだったな、まだ魔法の練習をしていないから見せることはできないが、雷と闇だったよ」
「えっ」
アリアは目を見開いてびっくりしている。
「アリア?」
「あ、あぁ申し訳ありませんわ。少しびっくりしちゃって……あなたは二属性持ち……魔法の才能がおありなんですね?五歳のおつげはハッキリと聞こえまして?」
いやそれが全然聞こえづらくてな、魔力量は馬鹿みたいに少ないらしいーーー
そう笑って言おうと思った、しかし、前世で嘘と見栄っ張りに慣れた口は
「ああ、綺麗に聞こえたな」
と、笑って言ってしまった。
(あああああ俺のバカ!!これじゃただの嘘つきな嫌味野郎だ!今世はまっすぐ生きようと思ったじゃないか!!)
そう思ってももう遅い、今更「あ、いや嘘だ、カッスカスで聞こえなかった」と言い直す勇気はセントにはなかった。
「凄いですわね………セント…」
アリアは俺の言葉を嫌味とも思わず、素直に尊敬と羨望の視線を送ってくる。
何故だろう、前世では俺がついた嘘を信じた者が尊敬や羨望の眼差しを向けてきても、気持ちいいと、偽りの尊敬でも楽しいと思っていたはずだ。
しかし今はアリアから送られてくる視線が痛い、アリアの目を見れなくなって俯いた。
「セント?どうしましたの?」
いきなり目をそらし俯いた事を心配したのか、不安そうな顔でアリアが聞いてくる。
だけど今はそのアリアの優しささえも痛かった。
(やばい、早く逃げなきゃまだ幼さい俺の精神がまいって泣きそうだ)
「アリア、アリアはまだ属性調べ終わってないんだろ?」
「あ、あらそうでしたわ。セントとのお喋りが楽しくて忘れていました」
そう言って照れ笑いを浮かべる、その笑顔は五歳という年齢に相応しい笑みだった。
「じゃあ、アリア。俺は母様と父様に属性を教えに行くよ」
「ええ、私も自分の属性を調べてきますわ。セント、魔法が使えるようになったらいつか是非見せてくださいまし、雷の魔法は美しいとよく聞きますので」
(俺は魔法が使えるんだろうか………あんなカスカスに聞こえるレベルの魔力量で……)
それでもここまできて「無理だ」なんてことは言えなかった。
「ああ、解った」
無理矢理笑みを作って言った。
アリアは俺の笑みを見て何か言おうと口を動かしかけたが、ゆっくり口を閉じた。
この時アリアが何を思ったかは解らないが、何か気を使われたことだけは解った。
「魔法学園には十歳から入学する決まりですわ、だからセント。十歳になって魔法学園に入学して、また会えたなら、その時に雷の美しい魔法を見せてくださいな」
そう言って優しく笑う彼女に、見蕩れてしまった。
その笑顔を見ていると素直になれる気がして
「俺に………美しい魔法など出来るかな………」
「できますわ」
すぐに返事は帰ってきた。
「セントなら出来ますわ、それにユーラスって英雄のユーラスでしょう?」
その言葉に思わず俯いてしまいそうになる、俺は英雄の才能を受け継いでいないから。でもそれはいけない。
俺は頷いた。
「なら出来ますわ、知っていまして?魔族の王を倒すことは、昔は不可能と言われていたらしいんですの。でも貴方のお母様とお父様は魔族の王を見事倒しました。あなたには不可能までも可能にできる力が流れているのですから、セントが信じれば、信じさえすれば、なんでもできますわ」
その言葉に、胸が締め付けられる感覚がした。俺はこんな優しい子に嘘をついている。
アリアが言ってくれた言葉が嬉しかった故に、自分への嫌悪感も大きかった。
(それでも)
「ありがとう、アリア。アリアのおかげで頑張る勇気が湧いてきたみたいだ」
(そうだ、どんなに嘘つきでもどんなに才能がなくても)
「あら、私は思ったことを言ったまでですわ」
(美しい魔法を見せる)
そう、決意した
「セント、また会いましょう」
「ああ、アリア。次は魔法学園で美しい魔法を見せると誓う」
(絶対に)