五十八話
お久しぶりです。
「随分と遅かったなー英雄サマ」
「君もその部類なんだけどな」
「だから私は時間通りに此処にいるだろー?」
六塔七階、通常の教室とは違い机や椅子は一つも見当たらない。広さも二倍以上あるだろう。
また教室の窓にあたる部分が全てステンドグラスなのも大きな違いになる。ライクと共に教室のドアを開けたセントに飛んできたのは決闘相手からの言葉だった。
にひ、と八重歯を覗かせて笑うフリュ・アルトレスタの背後でステンドグラスが七色に光る。その輝きが歪んでいるように見えるのはその少女から溢れ出る魔力のせいか。
「すまないな、フリュ君。途中ちょっとしたアクシデントがあってね、少し遅れる事になってしまったよ」
今にも魔法を行使しそうなフリュにライクが先手を打つ、その後ろでセントも少女に向かって小さく頭を上げた。もちろん悪いとはかけらも思っていないが。
そのセントの姿を見て、フリュが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「ふん、相川らずプライドのないやつ。クルトールの次はマクリアスに隠れるのか?」
「敵意満々だね。言われてるぞ?プライドのないセント君」
「・・・・・・・」
溜息を吐いて少し目を伏せた後、セントはライクの後ろから前へと足を進める。
そのまま歩き、フリュの10歩程の距離で立ち止まった。
「くだらない言い合いは結構です、が、生徒会長。いい加減この決闘の意図を教えて頂いてもよろしいですか?それから、先生方の動きの意図まで」
「それはーー」
「おい、まだ無駄話をするのか?さっさと」
フリュの言葉を遮るように、バチ、と破裂音のような音がした。
セントの足元で小さく青白く光る雷が、威嚇するようにセントの周囲を這いずり回る。
そして、それを出している本人はその整った顔に優しい笑みを浮かべてフリュに手を上げながら言った。
「フリュ、待て、ですよ?」
ステンドグラスの七色が、炎の赤に呑み込まれる。セントの言葉が終わると同時にフリュの背後には教室を覆える程の巨大な炎のカーテンが舞い上がっていた。
常人なら息をするのも困難な熱風の中で、ピクリとも顔を歪ませないセントに苛立ったかのようにフリュが殺気を出した。
「騎士への侮辱は許さないぞ?セント・ユーラス」
肺を焦がすような熱風の中で、ナイフのような殺気がセントを突き刺す。
ついでに言えばこの教室にはライクもいるのだが、二人とも全く意に介していないような表情で立っていた。
「それを出して気が済んだのなら、本当に少し待っていてくれるかな?無駄に魔力を消費したいのならそれもそのまま出しているといい」
「はっ、決闘は魔法禁止なんだろ?じゃあ関係ねーよーだ」
(ガキか、というか守る気はあったんだなそのルール)
意外だなとセントは思う。
もう既に魔法を行使しているのに、決闘で使ってこない筈はないと思っていた。
(こりゃ怪我が少なくて済みそうだ、俺の綺麗な顔に火傷で後でも残ったら大変だからな。さっさとその火も消しやがれこっちは死ぬほど辛いの我慢してなんでもない顔して喋ってんだぞガキィ。まぁとにかくなんにせよ)
「・・・・・・なんにせよ、説明の義務と、それを話す権利はあなたにはある筈です。それに君も気になるでしょう?」
ライクの方を向きながら目線でフリュに問いかける。
その視線に鼻を鳴らしながら、面白くなさそうに少女は答えた。
「べっつにー、って言ったら嘘になるなー。確かに決闘を望んだのは私だけど、別に本気も本気で言ったわけじゃないし、要望が通るとも思ってなかった。なのにこの短時間で決闘の用意は整えられて、あげくに追加されたルールは魔法禁止。それに他の連中はどうしてる?ここに教師が一人もいないのは、向こうは向こうで何か企んでるんだろ?」
(・・・・・・こりゃ予想外、ただのバカかと思ってたが見込み違いだ。こいつもしっかり英雄の頭受け継いでやがる。十歳でその予想はありえんだろ)
フリュの言ったことはセントが感じていた違和感そのものだ。十歳という若さでこの読み、セントは若干胃が痛くなった。
そんなセントを気にすることなく、少女が続ける。
「そうだな、まるで私たちに魔法を使わせたくないみたいだ。魔法無しで走ったり、決闘をさせたり」
「そうですね、それについでに言えば今ここにいる二人はーー」
「「無詠唱の魔法使い」」
同時に同じ事を言ったのが嬉しかったのか、フリュがにっと八重歯を見せてセントに笑いかけたあとに、すぐにはっとして頭を振る。いつの間にか背後の炎も消えていた。
不覚にも可愛いと思ってしまったセントも軽く頭を振り、考えを纏める。
そもそもクラスで集まった時から小さな違和感はあった、いくら何でも少なすぎるクラスメイト。そして
すぐに行われた魔法抜きの走り込み。
あの面子でなぜ魔法を禁止したのか。そして何故フリュの決闘の申し込みが通り、魔法禁止というルールが追加されたのか。それも、魔法騎士という魔法無しでも十分すぎる戦力を持った少女に対して。
まるで魔法学園が好都合と言っているかのようだ、この戦いは。
「あははは!なんだ、犬猿の仲に見えて実は息ぴったりじゃないか」
そこまで黙っていたライクが、大きな笑い声を上げる。
いつもの鋭い目に笑みで浮かんだ涙を指で拭いながら、それでも抑えられないというように笑っている。
「まぁ君達が気になる事は大体分かるし、理由も知ってるよ。だが二人とも。僕はこの戦いの事も先程聞いたんだ、それも先生方からではなく、生徒会の生徒から。それまでは本当に知らなかった、つまり先生方は僕に答えを提示していないんだよ」
「・・・・・・・」
「そう睨むなよ、言いたい事は分かる。けどここでそれを明かすのは僕の役目じゃないのさ。いくら生徒会長といえど一生徒、教師の意向には逆らえないだろう?」
「ではこの戦いが終わった後に教師に聞けと?」
「それでいいんじゃないか?そこまで違和感を感じているなら答えはもう目の前だけど」
薄く笑うライクをセントが見つめる。
それでも変わらない薄ら笑みに、セントは内心ペテン師めと自分の事を棚に上げまくった罵倒をする。大ブーメランだ。
「さ、話はここまでだ。僕はここで君達の決闘を見る目となる。存分に、正々堂々魔法抜きで戦いたまえ」
パン!と手を叩きながらライクがあっさりと告げる。教室の床に描かれた魔法陣が薄い光を放ち始めた。
そして、ライクが叩いた手の音がステンドグラスに反響して教室に鳴り響いた時にはもうーーセントの防御不可能な距離に小さな拳を構える少女がいた。
「やっとだな、難しいことは後にしようユーラス。まずはーー小手調べだ!」
その言葉と共に、セントの腹部に魔法騎士の才を持った少女の鋭すぎる一撃が突き刺さった。
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