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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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五十七話


「膨大な魔力、無詠唱による魔法の行使、強靭な肉体」


ライクは一本ずつ指そrを上げながら説明する。

気障ったらしい仕草だが、彼の所作にはどこか奇妙な愛嬌があった。


「この世全ての魔法使いが欲しているであろう才能だな。あそこまで女神に愛されている人間もそういないだろう。あぁそういえば今私の隣にもいたか」


「……僕ですか?」


「君しかいないだろう」


二人で歩いているセントとライク以外に人影はない。

成程確かにセント・ユーラスは女神に愛されているかもしれない。傍から見れば、だが。

大英雄の息子として転生したのに魔力を極僅かしか与えられないという嫌がらせを受けているセントは恐らく女神様に死ぬほど嫌われているだろう。

なまじ質の良い体を与えられている分若干の悪意を感じる。

セントにとってはライクの素直な称賛も皮肉にしか聞こえなかった。

正常運転である。


「まぁそれは今関係ないか。フリュ君の話だ」


さっさと話せ、とセントは内心で毒づいた。


「そんな天与の才を持ちながらも彼女は魔法騎士と認められていない。それが何故かはもう話しただろう?」


順序立てて話すその様子は教師と何ら変わりなかった。

先程の話という事は。


「武器が十全に扱えないからですか?たったそれだけでアルトレスタ家は彼女を認めないと?」


逆に言ってしまえば、フリュ・アルトレスタの欠点はそこだけという事になる。精神面を除けばの話だがーー明らかなオーバースペックな事に変わりはない。


「かの騎士達にとってはたったそれだけの事でも大事なのさ。良くも悪くも完璧主義。洗練され、研ぎ澄まされた力にこそ正義と強さが宿るという信念が魔法騎士という存在を作り上げている。そこに一つでも綻びがあれば彼らはそれを許さないだろう」


『完成された英雄』。

そしてその家に生まれる者の定めは、再び『完成』の二文字なのだろう。

だが、誰しもがそんな強さを持ち合わせている訳がない。人間はそこまで完璧に生きていける生き物ではない。


「だが、フリュ・アルトレスタはそれを拒絶した。彼女と一度会えば解るだろうが自由奔放な性格だろう?あそこまで騎士に向いていないのも珍しいがね」


ライクは軽い口調で話す。

だが帰ってきた答えは僅かに強張っていた。


「……逃げ出したと、そういう事ですか?」


セントから発された言葉、そしてその声音には明らかな怒りがあった。

少しの驚きに隣を見れば、いつもの見ている者を安心させるような柔らかい微笑を浮かべている少年の姿は無い。

前髪で目は隠れていて横からは見えないが、恐らく笑ってなどいない。


「…………誰もが強く在れる訳ではないよ。そうありたいと願っていても、どうしても耐えられないこともある。君が彼女を怒る権利は無いだろう」


大きな力を持った子供はよくこの感情を見せる。

力は責務だと、責任だと考える者たちが多い英雄や貴族の世界で育ってきた子供達は他人の弱さを認めない事が多々あるのだ。

ライクもこの年はそうだったかもしれない、もうあまり覚えていないが。

育った家があのユーラスならそれも仕方ないのかもしれないとライクは思う。


(世界を救った英雄。人の為に在れ、それこそがサリエル・ユーラスの心だった。その教えはもうセント君に伝わってーー彼は同じ英雄が力を持て余すのを許せない)


だが、それでは駄目だ。

その考えはいずれ彼自身の身を滅ぼすだろう。幾ら英雄だったとしても、強くあり続ける事など出来はしないのだから。

だからここで正す。生徒会長としてーーこのまぁまぁ気に入っている新入生を導くのも役目だと感じた。


「君は強い。間違いないよセント・ユーラス。大きな力を持っていて、人を救える心の強さも持っている。いずれ君はこの世界の為にと願い、大きなことを成すだろう。英雄と、そう呼ばれる日が必ず来る」


ライクの話をセントは黙って前を見たまま聞いていた。見間違いかもしれないが、君は強いと言われたときに体が小さく震えたかもしれない。

まるで何かに怯えるように。


「だがーーその様子だと薄々気付いているだろう。君はこのままだときっと一人になる。人を助け、世界を救ったとしても、きっと君のすぐ傍に立っている者はいない」


力を持つものは、力無き者を助けよ。

その考えはとても美しいものだ。綺麗で、気高く、理想にすら思える。

英雄の血には、それを可能にする力がある。女神に与えれた祝福はとても大きいものだから。

だが英雄だって、一人の人間だ。

嬉しければ笑うし、悲しければ泣きもする。辛ければ逃げるし、立ち止まって動けなくなる時も絶対にある。

それに対して、弱いと怒りを抱くのは大きな間違いだ。


「君は頭も良い。そして何よりーー優しいだろう。強さだけを求めてはいけない、誰かの逃げ道になる事も、人を救うという事だ」


フリュ・アルトレスタは確かに逃げ出した。

だがそれは決して他人が責めていいものではない。家族ならば、許されるかもしれないが。

何より彼女自身が一番分かっている筈だ。逃げた者が誰よりも後悔を抱いているに違いない。


「この決闘を通じて、君は変わらなければならないよ、セント君」



お嬢様口調のキャラが書きたい。

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