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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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五十四話



魔法学園には前にも言ったように様々な施設が存在する。

無数にある塔の中には教室、生徒の住処は勿論のこと、魔法の研究施設や実験場など紹介しようとすればキリがない程だ。

毎年魔法学園の新入生はまずこの学園内の施設の場所やそこへの経路などを覚えるのに苦労するのだが、実験場などはよく実験魔法の影響で破壊され場所が転々としているので覚えても無駄かもしれない。

試験場でなくとも日々魔法が飛び交う場所だ。新しく出来た教室が一日で火事現場になりましたなんてことも無くはない。

つまり、何が言いたいかといえば。


「場所が解り辛い……迷路みたいだ」


青空のような瞳を細めて、溜息を吐きながら歩く。

六塔の七階、渡された地図に場所は示してあるがセントは未だに辿り着けていなかった。

指定された時間は無いものの、今から向かえと言われたからには既に準備は整っているのだろう。


(大体急すぎるんだよこの決闘も……いつ決まったかは知らんがもっと早く言ってくださいよぉウル先生。出世できないぞお前、せいぜい係長止まりだ)


前世で碌に仕事もしていない男が何を言っているのか。

意味もないような事ばかり考えていれば、もう何度見たかも覚えていない大鳥のマークが目に入る。

第七教室のある塔に案内された際ライクが使った魔法、それの使用許可のようなマークだとセントは認識しているが。

廊下の壁に大きく描かれたその紋章に静かにセントの指が触れる。指先から伝わるのはどこにでもある壁の冷たさだけだ。


「……魔法の使用許可にしてはこの紋章は存在し過ぎだ。この六塔に入ってから登った階段は4つ、そのどの階にもこの紋章が描かれていた」


地図に従い六塔に入ったは良いが階段の場所は迷路のように存在している廊下の先だった。そのせいでセントは長く歩いている。

その、長く歩いた時間の中でセントが見た大鳥のマークは既に五つに及ぶ。

六塔の一階に二つ。

二階、三階、そして今五階に続く階段の前で五つ。

確かに違和感を感じる程の多さだ。実際今こうしてセントは紋章に触れて理由を考えている。

その考えの延長で、セントはイメージしてしまった。

そして自分があの生徒会長の魔法をイメージしていることに気付かずに、呟くように言葉を出した。

細く、濃ゆく、青く。迸る(・・)ような雷を思い出しながら。


「紋章のある場所でしか使えない魔法。生徒会長とその周りの人間の体を雷に変えた……『迅雷』(・・)ーー!?」


バチ、と。

迅雷とセントが呟いた瞬間に大鳥の紋章が青い輝きを放ち始めた。直後に、体に感じる違和感。

精霊に直接魔力を流し込まれた時を思いう出すような、強烈な不快感と熱。


「っぁ……何が……え?」


紋章の放つ輝きに目を細めて、次いでセントは自分の体に感じる違和感へ目を向けた。

そうして目に入ったのはーー自分の足の部分にある、青い雷の糸だった。


「……っ!」


(うおあ!な、なにこれ!?)


本来存在していなければいけない筈の場所に足は無く、代わりにあるのはバチバチと音を立てて光る雷のみ。

焦りと混乱、そしてさっきよりも大きな不快感がセントを襲っていた。


ーー何故突然に!


頭の中で叫びながらも、なんとか魔力を集中させる。

自分の魔力を操作し始めたあたり、恐らくセントも可能性に気付いている。

つまり、これは意図せずして発動した超高難度魔法であるという可能性。ララ・ユーラスとライク・マクリアスの二人のみが使える、瞬間移動に等しい「体の属性化」。


「……っ!戻れ!固まれ!」


魔力を集中させ自分の足が元の形に戻り固まるイメージを頭に浮かべる。それでも一向に糸状のままの雷に、混乱を超えた恐怖が襲い掛かてきた。


(イメージしても戻らねぇ!なんで!理由、理由!どれだ、どっかに見落としがーー)


ある。紋章が輝いた時に感じた、強烈な不快感。

壁に触れていた手から流れ込んでくるようだった膨大な魔力。

そして、初めて生徒会長がこの魔法を見せた時も感じた違和感を刹那の間にセントは思い出した。


(この魔法を使えるのはーーララ・ユーラスしかいない!生徒会長はまだ完全に使えていないんだ!だから紋章で魔力を強化して発動させていた。紋章は使用許可なんかじゃねぇ!魔法を確実に発動させる為の補助装置だった!)


世間に伝わっているこの魔法は、使い手が『救世』ララ・ユーラスしかいないことになっている。世界で、たった一人だけがこの属性化を使えると。

だがライクは確かに魔法を成功させたのだ、正式に使い手と名乗れる程のレベルで。

セントとカナリア、二人の人間と自分自身を雷に変えて瞬時に移動を完了させた。

セントが感じた違和感はーー何故ライクがそれを魔法学園の外に公表しないのかという事だった。

あれほどの魔法を使い手と名乗れるレベルまで発動できる、そんな魔法使いが魔法学園の生徒会長ですよと言ってしまえばいいのに。

それを公表しなかったのは、ライクでさえまだ使いこなせていないからだった。紋章という補助機能を使って発動が可能という事。

そして今ーー。


(その補助装置が発動してやがる!無理やり発動された形だが、足だけで済んで良かったと思うべきか!?魔力量がもう少し多ければーー)


この魔法を全く操れない人間の脳が雷になれば。

それは、死とまったく変わりはないのではないか。


(……うぉ……!想像したらこえええ!でも今はそんな場合じゃねぇ足を戻さないと……!)


考えている間にもイメージは続けている。だが雷が足の形に戻る気配は一向にない。

寧ろ徐々に離れているようにも見える。散り散りになって、まるで花火のようだ。

夜空に打ちあがり、華々しく輝き咲いて、そして儚く消えるような光の糸屑。

徐々に足の存在が遠のいていくような薄く鋭利な恐怖にーーセントの仮面も限界寸前だった。


「くっ……そ!」


消える、溶けるといった方が正しいかもしれない。静かに、しかし確実に雷は消滅する。そのビジョンがセントの脳内に浮かんでいた。

混乱と恐怖に支配され、声を荒げたセントはーー大鳥の紋章が再び輝いたことに気付かなかった。


パン!と破裂音に似たような音が響き、青い雷が周囲を飛び回る。

やがて青い光が収束するその中心にーーライク・マクリアスの姿があった。




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