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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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閑話:ユリサール・エンジの衝撃





 そんなこんなで、何とか目的地である第六教室の前までたどり着いたユリサール。

決してここまでも楽な道では無かった。案内役は確かに存在していたが、何と道順を口頭で説明し始めたのだ。

ユリサールは戸惑った。しかし戸惑っている間にも案内役(?)の案内は進んでしまっている。

勿論ユリサールは頭が悪い訳では無い。寧ろ聡明と言っていいだろう。

幼いながらも高スペックな体は、淡々と告げられる道順も記憶している。が、予想を裏切られたショックは決して軽くなく、所々覚えていない道が出来てしまった。


道順を言い終わると役目は終わったとばかりに早足で立ち去ってしまった案内人。いや、案内人なのかも怪しくなってきた。

もう一度聞き直したかったユリサールだったが、早歩きのその男に声をかけることは叶わなかった。


「…………カナリア……」


今のユリサールを傍から見たら可哀想の一言で表せる。

その存在を口に出し、己を鼓舞するように頷くユリサール。先程一人でも大丈夫と思ったのだ。口先だけではエンジの名が廃る。


「大丈夫だよ……カナリア……!」


カナリアという名はもはや、ユリサールにとって勇気の出る魔法の言葉になっていた。










 そして学園内を彷徨ったユリサールは、奇跡的にⅥの文字を見つけるに至った。

目の前の扉を開ければゴール。完全に勝ち組だ。少なくともユリサールにとっては偉大なる一歩。

一人で成し遂げた奇跡なのだ。


「わ、わたし……ユリサール……ぅ……」


興奮と不安でいっぱいいっぱいなユリサールはもう自分の行動が解らなくなっている。訳も分からず扉に名乗ってしまう程に。

しかし時間は有限、いつまでもこうしている訳にもいかない。

良を大きく吸って、吐く。

そしてキッと目を鋭くさせて、ドアを勢いよく開いたーー。

















「ユリは大丈夫かしら……」


見捨てたーー訳では無いが、多少強引に一人にしてしまった少女を想う。

さすがに今頃は教室に着いている筈だ、とういうか着いていなければ悲しい事になる。

いつも二人一緒に、まさに一心同体の状態で過ごしてきたカナリアとユリサール。

こうして離れるのは初めてと言っても良い程だ。

心配だと思う反面、仕方がない事だと思う気持ちもある。幾ら姉妹のように過ごしてきたからと言って、ずっとこの先も一緒にいる訳にもいかない。

複雑な心境のカナリアだった。


「カナリア、何か悩んでるの?」


そんな事を考えていたら、隣から声が聞こえてきた。

耳に溶けるような、美しい声。


「いえ、ちょっとユリの事を考えてただけよ、セント」


セント・ユーラス。偉大なるユーラスの息子、優しい恩人とも言える人だ。


「あぁ、ユリサールか……確か、第六だったかな?」


「そう書いてあったわ」


部屋の壁に。思い出すたびにもっと普通な伝え方は無かったのかと思う。


「僕らが第七だから、多分ここの次に特殊なーー優秀な子が入るところかな」


特殊、から優秀に言い直したのはユリに気を使っているから、なのかもしれない。

相変わらず優しい人だ。


「ふふ、特殊で大丈夫よセント。私もユリも普通じゃない事なんてとっくに解ってるわ?勿論、あなたもね」


そう言えば、セントは苦笑した。


「余計な気遣いだったかな……まぁ、ユリサールが心配なのは解るけどーー教室に着いてさえしまえば大丈夫だと思うよ?」


「あら?それはどうして?」


「それはね」


そこで言葉を切って、セントは少しだけ寂しそうな顔をした。


「ここにくると思ってた子が、多分第六にいるから。優しくて聡明で、まるで花の様な女の子がね」


そう言って薄く笑うセントに胸が苦しくなった。

セントが他の子供の話をすることはこれが初めてだ。それも、女の子の。

先程の表情から察するに、セントはその女の子に来てほしかったのだろう。

この第七教室に。


「……その子は、どういう方?」


薄暗い感情かもしれない。その子がここに来なくて良かったと思ってしまうカナリアが、確かにここにいる。

そえでも正々堂々戦えるのならば、問題は無いだろう。

そのライバルを、セントに聞いた。

するとセントは何かを言いかけて口を開きーーそしてくすりと笑った。


「あの子を説明すると長くなってしまいそうだ。だから一言で言わせてもらうとーー」


何かに見惚れるような顔で。


「大輪の薔薇かな」
















ユリサールは、カナリアと母親が一番この世界で綺麗だと思っている。

否、思っていた。

第六教室の扉を開けて、その姿を見るまでは。


眩い日差しを受けて輝く髪は、黄金の波のようで。

自分と同じ物な筈の制服も、その少女が着ているとまるで違うものに見える。

淡い朱の唇、髪色と同じ金の瞳。

その瞳がーーこちらを捉えた。


「良かった、私一人かと思っていました」


透き通る声が、ユリサールに届く。


「初めまして、私はアリア・ラ・リア。アリアと呼んでください」



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