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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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サリエル・ユーラス

僕の名前はサリエル・ユーラス。

ユーラス家の長男として生まれ、兄弟はいなかったために流れのままユーラス家頭首となった。

そして今は愛らしい妻と、聡明で落ち着いた息子と共に暮らしている。


妻であるララとは魔法学園で出会った。当時から既に水の魔法を自在に操っていた僕と、火の魔法を自在に操っていたララは学園でも有名人だった。

学園で行われた魔法試合でララとあたったのが、ララに恋愛感情を持つようになったきっかけだった。それはララも同じだったようで、両想いになるには時間はかからなかった。


そうして魔法学園を卒業し、僕達は結婚した。

結婚した直後に魔族の王を倒す旅に行かなければならなかったが、それも今となってはいい経験だったと思っている。だが、もちろん人間にも死人は大勢出てしまった。それを忘れてはいけない。


そんな僕には自慢できる息子がいる。

名を、セント・ユーラス。

生まれたすぐは中々泣き止まず困ったものだった、しかし今思えばあの時の涙は貴重だったかもしれない。何故なら、セントはその後全く泣かなくなったのだ、ぐずることはあっても泣かない、夜泣きもないのである。時折真顔なのが少し面白かった。


時が過ぎるのは早いもので、セントは五歳となった。

五歳の誕生日の日、セントは笑顔でおつげがありました。と言った。ハッキリ聞こえました、とも。


しかしそのときセントが浮かべた笑みには、隠しきれない暗い感情があった。ララは自分の事のように喜んでいるので気付いていないかもしれないが、僕にははっきり解った。でも理由はさっぱりだ。

普通は魔法が使えると解ると子供はとても喜ぶ、なにせ魔法が使えるというだけど優遇されるからだ。



もしかしたらセントは魔法が使える事が嫌だったのではないか?と僕は思う。

確かに魔法が使えるということは喜ばしいことだ。しかし、いい事だらけとゆう事でもない。魔法が使えるからこその闇もあるのだ。

魔法が使える者は、どんなに平和に暮らそうとしても危険がやってくる。魔法は大きな力だ、それを狙う者は多いし、自分の魔法に押しつぶされる危険もある。


セントは聡明だ、喋れるようになるとすぐに教育を望み、貪欲に知識を求めていた。

もしかすると、魔法が使える故の危険を理解していたのかもしれない。


大丈夫だと言ってやりたかった、がこればかりは魔法を使うもの自身がコントロールしなければならない事だ。この事実に気付くのは普通10歳を過ぎた頃だ。10歳は魔法学園に入学出来るようになる年でもある。

だがセントは聡明故に五歳で気付いてしまった、その恐怖は大きいだろう。

何もしてやれない事が悔しかった。




実際には魔力量が少なくて悩んでいたのが顔に出ていただけなのだが、息子が自分たちに嘘をつくという発想がないためサリエルは盛大な勘違いをした。





翌日、セントの魔法属性を調べるために王城に向かうことになった。

属性を調べるためには、王城にある魔法陣が描かれた部屋で一人になればいい、そこでまた女神のおつげがあるのだ。

魔法が使えると解る時のおつげがとは違い、魔法陣が必要となる。その魔法陣は複雑で、家に描く事などは出来なかった。


属性を調べる前に王様にセントを紹介しなければならない。

王は前々から息子を見せろと言っていたのだが、中々タイミングが合わず、結局ここまで延びてしまった。


(その事をセントに伝えなければな、しかし緊張させ続けるのも悪いと思い今まで黙っていたがいきなり言われた方がよっぽど緊張すんるじゃないか?失敗したな)


そう思いながら馬車の外を見る。するとまもなく王城が見えてきそうだった。

自分が最初王城を見た時は驚いたものだ、こんなに美しい城があるのかと。

セントが王城をみるとどんな反応をするか楽しみである、基本的にセントは落ち着いていて、大きく感情を表に出さない事が多い。五歳とは思えない言葉を言ったりするのでどうしても大人びて見えてしまう。

そんなセントが王城を見て驚いたり、王への挨拶で緊張したりするところを想像すると少し胸が踊るのだった。


しかしなんとセントは美しい王城に目もくれず王城内へ入ってしまった、馬車内の態度と変わらず落ち着いた様子だった。

期待していただけに残念である。

それだけでなく、なんとセントは王への挨拶をしなければならないと言っても


「解りました、父様」


だけだった、そこに動揺も緊張も全く感じられない。

緊張しないのかと聞いてみたら緊張しすぎて言葉も出ないと言った。

なるほどと思った、それから感情を隠すのがうまいな、とも。


セントはユーラス家の息子が緊張などしていたら他者から侮られると思ったのかもしれない、だからこうして緊張など少しも出さず、落ち着いた表情で歩いているのか。

だから僕はそう言ったセントに出来るだけ穏やかな声を出して言った。


「そうなのかい?まぁ緊張しすぎるのもいけないが、適度な緊張は大事だからね。さ、話してる間に着いたよ」


そう言って扉の前に立つ、セントは扉を見ても表情は変わらない。

傍から見れば落ち着いた物腰だ、凛とした表情からは気品すら漂っている。

しかし、その裏側では緊張を必死に押し殺しているのだ、セントは。

ユーラス家の誇りを守ろうとしているのだ。


そんな息子を誇りに思っていたら、兵の二人が一礼し、ゆっくりと扉を開けていった。


さぁセント、頑張れーーー心の中でそう息子に言った。





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