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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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四十五話

 話に入るタイミングを逃したセント、こういう所はやはり前世の性格上しかたないのかもしれない。

セントは前世で学校にいた記憶が少ない。中学校から様々な理由で登校するのをやめてしまっているからだ。同世代の会話に入る、という経験がそもそもない。


だがセントもただ眺めていたわけではない。カナリアとセラ二人の会話が落ち着いた所で話しかけようと決意していたのだ。

だがここでプラン・ルルという邪魔者が入ってしまう。可哀想(?)な事に、ここでセントの心は折れた。


(もうここは寡黙なクールキャラを目指すか……)


セントの心の声まで見ているから解らないが、割とこの男は多く喋る事が少ない。

基本的に最小限の会話で済ませる事で、できるだけ内面を読ませないためーーなのかは知らないが、とにかくセントは寡黙と言っても許されるかもしれない。


(喋らなければ絡まれる事も少ないかもしれないな……それにしても、まさかあの鈍そうな女がルルの娘とは……)


 まだ屋敷にいた頃、セントはサリエルからこんな話を聞いた。曰く、ルルの女性には隠し事ができない、と。

それはつまり魔法によるものなのか、とセントは尋ねたが、そういう訳でもないらしい。

ルルの恐ろしい所は洞察力、観察力の異常な高さ。小さな違和感も見逃さず、相手を翻弄するーーなんと、まるでセントのようだ。


そんな話から、セントはルルの子供を警戒していたのだ。この第七にいる可能性は高いと思っていたが、案の定自分の目の前に存在している。

が、あまりにイメージと違うではないか。カナリアとセラと話す少女は今まで見てきた英雄の子供とはかけ離れている。


(こりゃルルの子供は残念だな……俺にとっちゃ好都合なんだが)


残念の度合いで言えばセントも負けていないのだが、それは言わぬが花なのだろう。

そんな事を考えているとーーなんとなく、視線を感じた。


(……なんだ?)


前世では視線を感じる、なんて事は無かったのだが、ララ・ユーラスとサリエル・ユーラスの血を引いた高スペックな体が無意識にでも反応する。

感じる視線の方を向けば、一人の少女がこちらに歩いてきていた。


(……これは)


ずば抜けている、とセントは思う。今までアリアやカナリア、様々な美少女を見てきたがーーこの少女の美しさはもはや異常だ。


髪色は白に近い銀。窓から入る光を浴びた長髪が眩く輝き揺れている。セントの髪色に似ているかもしれない。


(大袈裟な言い方だがーー神々しい(・・・・)な)


美しいという表現が陳腐に聞こえるほどに整った顔立ち。淡く微笑んだ顔はどこか慈愛に満ちているように見える。


そうして、少女がセントの席の前に立つ。


「あなたが、セント・ユーラス様ですか?」


(いかにも)


なんて事は勿論言わない。


「……君は?」


彼女が近づいてきていた事に気付かなかった風を出しながら答える。周りを気にしていたとは思われたくない小さな見栄だった。

胸に手を当てながら、少女が答える。


「ジャンヌ・ホーリアと申します。ジャンヌとお呼びください」


セント張りの柔らかい笑みで話す少女ーージャンヌ。

セントに向ける視線は何故かやたら熱い。


(なんだこの子、ホーリアなんて聞いたことが無いぞ……しかも名前……)


セントの思うジャンヌとは全く関係がないのだが、歴史上の人物を想像してしまうのはしかたないのだろう。

見た目も確かに聖女に見えるのだ、このジャンヌという少女。

セントが若干引いてしまう程熱い視線には一体何が含まれているのか。


「それじゃあ……ジャンヌ?何かな?」


ニコリと笑顔を作る。第一印象、大事。


「はい、偉大なるユーラスの新しき光。一度お会いしたかったのです。それとーー試合場での一件、素晴らしかった」


(おいちょっと待て)


さらりと問題発言をするジャンヌ。さすがのセントも聞き逃せない。


「ちょっと待ってくれジャンヌ。君はあの試合を見てたのか?」


「はい、目に焼き付いております」


(そういう事じゃねぇんだよ)


どこかズレている少女だ。


「そうではなくて、えっと……新入生は試合の時以は部屋の外へいけない規則だったよね?」


キョトンとした顔でセントの話を聞いていたジャンヌだったが、あぁと言って何度か頷いた。


「私は部屋に居ましたよ、セント様。ただーー視ていただけです」


そう言って左目を隠すジャンヌ。暫くそうして、目から手を放すとーーそこには淡く光る、宝石の様に輝く目があった。


「私は光の使い。こうして光を通して、世界を見渡すことが可能なのです。あまり遠い所は、無理ですけどね」


(おいおい……)


ホーリアという聞き覚えのない名に油断していたセントだったが、これは認識を改めざるを得ない。

セントにとって天敵と言ってもいいだろう能力。もはや魔法なのかも解らない。

嘘を付く、という事は、必然的にどこかで辻褄が合わなくなる。そこをどう調整するかが大事なのだが、あの眼はその調整に非常に厄介だ。


「光の使い手は初めて見たな……という事は、僕の属性も?」


「存じております。深き闇と、荒々しき雷。強力なお力です」


(チートだなこいつ……そんな力を持った少女がいる家が有名じゃない訳がない)


しかしホーリアは本当に知らない名。一体どういう事かーー。

考えを巡らすセント。


「セント様」


そこでジャンヌが姿勢を正す。


「どうしたの?」


「はい、セント様」


ジャンヌの白い頬が朱に染まる。


「今ここで、私と婚約の契りを交わして頂けませんか?」


「は?」



セント・ユーラス。前世を含めてーー初めての求婚だった。






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