四十四話
「あぁ、いきなり申し訳ない。名前もまだだったな。俺はセラ・フィール。属性は水で、操作系が得意だ。魔法学校にいる間、よろしく頼む」
セント含め、教室にいる6人の生徒。全員を見渡すようにして挨拶する黒髪の少年ーーセラ・フィール。
堂々とした立ち振る舞いには緊張など一切見られない。
本人としては親しみやすい笑顔を作っているつもりなのだろう。しかし特徴的な鋭い目のせいで台無しになっている。
所謂、目が笑っていない状態に見えるのだ。
「私はカナリア・クルトールよ。属性は……先程の通り。こちらこそよろしくお願いするわ」
カナリアが挨拶を返す。若干言葉が少ないのはセラ・フィールの表情に気圧されているせいか。
カナリアの言葉に「あぁ」と苦笑いを浮かべる。
「さっきは災難だったな。いきなりアレに絡まれるとは」
会話をした事も無い少女をアレ呼ばわりするセラ・フィール。どこぞの嘘吐き程ではないが、中々いい性格をしているではないか。
「だがカナリアの魔法もーー、あぁカナリアと呼んでも大丈夫か?」
カナリアは礼儀の良い者が好きである。セラの言葉に笑顔で頷く。
「大丈夫よ」
「ありがとうカナリア、俺の事はセラでいい。続きだが、カナリアの魔法も凄かったじゃないか」
ちゃっかり見ていたらしい。笑顔のセラとは対照的に、カナリアの表情は曇ってしまう。
「見てたのなら助けてくれても良かったのではなくて?」
カナリアの言葉に顔を顰めるセラ・フィール。
「もしアルトレスタが普通に詠唱をして、入室しようとしている君達に手を向けていたのなら、それは勿論俺も助けたかったが……無詠唱で、いきなり魔法を出したんだ。俺にそれを防げるような実力は無い」
それでも罪悪感はあるのだろう。申し訳なさそうな態度で話すセラに、カナリアも若干理不尽な事を言ったと気付いた。
「そうね、ごめんなさいセラ。八つ当たりだったわ?」
「いや、気にしないでくれ。カナリアは悪くない」
初対面特有の相手を気遣い合うあの雰囲気。十歳の少年少女がやる事ではないが、セント風に言うならこれが偉大なるコミュニケーションの第一歩なのだろう。
そんな時、二人の会話に、若干強引に入ってくる声があった。
「あ、あの!私もお話にいれてください~!」
何故か涙目でそう言ってくる少女。
短く切り揃えられた髪、大きな瞳に。全体的に整った顔立ちをしているが、カナリアやアリア程美人という訳でもない。
普通、と言った感じだろうか。
「あなたは?」
「わ、私はプラン・ルルと申します~、学校ではやくお友達を作れってお母様が……お二人とも私とお友達になってください~!」
語尾を伸ばした、のんびりとした口調でプラン・ルルが話す。仲良く(?)話していたカナリアとセラの姿に焦ったのかもしれない。
「ルル?ルルと言うのは……失礼だが、あの水の?」
「そ、そうです~……私はそんなに凄くないですけど、家族はみんな水の魔法が凄いんです~」
少し言葉がたどたどしい。この少女も第七にいるということは普通ではないのだろうが、この子供らしい話し方は貴重な気がする。
「やはりそうか、一度会ってみたかったんだ。君も俺も同じ水使い、仲よくしてくれ、プラン」
そう言って手を差し出す。同じ水の属性を持った少女に好感を持ったのだろうか、セラの表情は明るい。
おずおずとその手を握り返しながら、プラン・ルルも笑顔を浮かべる。
「あ、あの、カナリアさんもーー」
「カナリアで良いわよ、プラン」
カナリアも笑顔で握手をする。姉向きな性格のカナリアには、プランの事がユリサールと重なって見えたのかもしれない。
日が当たる温かい教室。三人の会話が響く教室は、和やかな雰囲気に包まれていた。
(…………疎外感なんて感じてないです)
会話に乗り損ねたーーセント・ユーラスを置いて。




