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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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四十三話


「ルールクス先生。別れる、とは?」


一人の少年が律儀に手を挙げて質問する。黒い髪に、眼鏡をしていても分かる鋭い目。どこか刃物のような印象を受ける。


(あいつの呼び名は切れ味抜群少年だな。声まで冷たいじゃないか)


この男、セント・ユーラスのセンスの無さはご愛嬌。もうどうすることも出来ないものだ。まぁご愛嬌と言っても愛らしい要素は全く無いのだが。


(それにしても別れるって……まぁグループ分けとかは普通の学校でもあるだろうな。さすがに自己紹介は無かったか)


別にセントも本気で自己紹介をするとは考えていなかった。が、心の何処かにもしかしたらという気持ちもあったのは否定できないだろう。


 自己紹介などしている暇は無いのだが、ここに来て未だにセントはこの世界における『魔法使い』という存在の重要さを理解していない。

サリエルは魔法は万能ではない、と言っていたがこれは現在少数派の意見である事は間違いない。英雄と呼ばれるレベルまで魔法を使いこなしたからこそ理解できる事でもあるのだ。

魔法を使えない普通の人間からすれば、言葉一つで空を飛び、大地を潤し、そして敵を蹂躙する。

これが万能と言わずして何と言う。前にも言ったが、この世界では魔法は奇跡では決してない。

人々はそれをそこにある日常の万能として、生活に、そして戦争に使う。


例えば魔法を使えない人間の兵士百名と、セントの両親である『救世の英雄』ユーラス夫妻が戦えばどうなるか。

このレベルの魔法使いになると、もはや数の問題ではない。紡がれる魔法は十に届くかどうか、というところ。たったそれだけでその戦争(・・)は終わってしまう。

大袈裟な例えになってしまったが、力のある魔法使いは、意思を持った天災のようなもの。


つまり魔法使いの質、そして数は国力に直結するのだ。戦力としての魔法、国を守り、そして動かしていく歯車としての魔法。

そのどれもが他国よりも圧倒的に多いからこそ、クイーラ王国はこの世界の頂点に位置する国になっている。


そんな国の基盤とも言える魔法使いを育てる為のこの魔法学園。そしてその中でも特別な才覚を持った第七教室の子供達。

ここまで言えば解るだろうが、遊んでいるような暇は殆どない。自己紹介など切り捨てられて当然なのだ。


長くなったが、セントはこの事を完全には理解していない。言い方は悪いかもしれないが、平和ボケした世界からこの世界に来たのだから当然と言えば当然なのだが。



切れ味抜群少年(セント命名)の質問に、キラッと音が聞こえてきそうな笑顔でルールクスが応じる。

いい人間なのだろうが、外見と笑顔の差が大きすぎる。


「ルール先生、だぞ?セラ・フィール君」


訂正しよう、応じていなかった。どうしてもルール先生と呼ばせたいらしい。


「……ルール先生。別れる、とは」


これまた律儀に呼称を変える少年ーーセラ・フィールと言ったか。


(……フィール、フィールね)


またビックネームが出てきたな、と頭の中で思うセント。やはりこの第七には英雄の子供が多いのだろう。

胃が痛くなるセント・ユーラスである。


「ああ、さっきも言ったけどお前らはちと特殊だ。担任が俺一人じゃ荷が重いって事さ。だからーー11人だから六、五で別れてもらう。実質2クラスって事だな」


満足気な顔で話すルールクス……ルール先生。


(なるほど)


素直に納得するセント、確かにこのクラスに教師一人では手が回らないだろう。ただでさえ闇魔法という厄介な魔法を持った男がいるのだ。


(ユーラス、クルトール、フィール……そしてあの動物少女が首から下げているペンダント……アルトレスタの紋章。なんであんな野蛮な娘が魔法騎士の家の子なのよ)


鬱持ったなし。セントは今すぐにでもユーラスの屋敷に帰りたかった。

まだ家にいた頃、英雄の歴史や功績を学んだ時に見た名前がどんどん出てくる魔法学園。豪華オンパレードで羨ましい限りだ、行きたいとは思わないが。


「セント、セント。ルール先生が言った、ちと、とはどういう意味なの?」


セントの服の袖を軽く引っ張るカナリア。言葉が解らなかったらしい。


「ちょっと、って事だよカナリア」


久々に声を出した気がするセントである。成程、と頷くカナリアを撫でたい衝動に駆られるが、ルール先生が話しているこの状況では無理らしい。


「つーわけで早速別れてもらうぞ。今から呼ばれた奴は隣の教室まで移動してくれ……っと、ついでに今呼ばれる奴は俺が担任だぜ」


(呼ばれたくないなぁ)


あんまりじゃないか。

非情な事を考えるセントの隣では、カナリアがお祈りの様な事をしている。クラス替えの醍醐味と言えるかもしれないーー自分の意中の相手と一緒のクラスになれるのかは。


一人、また一人と名前が呼ばれていく。どれもこれも一度は聞いた事のある、『英雄』と学んだ名前だったがセントはもはや考えることをやめている。ストレスでこれ以上胃を悪くしたくなかった。

まぁ無駄にスペックの高いセントの体はそんな事で胃を悪くすることなんてありえないのだが。


三人目、四人目、五人目と名前が呼ばれる。

セントとカナリアの名は呼ばれていなかった。どうやらセント達が6人グループの様だ。そしてさようならルールクス、あなたの事は忘れない。


(担任交代ナイスだ。それにカナリアとも一緒、そして六人中4人がおなご。おなごですわ)


普通に女の子と言え。


(男は……セラ・フィールか。要警戒だな……。問題はーー)


そう、問題はカナリアを除く女子三人の「名前」だ。この名前は通常の意味ではなく、『英雄』としての名前をセントは気にしている。


 あれこれ考えているうちにルールクス先生と呼ばれた五人は隣の教室へ向かったようだ。去り際にルールクスが何か別れの挨拶を言っていた様だが、セントは全く聞いていなかったので割愛する。申し訳ないルールクス。


「……新しい教師の方が来られるのでしょうね」


カナリアが呟く。何か思う所でもあったのだろうか。

カナリアの言葉に先に反応したのは、セントではなかった。


「普通に考えればそうだろう。こちらが六人、というのが少し疑問だが」


予想外の返答にカナリアが驚いて声の主を見る。

口元を緩めてはいるが、目の鋭さのせいで冷たい雰囲気が出ている少年。


「あぁ、いきなり申し訳ない、名前もまだだったな。俺はセラ・フィール。属性は水で、操作系が得意だ。魔法学園にいる間ーーよろしく頼む」








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