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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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閑話:セントの魔法修行 

 ヒュッ、と。かろうじて目で追うことが出来る速さで水の球が打ち出される。直線的に進んだ水球は、3mほど離れた場所に立っている木の的に命中。

しかしーー。


「ほら、壊れていないだろう?」


サリエル・ユーラスが言う。確かに水球が当たった的は雨あがりのように濡れているだけだ。

木の的は強度があるようには見えない。


「次は魔力を多めに混ぜて、少し細工をしようか」


先程と同じように、サリエルが片手を前に突き出す。少しの間もなく生み出された水球が、音を立てて飛んでいく。

着弾。一発目と全く同じように的に当たった水球は、木を巻き込むように回転して粉々にしてしまった。


「とまぁ、こんな感じかな。魔法というのはコントロールでどうとでもなるような物なんだよ、セント。魔力を薄めれば最初のように威力を最小限まで抑えることが出来る。二回目は魔力を多く混ぜたから威力が上がった。ここまで解るかな?」


(バカにしてんのか)


実際馬鹿だろう。セント自身はあまり感じれない事だろうが、セントはまだ五歳なのである。サリエルの話も、普通の五歳児ならば理解に時間がかかるのだ。

だがサリエルもセントの能力の高さを考慮して話をしている。

セントは『救世の英雄』に魔法を教えてもらう事がどれだけ恵まれていることか理解していない。


「大丈夫です」


「うん。セントにはまずーーというか、魔法学園に入るまでは、コントロール重視で魔法の練習をして貰う」


(おっ)


セントにとってこれは非常にありがたい事だ。無茶男サリエル(?)の魔法修行はなにか恐ろしいものがある。

向こうから攻撃魔法をやらないでいいというのなら、それに反抗する理由は全くない。


「そうですか、解りました」


笑顔で答えると、サリエルは少し驚いたような顔をした。

ちなみにララは昼食を作りに行った。二人に構ってもらえなかったララは、若干どんよりとした雰囲気で家に戻っていった。


「……セントが我儘を言うとは思っていなかったけど、まさか嫌な顔一つしないとは……」


「?」


地獄耳のセントでも聞き取れない程小さい声でサリエルが呟く。

サリエルとしては、セントが攻撃魔法を早く覚えたいと言い出さすのが不安だったのだ。

いくら魔法研究が仕事だからといって、使い手が少なく、危険も大きい属性を教えることはサリエルにも難しかった。魔法学園には闇、雷の属性を持つ教師がいる。そこでゆっくり正しく魔法を学んで欲しいというのが、サリエルの考え。


「セントは攻撃魔法を覚えたいとは思わないのかい?」


 だがあまりにセントがあっさりそれを許容したので、純粋にこんな疑問が出てしまった。

五歳の、それも男の子である。若干地味なコントロールの練習より、冒険の書物に出るような派手な魔法を練習したいとは思わないのか、と。


(あなたの魔法が怖いんですよお父様…………でも臆病と思われるのも嫌だな。なんかそれらしい事言っとく)


これである。セントからすれば男の子(笑)なのだから、別に攻撃魔法に強い憧れはない。使ってみたいと思わなくもないが、それで自分が痛い思いをするなら即諦めがつくのである。

なによりセントの魔法修行の目的は「美しい魔法」の完成。それを成し遂げるにはコントロールは欠かせない。

属性調べの場では、あのグラマー精霊も言っていたではないか、コントロールだけは一流と。つまり、磨けばもっと光る。セントにとってサリエルの申し出は渡りに船、そして一石二鳥なのだった。


だが攻撃魔法を簡単に諦めたことで臆病と思われるのは嫌らしい。面倒くさい性格をしているものだ。

意図して照れ笑いのような顔を作り、話し出す。


「覚えたくない訳ではないですよ。かっこいいとも思います。でも、人を傷付ける可能性があるのなら。僕は臆病者です。だからーーちゃんと自分が魔法を操れるところまで行けたなら、攻撃魔法を練習したいと思います。傷付けるためではなく、守りたいものを守れるように」


不安げに、されど確かな決意を持ったように(・・・・・・)話す少年のなんと凛々しいことか。

内心さえ知らなければ感動ものである。


「セント……」


サリエルは思う。この年で、このような考えを持ってしまうセントは果たして幸せなのだろうか、と。

聡明なのは素晴らしい事だ、だが何事にも限度がある。普通なら同い年の子供と走り回っているような歳なのだ。この子は。

それがどうだろうか。闇と雷、大きい力を持ったこの子は、その危険性を理解し、苦しい修行に臨もうとしている。

守りたいと、確かな想いを胸に抱いて。


「……セント、君は臆病者なんかじゃないよ。魔法の力は大きい。本来僕ら人間が持っていい力じゃないんだ」


この考えはこの世界の人間では非常に珍しい。

魔法と共に生きる。この世界での魔法とは、奇跡でもなんでもなく、ただそこにある日常なのだ。

だが、サリエルには解る。

たまたま強い力を持った。そしてそれを思うがままに振るい、そして魔王と呼ばれる者を倒した。

魔法の研究を続け、様々な事を知った。

魔法は万能。それは大きな間違いだとサリエルは知っている。そしてーー自分の愛する子。このセント・ユーラスもそれを理解している。


「いいかい、君が授けられた魔法は、普通より強い力を持っている。特に闇の力だ。自然の物ではない、ここではない(・・・・・・)所から力を持ってきて、それに魔力という形を与えて行使している。怖いだろう?その恐怖を忘れてはいけない。きっとセントは正しい道を進むだろうけどーー絶対に、忘れないでくれ」


ならば、自分のすべき事は解っている。この聡明な子に、力を扱うすべを与えるのだ。

英雄などと呼ばれている自分が、我が子に出来ることは多くない。だから、やれるものは総てあげようと。


「セントがそのままでいる限り、君が臆病者なんてことは絶対にない」


しっかりと目を合わせて伝える。父親として、伝えるべきことだから。


「…………父様の言葉、心に刻んでおきます」


ふわりと笑みを浮かべて、されど瞳に映る覚悟は伝わってくる。なんて手のかからない子供だろう。


「セントは本当に賢いな。僕も誇らしいよ」


可笑しくなって少し笑ってしまう。昼時の暖かい風が気持ちよかった。修行日和、と頭の中で呟く。


「さ、じゃあ修行を再開ーー」


「サリエルー!!セントー!!ごはんー!!!」


聞き慣れた、安心する声の方へ振り向けば、ララが太陽のような笑顔でこちらに手を振っている。

そういえば昼食を食べていなかった。


「……じゃあご飯のあとだね、セント」


「ふふ、はい」


二人で笑い合って、屋敷に戻る。

修行の時間は、まだまだあるのだから。











(なんか思ったより真剣な話だったな……ま、コントロール修行がんばりますか)


そうしてーー時間は過ぎていく。






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