二十八話
あけましておめでとうございます。
新年もよろしくおねがいします。
(おいこれはーー終わった……?)
炎をまき散らし標的を焼き尽くさんとする炎爪は、既に回避不能なまでに迫っている。
いや、セント・ユーラスの身体能力をフルに発揮できていれば避ける事は可能だったのだ。
しかしこの男、いたいけな少女二人を完全に騙しきったといい気になり完全に油断しきっていた。完全な自業自得。
だがーー実はこのセント・ユーラス。カナリアの感情を動かす際に、激昂したカナリアが怒りにまかせて攻撃をしてくる可能性を考えて一つ魔法を発動していた。姑息な男である。
セントが保険として発動していた魔法は、使い手が少ないとされる闇魔法の一つ。
闇魔法は使い手が少ない、故に闇魔法を教える者も少ない。
更に『闇魔法』という響き、なんとも危険な感じがするではいか。
そういった理由から、闇魔法を学ぶのはどうしても魔法学園へ入ってからになってしまう。ほとんどの者が家で子供に闇魔法を使わせようとはしないのであった。
しかしーーセントの両親はなんといっても世に最強と謳われる英雄である。
更にサリエル・ユーラスは魔法研究の仕事についている、もちろん闇魔法の研究も行っているだろう。
サリエルはセントに闇魔法の初歩を教えていた。
その闇魔法はーー幻。
幻と言っても、ないものを見せたり、あるものを消したりする高度な幻ではない。簡単に言えば相手から見える自分の位置を少しばかりズラすだけの魔法である。
これだけ聞けば相当便利に聞こえないこともない。
しかしこの魔法、実は発動した場所から一歩でも動けば消えてしまうようになっている。
つまり発動して一歩踏み出せば、発動して一歩後ろへ下がれば、魔法の効力はなくなってしまう。
しかもこの魔法、初歩の割に消費する魔力量が多い。どれだけ自分の位置をずらして見せるかにもよるが、結構な量の魔力を持っていかれることになる。
セントにあっては、ユーラス式魔力節約術を使ってようやく一回発動できる贅沢な魔法なのだ。
ちなみにユーラス式魔力節約術がなければセントはこの魔法も使えない。初歩のくせに生意気な魔法だ、とセントは思っている。生意気なのはいったいどちらなのだろうか。
それはそれとしてーーカナリアの魔法を警戒して発動していたこの魔法。
確かに、もしカナリアが感情のままに魔法を打ってきていればこの魔法は有効だっただろう。
セントはもとより魔法戦をする気がなかった。一度魔法を躱しておけば、優位に立った状態で話を進められると思っていた。
だが実際にはカナリアは激昂はしたものの魔法を放つ様なことはなく、会話によってうまく丸め込めてしまった。
しかしーーもう一人の少女、ユリサール・エンジ。
ユリサールが魔法を発動させる事は、完全にセントのシナリオから外れている。
発動された魔法は炎魔法ーー「炎爪」。
もしこれが、普通の10歳の少女が出した魔法ならば。もしこれが、通常の炎爪だったならば、セントの出した闇魔法も役に立っただろう。
だが英雄の子供の出した魔法はーーセントの想像を遥かに超えていた。
炎と風を操る少女が昂らせた感情をそのまま乗せた魔法は、通常の炎爪を簡単に呑み込んでしまえる程の巨大さで。
轟々と音を響かせながら迫る巨大な炎の爪は、少しばかり位置をずらしたところで回避できる物ではなかった。
走馬灯ーーではないが、それに近いものをセントは感じていた。
時間の流れが遅くなるーーまるで止まっているかのように。
(あぁ……ゆっくり時間が流れている……ここまでうまくきてこれか……。俺は何も悪いことしてないのに……なんて悲しい運命だ……)
自業自得、因果応報という言葉がある。
(もっと魔力量が多ければ……、つーかこれほんとに死なないんだろうな。いや、負けて無様な姿を晒すくらいなら死んだほうがマシだ……)
異常な考えなのだが、本人は本気で言っている。
どれだけ見栄を張りたいのか。
(父様と母様にも申し訳ないな……俺のせいでユーラスの名前に傷が……あぁ……)
ゆっくり、ゆっくりと後悔が浮かぶ。そうしてマイナスな感情にとらわれていたセントだがーーしばらくして気付く。
(おい長すぎだろ走馬灯、いや走馬灯でもなかったが。時間がゆっくり流れているといってもこれは流石に長すぎる。やるならさっさとやってくれっての。ユリサールの魔法なんてさっきから位置も何も変わっていないじゃねぇかーーん?変わっていない?)
既視感。
(おいおい前にもこんなことあったぞ……確かあの時はーー属性を調べたとき。ふざけた乳盛り美人が来て相性がなんたらこうたら言ってたな……。まさかーー)
思考に沈んでいた意識を浮かび上がらせ、フィールド内を見渡す。もし自分の予想が正しければ。
しかしどれだけフィールド内を探しても、あの姿は見当たらない。
(……?またあの雷の精霊じゃないのか……?でも姿がーー)
その時不意に背後から耳元で、くす。と笑う声がした。




