二十六話
(いや本当にガキだったな、聞いてもいないのに名乗るわ罵るわでもうどうしようもない)
少女二人が話している間、セントはずっとこんな感じで少女達を心の中で罵っていた。
そうでもしなければ、怒りが簡単に顔に出てしまう。
それではいけない。それでは、セントの勝利が確実ではなくなってしまうのだから。
(しかし………そう考えるとアリアは本当に賢いな。言葉遣いだって大人と全く変わらない。相手に気を使う事も出来る。あぁ早く会いたいな)
そのアリアに相当なショックを与えているのだが、今は知るよしもない。仕方ないのだ。
(にしてもあの二人だ。相当に俺を嫌ってたようだが………まぁ理由は明らかだな。エンジにクルトール、どちらも目立たない『救世の英雄』だからな)
『救世の英雄』の五人。
セントが今までセントとして生きてきた中で、最も多く英雄と呼ばれているのはララとサリエルだ。
ほかに良く聞くのは『救世の英雄』アクラ王、海を割り海底に住む怪物を倒したと言われる『海破り』リミレア・フィールなどだ。
だがあまりエンジとクルトールの銘は聞いたことが少ない。
ユーラス夫妻と同じ『救世の英雄』という輝かしい称号を持っているにも関わらず、だ。
(昔それとなく家庭教師に聞いたことがあるが、やんわり流されたからな。話しづらい内容なのかーー………まぁ今はそれはどうでもいい。今考えるべきことは、騙すための材料だ。あのガキ二人はあの短い間だけで相当な材料をだした。あいつらは自分の親が注目されない事が許せないんだ。なのに俺の両親は盛大に英雄と謳われている。同じ『救世』なのに。くく…笑っちまうな……可哀想に………だがこれを使わない手は無い)
材料。すなわち、情報。
嘘をつくためには情報が必要不可欠だ。
セントは前世から嘘を吐き続けているため、この情報を拾う能力が非常に高かった。
(赤髪の奴は恐らく感情起伏が激しいタイプ。俺に向けた敵意の大きさや表情で解る。こっちは簡単に乗ってくる、確実に)
落とされた材料を余すことなく使用する。
(問題は緑、無表情の中にも感情は見受けられた。だがーー簡単に乗ってくるのかが解らない。少しでも冷静になられたら速攻で負ける。ただ最後に見せたあの逃げても絶対においかけて倒すという言葉………あっちも相当に俺を敵視してる。上手くやればーー舞台に引きずり込める)
まだまだ懸念はある。
何か一つ歯車が狂えば、この舞台は台無しになる。
(他の四人の名前は聞いたことがない。確実に数合わせの普通の子供だろう。おそらく俺の名前を聞いた時点でーー棄権を決めている筈。よって試合場には、俺とあの二人。そして観客と教師。ーー行ける。俺なら行ける。ただいつも通り、少しだけ騙す規模が大きくなっただけだ)
「さぁ、行こうかな」
久々に出した声はーー緊張と恐怖で震えていたかもしれない。




