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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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アリア・ラ・リア


目を疑った。

五年前に約束を交わした、優しい少年の変わり様に。







『セント、また会いましょう』

『ああ、アリア。次は魔法学園で美しい魔法を見せると誓う』


そう、大切な約束だ。

自分の属性を調べに行ったあの日、初めてあの人に出会った。


女神様のお告げが聞こえた私は、ずっと浮かれてしまっていて魔法属性を調べるための部屋の扉を何も考えず開けてしまった。


そこには、自分と同じくらいの男の子が立っていた。

真っ白でサラサラの髪の毛に、大きく見開かれた綺麗な目。

正直、見蕩れてしまった。こんな綺麗な男の子がいるのか、と。


しばらくお互いに黙ってしまっていたら、案内役の方が謝罪をして、そこで男の子の正体が解った。


『も、申し訳ありませんセント・ユーラス様!!まさかセント様がここを使っていらっしゃるとは思わずに……!』


セント・ユーラス。


火を極めた救世の英雄と、水を極めた救世の英雄の間に子供が生まれたというのは、クイーラ王国の大きな話題となっていた。

いったいどれ程の才を持って産まれたのか。

いったいどれ程の力を持って産まれたのか。

産まれた瞬間に宙に浮いたという噂もある。


その噂を聞いた時は思わずくだらないと思ってしまったが、それ程までに大英雄の子供というのは話題性が高かった。






英雄ユーラスは、私の憧れだ。

勿論、ユーラスと共に魔王討伐に向かった「救世の英雄」全員に憧れを抱いていたが、ユーラスにかけるそれは一際大きかった。

その圧倒的な魔法力で魔族を殲滅し、

そのカリスマで英雄達を纏めあげ、

そして魔王を倒してきた。


力による英雄ーーなんて美しいのだろう。


なのに私はーー……「ラ・リア」は魔法の才能が少ない。

大昔、私の祖先様はこのクイーラ王国を救ったらしい。


しかしそれは魔法の力ではない。


勿論、王国を救った祖先様。「ラ・リア」の名を誇りに思っている。

魔法を使わずに国を救った祖先様を凄い思う。





でも、どうしても憧れてしまう。

圧倒的な魔法で、わかり易く、そして英雄的(・・・)に世界を救ったユーラスに。






そんな思いを抱いていた時に、出会ってしまった。

ユーラスの新しい光。大英雄の血を持った男の子に。

でも憧れているなんて、言えないに決まっている。

だからーー少しだけ背伸びして、お姉さんっぽく振舞った。

そうして会話をしていると、セントは二属性持ちだと言う。


それを聞いて羨ましいと思うより先に、胸に秘めていた憧れという感情が大きく膨れあがった。


あぁ、やっぱりユーラスは凄い。

雷と闇を使いこなす白髪の少年は、いずれ英雄と呼ばれるだろう、と。


その後も、少しだけど私とお話をしてくれた。

憧れと話す時間はとても楽しくてーー最後にちょっとだけわがままを言ってしまった。


『セント、魔法が使えるようになったらいつか是非見せてくださいまし、雷の魔法は美しいとよく聞きますので』


言ってから、自分は何を言っているのかと後悔した。

たった今知り合っただけなのにーー図々しかったかしら、と。

でも、そんな無茶なわがままにもセントは答えてくれた。

解ったと、魔法学園に入学して、またそこで出会ったら、その時に、と。




魔法学園に入学したら、またあの綺麗な瞳と目を合わせながらお話ができる。


憧れが私に美しい魔法を魅せてくれる。


どれほど美しいだろう、あの白髪の少年が操る魔法は。


大切な、大切な、私と彼の約束。









そうして5年が経ち、私は魔法学園に入学した。


魔法学園へ向かう道中に何やら襲撃のようなものがあったが、それが学園側の試験のようなものというのは、すぐに解った。


魔法学園は、柱のような建物が密集して、またその建物一本一本が繋がっている、蜘蛛の巣のような印象を受けた。


ここに、もうセントはいるかもしれない。


そう思うとどうしても心が弾んで、口元の緩みが抑えられなかった。

もう一度、あの瞳を見たい。


案内役ーー魔法学園の教師に新入生の顔合わせはいつか、と聞くと明日には全員が揃うと言う。


恐らく、クラス分けか、実力を見るための魔法戦があるだろう、と私は思っていた。

「ラ・リア」の名を汚すような事はしない。

勝つための作戦も持っている。不安は特になかった。




予想通り、次の日に教師に案内された場所は円形の広い試合場だった。

そこにはすでに、私以外の新入生が大勢いて、観客席には魔法学園の生徒達も入っていた。



自然と、私の目がその人を探してしまう。

強い光の宿ったあの瞳を。

光に当たると上質な絹のように光る白髪を。





そうしてーーー見つけた。

そしてーー目を疑った。


光が輝いていた瞳は色を無くし、まるでこの世界ではない何処かを覗いているような、そんな眼をしていた。


優しく微笑んでいた五年前の表情はなく、まるで感情が抜け落ちたような顔をしている。


戦いを告げられた時ですら、全く反応がない。


確かに其処にいるのにーーセントの周りだけが別世界のような。



一体、この五年間で何があったのか。


どうしてそんな眼をしているのか。




そしてーー


「貴方は……約束を覚えていますか……?セント……!」


小さく口から漏れた言葉は、新入生達のざわめきによってかき消された。








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