二十二話
「………………(……………)」
人間はどうしようもなくなると考える事を放棄してしまうらしい。
今、この魔法学園の魔法戦試合場にも考える事をやめてしまった10歳の少年がいた。
名はセント・ユーラス。
幾度となく襲いかかる絶望に打ち勝ち魔王を倒した「救世の英雄」
のうちの2人、ララ・ユーラスとサリエル・ユーラスを両親に持ち、また自身も闇と雷の二属性の加護を与えられた天才少年。
「………………(……………)」
そんな恵まれた少年は今、魔法戦専用に作られた野球ドーム並の広さと、魔法学園の生徒全員が入る観客席のある魔法戦試合場の中にいる。
魔法戦試合場とは、魔法学園内にある施設の一つである。
このドーム型の建物の中で使用された魔法は、人を殺すことが出来ないようになっている。
と言っても、いつもそんな強大な魔法を展開し続けている訳ではない。
魔法学園の教師、また生徒の中から選ばれた優秀な魔法使いが集まってこの結界とも呼べる魔法を行使していた。
「………………(…………)」
観客席は既に魔法学園の生徒、教師全員が入っており相当な熱気に包まれていた。
観客席の少し上のほうに作られているのは特別席、VIP席だろうか。
「…………………(…………)」
セントを含む魔法学園新入生807人は、もう随分と前から試合場の中心に案内され、立っているように指示されていた。
落ち着きのない者は既に仲良くなった新入生同士で騒いでいる。
体力のない者だろうか、座り込んでしまっている者も結構いた。
これから何が始まるかが解った者、知っていた者、全く理解できていない者、様々な新入生がいた。
「………………(…………)」
新入生同士の初顔合わせはおよそ一時間前、この場所に案内されて初めて他の新入生と合流していた。
一時間もあれば人間すぐに慣れる。既に仲のいいグループなどが多くできていた。
幾人かはセント・ユーラスに気付き声をかけたが、いかんせん無心状態である。完全に無視してしまっていた。
集合してから一時間と少しーーー特別席から一人の男が立ち上がった。
「静かに」
自らの喉に指を当てているのは音量増幅のための魔法だろうか。
大きすぎず、しっかりと耳に入る程度の音量。
また熱気が渦巻いていた試合場内を一言で静かにしてしまう程、冷たい声だった。
場内が静寂に包まれた。
「協力感謝する。
さて新入生諸君、私は魔法学園で生徒会長を努めているライク・マクリアスだ。学園内では見かける機会も多いと思う。以後よろしく頼むよ」
その男、ライクが名前を言った時に新入生達に小さなざわめきがあった。
だがライクは話を続ける。
「さて、新入生諸君。突然も突然で申し訳ないがね、これから君達には新入生同士で魔法戦をしてもらう」
その言葉を聞いて新入生が大きなざわめきに包まれる。
当たり前と言えば当たり前だろう。まだ10年しか生きていない少年少女がいきなり戦えと言われたのだ。
だがそんなざわめきなど無いもののように、生徒会長は話を続ける。
「魔法が使えるから諸君らはここにきた。それは名誉な事だ、誇ってもいい。だがね、魔法というのは危険な物だ。簡単に人の命を消し飛ばす事が出来る。そんな魔法だからこそ諸君らには正しく学んで欲しい。そのために魔法学園があり、そのために今から諸君らに魔法戦をしてもらうんだ」
安心していい、死にはしない。
そう最後に付け加えて、生徒会長が特別席に戻った。
新入生のざわめきは消えない。
パニックを起こしている者。
怖い怖いと泣き喚く者。
静かに微笑む者。
闘士をたぎらせる者。
様々な反応を示す新入生の中で大英雄の息子はーー
「………………(……………)」
未だに無心状態だった。