二十一話
「はぁ………憂鬱だ……………負けて恥を晒すくらいならいっそ体調不良でも訴えるか……?」
無事(?)セントが魔法学園に到着してから一日が経っていた。
今日はクラス振り分けのテストがある日、セントは朝から憂鬱な気分で着替えをしている。
「だいたい到着した次の日に新入生同士で試合なんかさせるか?頭おかしいのかこの学校は………」
部屋は完全に一人部屋でそれなりの広さがあった。
誰かに聴かれる心配もないからと、延々と愚痴を言っている英雄の息子である。
今は愚痴を言っているセントだが、部屋に案内されてから朝まではずっとどうにかして試合に勝てないかを考えていた。
いくら前世が見栄っ張りのダメ人間でも、誇れる両親の名を汚したいとは思わないのであった。
少ない魔力量、二属性、常人離れした魔法コントロール。
セントはこの三つの要素を常に考え、勝利への道を模索していた。
一応セントは魔法属性を調べた日から今までの期間、つまり五年間を英雄の両親を師におきながら修行をしてきた。
しかし、セントの両親は、セントの魔力量が桁違いに多いと勘違いしてしまっている。いくら英雄でも、精霊が直接セントに魔力を流し込んだなどとは想像もつかなかった。
そのため、ララとサリエルはセントに攻撃魔法の使い方をあまり教えなかった。万が一暴走でもすれば、災害レベルの被害が出ると思ったから。
だから二人は、セントの魔法修行の重点をコントロールに置いた。
魔法が暴走した時の対処法、魔力節約の方法、体に循環している魔力の流れの操作ーーーなどなど。
魔法を使う修行ではなく、操るための修行だった。
攻撃魔法は、ちゃんとした魔法学園の教師に教えてもらえばいいという思いだった。
そういう経緯で、セントはあまり攻撃魔法を知らない。
初期の初期くらいは知っているが、それ以上は全くだった。
セントも魔法修行の目的が「美しい魔法」の完成だったために、攻撃魔法に魅力を感じなかった。
「だが今になってそれが………………あぁもう考えないって決めたじゃないか………」
そう、そんなセントが考えた勝利への道ーーーそれは「考えない」であった。
なんだそれは、と傍から見れば思うかもしれない。
しかし、前世が前世である。
ダメ人間に限られた手札で勝利を掴めと言ったって無理がある。セントにそんな小説の主人公のような資質は無かった。
だから考えない、考えないのだがーーー
「負けたくねぇ………いや……アリアにカッコ悪いところ見せたくねぇ……てか絶対俺注目されんじゃんか………だって英雄の息子だもん……」
アリアにカッコ悪いところを見せたくない。わりと切実な思いだった。
試合で無様に負けて、そのあとで美しい魔法とやらを披露したってカッコがつかないにも程がある。
なんせ、セントがこの美しい魔法完成に費やした時間は5年間だ。
五年間、少ない魔力量で闇と雷の魔法を使い、アリアとの約束を果たすために努力してきたのだ。
それなのにーー
「……………………勝ちたいな」
考えは浮かばない、しかし勝ちたい。
この五年の努力を無駄にしたくない。
着替えが終わってから魔法学園の者が集合を伝えに来るまで、セントは暗い気分で俯いていた。