『歴史の断片』薔薇の英雄
突然だがどんな者が「英雄」と呼ばれるのか考えてみよう。
例えばーー簡単に思いつくものは、強さによる英雄。人外の力を持って常人ではなしえない事を、不可能な事を可能とする。セント・ユーラスの両親がこのタイプの英雄だろう。不可能とされていた魔王の討伐、これを成し遂げたララ・ユーラス、サリエル・ユーラスは常人では有り得ない程の魔力量を有し、また優れた魔法コントロールと威力で人々から英雄と謳われている。
では他のタイプの英雄とはなんだろうか。
英雄ーーー身に宿した様々な能力を使い、人を、世界を救った者に贈られる称号。
「世界を救う」というのは、この世を脅かす魔王を倒すことだけだろうか。
「人を救う」というのは、襲い来る魔物を剣で、また魔法で打ち倒すことだけだろうか。
否、救うというのは様々な形がある。
英雄とはーー力だけでは無いのだから。
その英雄はーー国を救った。枯れ果てていた大地を国に残っていた数少ない魔法使いを効率よく配備し、また適当な指示を出して潤した。
飢えて苦しんでいた民に国の残り少ない財を使い、食料を配給し、仕事を与えた。
国を侵略しようとしてくる他国の軍を、常人では到底思いつかないような策で翻弄し、国を守った。
徐々に豊かになっていく国で、その英雄はーー未来を見据えていた。
これから、豊かになったからこそ起こる問題。
戦争に勝利したからこそ起こる問題。
全ての国に起こる不具合とも言える問題を、その人は次々に策を打ち出し、解決した。
豊かになり繁栄していく国の民は、その人をついに英雄と呼びはじめた。
クイーラ王国の歴史を綴った歴史書の中に、その英雄の話がある。
女性で、力は弱く、魔法の才もなく、体は少し触れれば折れて消えてしまいそうなーーそんな人間。
しかしその女性は英雄と呼ばれた。そして今も国を救った英雄として語り継がれている。
その女性の名はーーー「ルルー・ア・リラ」
いつも赤いドレスを纏い、薔薇のような笑みを浮かべていた事から、
薔薇の賢者と呼ばれた、国を救い、民を救った紛れもないーーー英雄。
そして今ーーー薔薇のような笑みを浮かべた一人の少女が、魔法学園の部屋を出ようとしていた。
その少女の髪は、美しい波打つように輝く金色。
腰元まで伸びているその髪を揺らしながら。
「さぁ行きましょう。ラ・リアの誇りと共に」
英雄の子供の一人、アリア・ラ・リアもまたーーこの闘いに臨もうとしていた。
『薔薇の賢者』ラ・リア一族の始まりの物語。