表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
20/72

十七話

野営中ーー普通は貴族や英雄の子供を野営させるなど全くと言っていい程無いのだが。

魔法学園の特別扱いしない、その特性が既に出てきている。セントはぼんやりそう思っていた。


ちなみに先程まで他の英雄の子供をどう躱して倒すかを考えていたがロクな方法は出てきていない、いくら前世で嘘を吐き続け周りを騙してきたとしてもーー圧倒的な実力の差は埋まらない。


もしもの話になるが、セントは運動神経が悪いわけでない。英雄の息子なのだから当然である。剣術も体術も、セント自身が本気で覚えようとすれば、割とチートなスペックで覚えられた。

だがこのセントには致命的なまでに根性がない。厳しい練習には耐えられなかった。

ちなみにララとサリエルは魔法の修行を第一にと考えてきたので、セントが武術の修行をやめても特に何も言わなかった。


閑話休題



(しかし野営とか初めてだなー……前は超インドアだったからキャンプとかもしなかったし……いやキャンプと野営は違うか)


全く進まない英雄の子供打倒作戦思考を打ち切って、セントはパチパチと音を立てて燃える炎を眺めていた。

セントの周りには誰もいないーー訳ではない。

魔法学園からの使いで一人、男が火の世話をしていた。


(しっかし喋らないなこのオッサン、名前も教えないし……まぁ一人で迎の馬車を任せられてるのならまぁ強いんだろうな)


そんなことを考えていたら、いつの間にか男を見つめていた様だ。


「…………なにか?」


(おっと、見ちまってたか)


「いえ、特に何も」


「…………そうですか」


(なんだこの人………暗い……前の俺より暗い………)


「暗いな…………」


「………やはりそう思いますか」


(!?やっべ声でてた!やらかしたー!誤魔化せ誤魔化せ!)


「いえ今のはーー」


「夜の暗さでは無くなっている、これは魔法で展開された闇ですね」


「え?」


そう言われて周りを見渡すとーー確かに暗い。

先程までは月明かりで周りの木々も見えていたがーー今は何も見えていない。ただ暗闇が広がっているだけだ。


(い、いつの間に……つっか…!こっわ!!やばいやばい何この闇!しかもなんかゾクゾクする!)


しつこいようだがセントは英雄の息子である。

無駄に高いスペックを使いこなせていれば、これが殺気(・・)ということに気付けたのだが、振り回されているダメセントはただただ怖いという感情しか湧いてこなかった。


(何マジでもうやだ……!つかこれ確実に俺狙ってるよね!?それしかないもんね!!?怖い怖い怖いーー)


「……怖いですか?」


(ッツ!!)


怖いですか?と聞いた男は冗談でそう質問していた。

今自分達を包んでいる闇魔法の展開と同時に「暗いな」と気付くような子供が、たったこれくらいの殺気を怖いと思うわけが無い。



(こっ、この男……!馬鹿にしてやがるのか……!!?)


セントには男の顔が笑っているように見えていた、怖いのか、と。


バチバチッ!!とセントの周りに雷の糸のようなものが迸る。

見栄を何より大事にするセントにとって、さっきの侮辱(本人はそう思っている)は許し難い物だった。

そのせいでキレて、得意なはずの魔力操作が出来なくなり、感情のままに雷が溢れ出している。

これでセントの魔力量が英雄の息子として相応しいレベルで存在していたのならーーここ一帯は焼け野原になっていた。

まぁ実際はキレてもこの程度なのだが。


「…………別に、怖くはありませんよ」


そう言ったセントの顔は恐ろしい程の無表情だった。

キレてはいたがキレた表情を見せるのは見栄的にカッコ悪いので、セントは頑張って表情を隠していた。


「………10歳の見せる顔じゃありませんよ」


男はセントの顔を見つめながらそう言った。

間違いなくこの子は自分に敵意を向ける物を殺す気だーーそう確信した。


「………雷をしまいなさいな、これでも馬車役。この程度は守りますので」


確かに、将来この国を担うべき子供達はーー残酷な事も必要だ。

だがそれはもっと先、からでいい、今はーー


「今はーーそれで充分ですよ」


パン!と男が両手を合わせる。

たったそれだけで闇は霧散し、セントに向けられていた怖い感情がーー消え去った。


「…………おや、闇を祓われただけで逃げましたか」


「追わないので?」


「………深追いする必要はないでしょう、この程度の襲撃は結構ありますので………」


「………了解しました」



(…………この子は気付いているようですね………先程の敵が魔法学園からの最初の試練だと………普通は倒させるところまでやらせるのですが………あのままやらせていれば、セント・ユーラスは間違いなくーー相手を殺している。ほかの子供達もでしたがーーやはり英雄の子供達は別格、ですか………)



勘違い甚だしいが。


そしてセントはーー確かにこの魔法学園の試練に気付いていた。


(普通に追わないのはありえない。あそこまで明確な敵意を向けてきた敵を逃がす訳が無い。ということはあれは魔法学園の最初の見極めだろうな……ただーーなんで男が倒したんだ?いや倒したというか対応したというか……俺にやらせなきゃ意味ないだろうに、こいつ馬鹿?おかげで助かったけどさ)



罵っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ