十四話
「さて……と」
光陰矢の如し、俺は一昨日10歳の誕生日を迎えた。
10歳から魔法学園に行かなければならず、一度入学すれば暫くは家族に会えなくなる。その分かは解らないが、一昨日の誕生日パーティーでは両親からいつも以上に甘やかされた。
その時のことを思い出して苦笑しながら、今は学園に行くための荷造り中だ。
「魔法学園か、どんなとこだろうかね。まぁ前読んだ小説とかじゃあ高飛車なお嬢様やら偉そうな坊ちゃんがいるんだがーー」
前というには勿論前世のことである。
というかセントも充分お偉い坊ちゃんなのだがーー本人は解っていないようだ。
「それよりアリアだな………綺麗になってるんだろうな」
5年前にあった優しく美しい少女を思い出す。
彼女との約束である魔法ーー美しい雷魔法は、ほぼ完成していた。
早く見せたいという気持ちもあるが、期待に添えなければどうしようという気持ちも大きいのだった。
「頑張ろ………っよしと」
お気に入りの本を鞄に入れ、荷造りを終える。
そもそも生活に必要な物は学園にあるし、10歳に出来る荷造りは自分の部屋の持っていきたいものを鞄に入れる程度のことだった。
部屋を出て家の玄関へ向かう、もう馬車は昨日からきているのだった。
(いきなり来ていきなり明日の朝出発します、だもんなぁ)
しかし両親は驚きもしなかったため、これが普通なのだろう。
「母様、父様」
玄関で俺を見送ろうと待っていてくれた両親を呼ぶ。
「セント、準備は出来たのね?」
「忘れ物はないね?」
そう言ってくれる両親の顔には、隠しきれない寂しさが浮かんでいた。
前世では両親に優しくしたことなど殆どなかった、いつも見栄ばかりはって、親の気持ちなど考えたこともなかったかもしれない。
だからこそ、だからこそこのセント・ユーラスとしての人生では、この優しい両親に心から感謝し、恩返ししようと思った。
「はい、母様、父様。会えなくなるのは寂しいですが、次に合うときはもっと立派になって帰ってきます。必ず!」
俺がそう言うと、二人とも顔を見合わせて、それから優しく微笑んだ。
「もう充分立派だけどね、セント。あなたなら何処へ行っても大丈夫。だってこのララ様の息子なんだもの!ね?」
「そして僕の息子でもあるよ、ララ? セント、悔いのないように頑張ってきなさい、いつも私達はお前を思っているよ、それを忘れないように、ね」
心から、この人達の所に生まれてこれて良かったと思った。
「はい!いって参ります、母様、父様!」
「いってらっしゃい!セント!」
「うん、頑張ってきなさい」
こうして俺、セント・ユーラスは、魔法学園へ向かう馬車に乗り込んだ。