十一話
「はぁっはぁっ」
(なんだ今の!?少なすぎる俺の魔力にとんでもない量が一瞬で上乗せされたぞ……!)
セントの魔力量では、2回目の魔法ーーー闇魔法を放った後での、雷魔法を放つ余裕が無かった。自身の魔力量がもう既に尽きかけていることに、セントは気付いていたのだ。故に、雷魔法を発動するためには自身の魔力、女神から与えられた魔力をフル活用しなければ雷魔法は出ないと考え、体中の魔力をかき集めて魔法を行使しようとした。それでもかき集めた魔力量で打てるのは、当初の目的の極少サイズだったが。
そして全力魔力の極少サイズ魔法は成功するかに思えた。
が、その時に美しい声が聞こえてきたのである。
「なんだったか、破壊が好きとか雷をあげたとか…………おっとこれは今ここに来てチート発動か!?実はあれは女神で俺に新たに膨大な魔力ーー!!」
『そんな都合のいいことあるわけないでしょ』
そんな言葉が頭の中に響いてーー気付けば目の前に美しい女性が立っていた。
艶やかに光る青い髪に、雪を連想させる白い肌。大きく盛り上がった胸は嫌でも視線が吸い寄せられる。その体の周辺には青白い線のようなものがバリィ!と音をたてながら纏われていた。
そしてこの声はーー
「さっきの声の………あんた女神様なのか?」
『だから違うって言ってんでしょこの無能』
ピシッ、と音が聞こえるような感じで俺は固まった。
『せっっかく私が魔力を流し込んであげたのに何よあのしょっぼい魔法?最初にしっかりあなたの魔力量を見とけばよかったわ!なによその量は、そこらへんの平民の子供より少ないわ。あんたホントに貴族?コントロールだけは上手いようだけど、コントロールする魔法がちーぃさなものじゃあねぇ』
そう一気に俺を見下しながら言ってくる。女の身長は170くらいだろうか、そして俺は5歳だ。どうしても見下される形になってしまう。
そしてようやく俺の脳が回復しはじめる。
(いきなり現れて無能!?なんだこいつ!)
「いきなり現れて無能!?なんだお前!」
思っていることそのままである。
『フン、レディに対してお前とはとんだ野蛮人ね。私はね、雷の精霊よ。せ・い・れ・い』
「雷の精霊……精霊だと?そんな事をいきなり言って信じるとでも?」
『別に信じなくてもいいわ、でも周りを見てご覧なさいな』
(周り?別に何も変わってないーー違う、何も変わってない。そして動いてもいない。俺以外の時間が止まっている)
母様もメガネお姉さんも俺を心配そうに見ている状態で固まっている。父様はこちらへ手を伸ばしている、余程俺がキツそうだったからか。
『ま、時間を止めているんじゃなくて、私達の意識を早めているだけなんだけど。こんな事できる人間が他にいるかしら?』
(確かに……こんな事人間が出来ればそれは最強だろう)
でもなんだかこいつを精霊と認めるのが悔しい気がした。
「チッ、それで雷の精霊様がなんで俺に証明魔法を邪魔しに来たんだよ」
『魔法には魔力との相性というものがあるわ、これはあまり知られていないけど。例えば魔法使い二人が、全く同じ魔力で全く同じ魔法を使ったとする。でもその威力には差があった。こういうときは大抵相性の問題よ』
(相性……ね)
『そして精霊は、司る属性と相性がいい人間を好むの。ここ、人間の王城は色んな魔法使いがやってくるわ。だから私はここで雷と相性のいい魔力の持ち主を探していた。そして感じたの、雷と混ざり合い、美しい音色を出している魔力ーーーあなたの魔力よ』
どうやら俺の魔力は雷と相性がいいらしい。
『私は近くで雷の音色を聞くためにあなたを探したわ。そしてこの部屋であなたを見ていた。でもあなたは小さな小さな魔力で雷を使おうとしてたじゃない、そんなのつまらないわ。雷は美しく、そして残酷に破壊をもたらすもの。だから私自身の魔力を使ってあなたの魔力を引き出そうとした』
あの時の何かが流れ込んできて、体中の魔力が雷になった感覚はそれか。
「それって強制的に暴走させようとしたって事だよな?なんて事をしてくれてるんだお前!?」
『ちょっと大声を出さないで頂戴、うるさいわ。それに結果的に暴走はしなかったでしょう?あなたの魔力が少なすぎて。私はあなたがコントロールして小さな魔力規模にしてると思ったわ。でもあれが全力だったなんて期待はずれもいいところね!やっと私は巡り会えたと思ったわ!雷とーー私と最高に相性がいい男を!』
そう言って俺をキッ!と睨みつけてくる。
「なっ、勝手に期待して勝手に失望してるだけじゃないか!暴走寸前までやっといて勝手な事を!」
『だからお詫びに周りの人間に雷が行かないようにしたんじゃない、それともあれは偶然だと思って?頭も弱いようねあなた』
(こっのクソ女……!!どこが相性がいいだ!?こんな女絶対相性最悪だろう!)
『まぁでもあそこまで放出された雷魔法を収縮した事は賞賛に値する事よ、魔法コントロールに関しては天才ね。コントロールだけ』
(だけとか言うな!)
『あーあ残念、あなたの魔力がもっと普通だったらあなたの妻になってあげたのに』
「願い下げだ」
『フン、帰るわ。ガッカリしちゃった』
そう言ってフッとその姿が消える。瞬間父様の心配そうな声が聞こえてきた。
「セント!!大丈夫か!?」
「大丈夫です父様、皆に怪我は?」
一応聞いておかなければな。
「いや、僕にもララにもユリにも怪我はない、セントがうまくコントロールしてくれたおかげだ」
(メガネお姉さんの名前、ユリっていうのか、いい名前だーーーって、俺がコントロールした?)
「あ、あの父様、コントロールしたわけでは「凄いわセント!さすがララ様の息子ね!」…………………」
(母様……………)
「セント様、魔法コントロール見事でした。あの雷はかなりの威力と魔力量だったので…………」
メガネお姉さんーーーユリさんも俺が放出した雷をコントロールしたと思い込んでいる。俺を見つめる目は少し潤んでいる。
(こ、これは………)
ここで自分じゃない、精霊がコントロールしたと言えば精霊と話したことがばれて、会話の内容まで質問は及ぶだろう。そうなると嘘に嘘を重ねることになるーーーそう考えてしまった。だから、
「いえ、大したことは何も」
そう言った。