九話
アリアと別れたあと、隣の部屋へ向かう。
(雷は美しい魔法が多い……か、魔力量が少なくても出来る美しい魔法を練習しなきゃな)
扉をノックする。
「どうぞ」
メガネの女の人の声だった。
「失礼します、無事に属性を教えてもらいました、母様、父様」
「それでそれで!?属性は!?」
いきなり母様の顔が目の前まで迫っていた。
(おいおい今一瞬で目の前まで来なかったかこの人、さすが英雄)
「こらこらララ、少し落ち着いて」
「あ、そ、そうね……ごめんなさい、ララ様とした事が……」
母様はよく自分の事をララ様と呼ぶ。気に入っているらしい。
「それで?セント、どうだったんだい?」
「はい父様、僕の属性は雷と闇だそうです」
一応家族の前ではまだ自分の事を僕と呼ぶ事にする、五歳で俺はないだろう。
「雷と闇!?二属性なのね!凄いわセント!」
そう言って俺を強く抱き締める母様。
母様は白い髪が美しい美人で胸もまぁまぁ大きい、そこに顔をホールドされると胸で息ができない、ある意味幸せな苦しみだがさすがに母親の胸で興奮することはできないようだ。
「さすがララ様とサリエル様のお子様ですね、二属性持ちは私が担当してきた中でセント様を合わせてまだ7人しかいません。もちろん全ての方を私が担当している訳ではないですが、少なくとも今日までにざっと700人は担当させていただいてますわ」
(700!?この人仕事できそうだもんな………しかし700人で七人か、百分の一だな。多いのか少ないのか……)
そこで俺は父様に反応がないことを不思議に思い父様のほうを向いた。
父様は難しい顔をして俺を見ていた、細められた目には若干の心配があるように見えた。
「さ、では雷と闇の二属性ということで。早く証明してしまいましょう!」
パン、と手を叩いてメガネお姉さんが俺を見る。
(きたか………)
「セント様、属性を証明する方法はその属性の魔法を使うことです。これから初めて魔法を使うわけですが、二つ注意点がございます」
二本指を立てながらお姉さんは続ける。
「一つ、魔法は非常に強力です。持っている魔力量にもよりますが、一つの魔法を最大限最高に極めれば城一つその魔法で落ちるでしょう。そして威力を持った魔法を初めて使う、という事は、魔力が暴走する危険が高いという事です。ましてセント様は二属性持ち、属性が混ざり合ったまま魔力が暴走すると体の中で反発を起こし、最悪体内を破壊される可能性もあります。なので今回の証明魔法では、魔法に使う魔力量を最小にして頂きます。コントロールが難しいかもしれませんが、頑張ってください。」
「魔力を抑える方法は教えてくれるんですよね?」
「ええもちろんです、それは実際に魔法を使う時に教えさせて頂きます。」
「解りました」
「二つめですが、初めて魔法を使う時のみ必要消費魔力量が二倍になります」
(えっ)
初耳だ。当たり前だが。
「魔力量というのは最初から自分にあるものと思われがちですが、実は五歳になるときに女神様から贈られるものなんです。つまり女神様から気に入られた者のみがおつげを聞くことができ、おつげを聞いている時に魔力は体に入っている、という事ですね」
「そうなんですか」
(じゃあ俺の魔力量が少ないんじゃなくて、女神様から贈られた魔力が少なかったのか!?おいおい女神様もっと魔力くれよ……!!)
心でそんなことを思ったが、貰えなかったものは仕方ないのである。
セントの女神様に対する株が下がった。
お姉さんは続ける。
「しかし、おつげを与えられなかった者が、魔力を全く持っていないかと言われるとそうではありません。人間に限らず、動物も同様です。命を繋ぐために、常に私達生き物は小さな魔力を体に持っているんです。そして魔法使いが初めて魔法を使うときに、その生き物本来が持っている魔力と女神様から与えられた魔力が混ざり合い、反発します。この反発はいっときのもので、しばらくすれば綺麗に混ざり合い一つの魔力となります。つまり、最初に魔法を使うときは、まだ魔力同士が反発しあっている状態、ということですね。それで使用する魔力量が二倍になると考えられています」
「なるほど………」
「セント、魔法使いが一番苦労するのがこの証明魔法と言われている。なんせ魔力量を二倍消費しながら、力は最小限に抑えなければならない。大抵の子供は加減がわからず部屋をすぶ濡れにしてしまったり、燃やしてしまったりする。そんなことが何回もあるからこの部屋は家具がほとんどないのさ、壊れるからね」
父様がそう言って部屋を見渡す。
そういえば全然家具ないなこの部屋、ソファと机くらいだ。
「僕も五歳の時、初めて魔法を使ったときは部屋を黒焦げにしたものさ、僕の場合魔力量が多かったから大惨事だったよ」
そのときを思い出しているのか、父様は笑っていた。
(いやそんな穏やかな笑みを浮かべて言う事じゃないでしょう…)
「では始めましょうか、セント様も魔力量が多いそうなので、十分集中してください」
「あの?どうして母様と父様も同席しなければいけないんですか?危ないのであれば外に出てもらった方がいいのでは?」
「セント様、証明魔法の場には肉親の方が必ず見届ける規則になっておりますので………」
「ああそうなんですか」
(何故だろうか、子供の力を親が知らないなんてアリエナイ!みたいな考えなんだろうか)
「では準備に入りますね、少々お待ちください」
そう言ってお姉さんは部屋を出ていった。
(魔法か………興奮もするがそれ以上に……怖いな、魔力量足りなくて魔法が出ない、逆にコントロールできず両親、メガネお姉さんに怪我を負わせる、不安要素が盛り沢山だ。まぁ英雄を傷付けられる魔力があるとも思わないがね)
黙って考えていると、母様が真剣な顔で俺に話してきた。
「セント、これから言う事は大事な大事な事だから、しっかり聞いていてね。解った?」
表情から俺を心配している事が解る。
俺も姿勢を正し、母と向き合った。
「いい子よ。セント、あなたが持つ雷と闇の力は強大よ。雷は美しい魔法だけれど、簡単に人を、物を破壊できるわ、それは火も水も変わらない、だけど雷はコントロールが全属性の中で一番難しいと言われているの。闇の魔法は相手に幻惑をみせたり、影を操ったりもできる。でも闇の力に潰されると一生自分自身が幻惑を見ることになるわ。その二つが一緒にあなたの中にある。それはとっても危険な事よ」
俺は頷く、危険があると、真剣に母が教えてくれているから。
「そしてあなたは今からその魔法を使おうとしている。だからーー約束して?魔法を使うのは一瞬よ、たった一瞬魔法を発動したらそれは証明魔法となるわ。後は家に帰ってゆっくり私達が教えてあげる。魔法を一瞬だけ使うには、魔力量を限界まで小さくする必要があるわ。それはとっても難しい事、だけどあなたなら、セントなら出来るわ、だってこのララ様のーーいいえ、ララ様とこのサリエルの子供なんだから」
そう言って俺の目を見つめる母は、ふわっと笑った。
「最悪暴走しても、僕とララで止めるから安心してやりなさい、セント」
父様もまた、俺を心配してくれている。
(この人達の期待を裏切りたくない)
強く、そう思った。
「お待たせしました、準備が整いました」
メガネお姉さんが手に水晶らしきものを持って帰ってきた。
さぁ、極少の魔法をお見せしようか。