一話
一度長い長い人生を経験した者が、その記憶を持ったまま再び人として生まれることが出来たら。
人生の経験はその者にとって最強の武器となるだろう。たとえ一度目の人生が、どんなにくだらなくても、どんなに無意味でも。知識は蓄積されるのだから。
柔らかな日差しが降り注ぐ、快晴の日。
クイーラ王国の、とある貴族の屋敷で、一つの命が誕生していた。
「うああ!うあああ!」
赤ん坊特有の泣き声。誕生の産声が屋敷に響く。
そんな赤ん坊をいきなり2m近い高さまで、高い高いをする男がいた。
「おおよしよし、お前のお父様だぞー」
「ちょっとサリエル!!、そんなに高く上げたら怖がっちゃうでしょ!?それに生まれたばかりなのよ!?何を考えているの!!」
「おおそうか、すまんすまん・・・あまりの嬉しさで・・・しかしララ、そんなに大声出して大丈夫なのか?」
幼児用のベッドに丁寧な手つきでいまだ泣き止まない赤ん坊を寝かせて、苦笑を浮かべながらララと呼ばれる女性を見る。
「フン、このララ様が出産程度で弱るわけないでしょ」
涙目だが。
「思いっきり泣いてたけどな、というか今も泣いてるし」
「うるさいわね!嬉し泣きよ!」
「奥様、旦那様、あまり大声を出されますとこの子が怖がってしまいますよ」
侍女頭の言葉に二人とも何も言えず、ただ口を閉じた。
赤ん坊は、泣き続けている。そんな赤ん坊を、ララは愛おしそうに優しく撫でて、穏やかな声で言った。
「私達の所に、生まれてきてくれてありがとう」
そんなララと赤ん坊を、その部屋にいる者達は温かい目で見守っていた。
(ええまじでここどこ!!俺何してんの喋れない動けないこえええええええ!!!!!!!)
泣き止まない赤ん坊が、こんな事を考えているとはもちろん知るよしもない。