敵襲来
「皆さんがここに集まった理由はもうわかっていると思いますが・・・」
とミルチが説明を始める。
俺達は今城の中庭にいる。太陽の光が中庭の真ん中にある噴水に反射してキラキラしている。
左右を見ると聡と由美がいる。由美と目が合うとすぐにそらされてしまう。朝からそうだ。
まあ、心当たりはないともいえないがやっぱり昨日のあれだろう。
由美が風呂場に忘れていったパンツを届けに行ったら思い切り殴られた挙句部屋を追い出されてしまった。
あの選択はやはりまずかったのだろうか・・・・・と考えていると一人の男がやってきた。そしてミルチが紹介する。
「えー、この方が今日から君たちの戦闘技術の指導をしてくださる《ニーズ・ランベルト》さんです」
「ハルベリア王国第5騎士団団長のニーズだ。よろしくな!」
このニーズという人物は簡単に言ってしまえばおっさんだ。中年ぐらいのおっさん。
髪は桜色でそのごつごつした顔には武将ひげをはやしている。
身長は190はあるだろう巨体で身体もがっちりしている。まさに巨人。
その風格で団長とは言われなくてもわかってしまう。
俺達は一斉に頭を下げてお願いしますと礼をする。
「剣士二人に格闘家が一人か、うし!じゃあ早速はじめるか」
とニーズが喋り終わる前に由美が声をあげる。
「あ、あの、私は剣をメインにするんじゃなくて、魔法をメインにしていきたいんですが・・・・」
「うーん、魔法は専門外だからなぁ。じゃあミルチ、お前が教えてやってくれ」
とニーズがミルチにふると、ミルチはあわてたように言う。
「え、僕あまり得意じゃありませんよ!?戦闘すらも専門外ですし・・・」
「嘘付け、王の側近だろうが、それに初期魔法ぐらいなら教えられるだろう」
「し、仕方ありませんね」
しぶしぶといった具合でミルチも参加する。
こうして俺達の特訓が始まった。
そしてかれこれ2時間ほどたってそろそろ特訓も終盤に差し掛かってきたところで。
「じゃあ、今俺が教えたことを生かして俺と勝負だ。一発でも俺に攻撃が当たったら俺の負けだ。あとで何かおごる。お前らが負けたら明日の練習メニューが二倍になるぞ」
よかったなーと付け加える。
何言ってんだこのおっさんは絶対負けられんと喝をいれる。
「じゃあ制限時間は3分な、はじめ!!」
ニーズの合図とともに俺と聡は同時に動く。
俺が片手剣、聡がガントレット、そしてニーズも片手剣だ。
まず、相手の左右に分けれる。そしてニーズが動く前に剣で切りつける。当然剣でガードされたが、反対側から聡がガントレットで殴りかかる。うらあ!、と言う掛け声とともに右ストレートがゴウっとうなってニーズに襲い掛かる。が、ニーズはそれよりも早く俺の剣をはじき、上体をそらすだけでよけ、そのまま空を打った腕をつかみ俺に向かって聡ごと投げつける。
「ぐはぁっ」
と俺と聡が転がる。
「おいおい、そんなものかよ。もっと楽しませてくれよ」
悪役っぽく言うニーズの挑発に乗せられ再び向かう。
完全になめきっているニーズをぎゃふんといわせてやると誓い、剣を振る。
俺の剣も聡の拳もいくら振っても一向に届きはしないがニーズの表情もだんだん余裕の色を失いつつある。
ここで決めるしかないと思い俺は剣を右下から左上へと切り上げる。当然ガードされるが渾身の一撃はニーズのバランスを崩すことに成功した。そこへすかさず聡の拳を放つがそれも間一髪で避けられてしまう。しかしニーズのバランスを崩すのに自分のバランスも崩した俺だが、身体を前のめりにして気合で踏ん切りニーズのアーマーに覆われた胸へ突きを放つ。ガキィィンと、甲高い音とともに当たった。かなり高級であろうアーマーに覆われたニーズには傷一つとしてないが当たった。
よっしゃーーと喜びの歓声をあげ、ニーズもやられたと顔で告げていたが、ある声がその空気を変える。
「あのー3分とっくに過ぎてますよ?」
試合を見学していたミルチがそう告げる。タイムを計っていたのだろその手にはタイムウォッチがあり3:10と表示されていた。
一瞬場の空気が凍りつくがやがて
「はっはっは、まあ最初にしちゃあ十分上出来だ。今回はチャラにしてやる」
とニーズさんの気前のいい声がまた場を喜びの声で満たす。
大げさだがそれだけの満足感があった。団長に勝った。もちろん本気ではなかったと思うが、特訓メニューのペナルティがなくなったのと重なり嬉しい。
そしてそのあと少し休憩があり部屋に戻った。この後はすぐに昼食だ。
だがコンコンっとドアをノックする音が聞こえる。はい、といいドアを開けるとそこには由美がいた。
昨日のこともあり正直気まずい。
「ど、どうした」
とおどおどと声をかける
「あ、あのね、昨日は・・・ごめんなさい!」
と突然謝られ驚く。
「こっちのほうこそごめん」
と俺も謝る。非が彼女だけにあるわけじゃないしな。
「そ、それに勘違いしないでね・・・・・・・私、別に全然エッチなんかじゃないんだからね!」
再びさっきのように場の空気が凍りつく、自分に失言に顔を赤くする由美。この場から走って去ってゆくかと思ったが、とどまった。
「いや、べつにいまのはそういうことじゃなくてそういうことなんだけど△□○△×〇□××」
後半から謎の言語を発している由美をしばらく見ていたがやがて落ち着いたのか
「え、えっとこんな私ですがこれからも仲良くしてくれますか?」
と改まって言う。
半ばまだ混乱してるなと思ったが俺は笑いながら。ああ、と答えるとその顔をぱあと輝かせた。
「あ、それと昨日は助けてくれてありがとうございました。あそこに浩介さんがいなかったら間違いなく連れて行かれてました」
彼女が言っているのは昨日のチンピラ事件のことだろう。
まあ、あれは俺もとっさだったし少しいい思いも出来たからいいさ。
「これからは外での一人行動は気をつけるようにしないとな」
「はい、外に出かけるときは浩介さんが一緒にいてね」
これまたドキッとしてしまった。彼女は絶対にこの世界から返してやらねばと、心に誓う。
「さあ、飯食べに行こうぜ!」
「はい!」
昼食を終えた後ミルチに謁見の間に呼び出されたので、何事かと思い早足に急ぐ。
初めて入った謁見の間にはすでに満ちるがいた。そして奥にのしっと座りながら待ち構える人物・・・おそらく王様だろう。そしてその隣にもう一人、女性、が座っている。
そして俺達がその前まで行くとミルチが口を開く。
「こちらの三人がこのたびこの世界に召喚された勇者たちです」
すると王様が、がははと笑いながら言う。
「そうか、ついにきたか!私はアレイドロス・ラル・ハルベリア。すまんな、紹介が遅れて。で私の隣にいるのが・・・・・」
というと隣の女性は手でそれを制した。
「自己紹介ぐらい自分で出来ますわお父様。私はソフィア・ラル・ハルベリア。この国の王女をしておりますの。以後よろしくお願いしますわ!」
笑顔で語る王女は気品さがあふれているもののその容姿からはまだどことなく幼さがある。
銀髪のふわっとした感じのツインテールでツインテールの先端には軽くウェーブがかかっている。きれいというよりは可愛いという印象だ。
白いドレスに身を包みそのドレスは黒いレースの模様が装飾されている。
「では次そち達の名をきこうかの」
と王様に振られたので俺達は自己紹介をする。
由美、聡、俺の順番で紹介が終わると王女様に声をかけられる。
「浩介、というのですね。さっき見せてもらいましたわ。あのニーズに一突き入れるなんて。これからの成長を楽しみにしておりますわ」
どうやら王女様に少し気に入られたみたいだ。
すると横にいた聡がしょぼんとした顔で
「なんでお前だけなんだよ。俺だって戦ったぞ~」
まあ、確かに聡がいなければ勝てなかった、いや、引き分けられなかったな。
「とまあ、そんなわけでこれからもよろしく頼む」
と王様が締めくくると急に場内に警報が響く。
すると一人の兵士が入ってきて
「申し上げます!敵襲です!」
「なに!?まさか魔王軍の《七剣牙》か!?」
「はい!《アーク》一人です」
「単独でここにくるとはいったい何を考えているんだ?とりあえず騎士を集めろ!今いるロイヤルナイトはだれだ!?」
「ただいまニーズ様一人です」
「ニーズを呼び、警戒態勢に入れ!おそらく向こうは戦闘しに着たのではない」
はっ!
と敬礼し兵士が部屋を出て行く。まったくわからないがどうやら敵が来たらしい。
「俺達はどうすればいいんだ!?」
ととっさに答えたが
「まっていれば平気です敵の目的は戦闘じゃありませんから」
ミルチはそう答えるが、心の中は落ち着かない、それに疑問もあったがそれを口にしたのは聡だった。
「なあ、その七剣牙・・・とかいったか、それは何なんだ?」
「魔王の七人の部下です。一人ひとりが強力な力を持っています」
「おい、それってやべーんじゃねぇのか?」
「強力な武器があるのはこっちも同じですよ。それに今来ているアークは七剣牙では一番劣る7番目ですから」
武器?と聡は首をかしげていたが、それはおそらくさっきのニーズのことだろう。それにさっきの王様の口ぶりからすると、ニーズと同等かそれ以上の力を持ったのが複数いることになる。
そんなことを考えながらまっていると突然扉が静かに開いた。
知らない銀髪オールバックの男が入ってくる。
こいつがさっき言っていた敵か?だとしたら兵はどうなったんだ?と思いきややつが口を開き。
「ん?勇者ってのはおめぇらのことか?」
と聞いてきたので、そうだと答える。
すると腰のうしろから小型のナイフを取り出し急に飛び掛ってきた。
俺はとっさに腰の剣を引き抜くとそのナイフの攻撃をガードする。
早い!10メートル以上の差を一瞬にしてつめてきた。
0,5秒でも遅かったら俺の首は飛んでいただろう。
そして俺が剣でガードした瞬間を聡は見逃さなかった。横から聡の拳が突き刺さるようなスピードで迫る。
顔を少しずらしよけたらしいがその頬には赤いライン・・・・・血だ。聡の拳がかすったのだろう、その地を見ると奴は・・・・・・・笑った。
その瞬間すさまじいスピードでナイフが引き戻され突きの姿勢に入り、突きが繰り出された・・・・・・と思ったらその動きはぴたりと止まった、いや、とめられたんだ。いつの間にか来たニーズが奴の腕をつかんでいる。
「ちっ、ロイヤルさんが来ちゃあ終わりだ。まあ今日は挨拶がわりだしな。それにしても二人でその程度かよ、うちの勇者一人にもおよばねぇぜ」
ニーズのまゆがピクリと動き
「やっぱりお前らも勇者を・・・」
「そんじゃあ、まったな~~」
といって奴は消えていった。
そして俺はあんな化け物がまだ七人もいるのかと、ただ呆然と立ち尽くしていた。