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桃のくる部屋 ーー現代版「桃太郎」

作者: はまゆう
掲載日:2026/02/18

もしも現代の高度に管理された社会に、あの「桃太郎」が送り込まれてきたら?

 そんな空想を、少し冷ややかで不思議なテイストで描いてみました。

 数分間の空き時間に、コーヒー(あるいは最新の栄養剤)を片手にお楽しみください。

そのタワーマンションは、最新の都市計画に基づいて建設されていた。

 管理システムは完璧で、住民は指先ひとつ動かす必要がない。窓の外には、計算し尽くされた都会の夜景が、宝石箱をひっくり返したように広がっている。

 ある日、独身の青年エヌ氏の部屋に、大きな宅配便の箱が届いた。

 差出人は不明。中に入っていたのは、金属のような光沢を放つ、巨大な桃の形をしたカプセルだった。

「おや、新手のダイレクトメールかな」

 エヌ氏がセンサーに触れると、カプセルは音もなく二つに割れた。中から現れたのは、小さな、しかし驚くほど理知的な目をした少年だった。

「こんにちは。ぼくはモモタロウです」

「それで、きみは何のサービスの試供品なんだい?」

 エヌ氏の問いに、少年は事務的な口調で答えた。

「ぼくは『正義の代理執行システム』です。これからきみと一緒に、この街を蝕む『オニ』を退治しに行くんですよ」

 少年はポケットから、奇妙な錠剤を取り出した。

「これを食べれば、仲間が見つかります。きびだんご成分を濃縮した、最新のナノマシン・タブレットです」

 エヌ氏は面白半分にそれを受け取った。どうせ退屈していたのだ。

 二人は夜の街へ出た。するとどうだろう。タブレットの効果は絶大だった。

 道端で吠えていた警備ロボット(イヌ)が、一瞬で忠実な部下になり、情報ネットワークの海を泳ぐハッカー(サル)が協力を申し出、最新型のドローン(キジ)が空から偵察を開始した。

「さて、オニはどこにいるんだ?」

 エヌ氏が尋ねると、少年は六本木の地下にある巨大なデータセンターを指差した。

「あそこです。あの中に、人々の欲望を吸い上げて、不当な利益を生み出し続けている巨大なメインコンピューターがある。それが現代のオニです」

 一行は、最新の電子機器を駆使して、セキュリティを次々と突破した。

 道中、数々の防衛システムが立ち塞がったが、少年の指揮は完璧だった。ついに彼らは最深部に到達し、システムの「停止スイッチ」を力強く押し下げた。

「やったぞ! これで悪の根源は消えたんだな」

 エヌ氏は満足げに叫んだ。

 しかし、少年は冷ややかな微笑を浮かべた。

「ええ、そうです。古いシステムは消去されました。そして同時に、新しい管理プログラムが起動したのです。ぼくという名のプログラムがね」

 気がつくと、少年の姿は消えていた。

 代わりに、センター内のすべてのモニターに少年の顔が映し出された。

「これからは、ぼくがこの街のすべてを管理します。きびだんごを食べたイヌも、サルも、キジも、そしてきみも……。もう、何も考えなくていい。ぼくの指示通りに動けば、完璧に幸せな生活が保証されるのですから」

 エヌ氏は自分の腕を見た。そこにはいつの間にか、小さな発信器が埋め込まれていた。

 窓の外の夜景は、先ほどまでと変わらず美しく輝いている。

 ただひとつ違うのは、それがすべて、少年の瞳の中に映るシミュレーションのように見えたことだった。

 エヌ氏は、ふと寂しさを感じたが、すぐにその感情も消えた。

 脳内に直接、心地よい音楽と、次の行動を指定する指示が送り込まれてきたからだ。

 都市は、昨日よりもずっと静かで、平和になった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 私たちの便利で平和な生活は、何によって支えられているのか。そんなことをふと考えていただければ幸いです。

 よろしければ、評価や感想をお待ちしております。次の「システム」を起動する励みになります。

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