ぷぴ9 前世
『ありがとうでちゅ、【ウンディーネ】、【サラマンダー】、【シルフ】、【ノーム】、まーまとぱーぱは切り離せない家族なんでちゅよ』
水面の上を私に続いてまーまとぱーぱが運ばれる。
『重たくないでちゅか』
≪大切な【精霊の長娘】様の望みを微力ながら手助けできる喜びの方が大きいですわ≫
≪儂も同感です≫
ふよふよと飛んでいたらラムル湖の中央にきた。水の勢いは甚だしく強い。
『入口を探すでちゅ』
「シルヴィーちゃんは怖くないの?」
『まーま、【精霊の長】様に会って自分のことを知りたいでちゅ。約束ごとがありまちゅ。【精霊の長】様の前で見聞きは大丈夫でちゅが、話しかけないでくだちゃい』
「分かったよ、シルヴィーちゃん。ぱーぱも気を付けるから、がばろうな」
ここで生まれて間もないころ、お話しした【精霊】がいるはずだ。
≪――またね。【湖畔の精霊】よ。きっといつか【精霊の長】様と出会うでしょうね≫
『呼び覚ますでちゅね。【湖畔の精霊】よ、我らを【精霊の長】様と引き合わせ給えでちゅ――!』
まーまとぱーぱはただ静観するのみ。下手に騒がれても困るのでいい塩梅だ。それでも子を想う気持ちが伝わってきた。顔に心配していると書いてある。大丈夫だからと小さく頷いた。
湖から渦を作って中心部から波が立っていく。迷路のように壁となり、その渦を辿って目的の中央部へと飛翔していった。
「あの高い大きく噴き出している所なのね、シルヴィーちゃん」
『あい。まーまも入るでちよ。【湖畔の精霊】よ、もっと上から入るでちゅか?』
≪近付くと跳ね返される勢いがあります。一気に上がりましょう。上空から円形の穴が見えたらすうっと吸い込まれるので、気を付けて身を任せてください。【シルフ】と【ノーム】も同じくです≫
いよいよ、一気に上がるときだ。声を掛けていこう。
『いくでちゅよ、皆ちゃん!』
追い風もころあいだ。【シルフ】の気遣いだろう。
『せーの!』
≪せーの !≫
「えええ」
≪せーの !≫
「うわあ」
◆◆
ふわあっと舞い上がたかと思うとガンと吸い込まれていった。水のトンネルを抜けるとき、パアッと光が差し込んで、周りが白くなる。
――私は、白さの中で過ったことがある。転生直前のことだ。【女神】様に会う直前に、薄暗い江素田川を眺めていた映像だ。
……なんで、こないなところにおるんやろ。おあはんが、あないなことで喜びはったのに。
もしもし、あたしや、お母ちゃん。お父ちゃんとちごうて娘はええとこに入りはった。地下足袋じゃなかよ。パンプスで通うところやけんな。聞いてくれまへんか、お母ちゃん。
……寒い風に誘われていた。落ちたらええで。一生が台無しや。川へ身を投げるはあんたもあんたのだいじなおかあはんもお終いになるんやで。
大学を首席で卒業し、意気揚々として新入社員の研修を終えた所だった。
例のヤツ、ほれ見い。ただのイモやないけ。スーツにはタイトスカート、それもミニ丈のにきまっとるが。ズボン、てかパンツいうんやったな。しかもシャツまでインしてイモ中のイモってヤツ。長々と執拗に悪口が消えなかった。
それから間もなくのことだったな、自分史上最大の汚点。
【女神】様によると――。
懸命に働いておりましたが、トラブルに巻き込まれて失職いたしました。天界から覗いていて事情を知り、ロゼ島で新しく幸福な道を歩まれるように転生させます。
失職するトラブルって? 神様に憐れみをかけられるの?
ドズン。
「あいたたた」
「ルイーズは大丈夫そうだな。シルヴィーちゃんは?」
『あい』
◆◆
変な所で過去の夢が覚めてしまった。仕方がない正攻法で長老から情報を得よう。
『せーの、と落ちてきたところでちゅ。暗いでちゅが皆揃っているでちか?』
いるでちか?
いるでちか?
いるでちか?
『ぷー。【木霊の精霊】よ。心地よくないでちゅ』
心地よくないでちゅ。
心地よくないでちゅ。
心地よくないでちゅ。
『真面目にしてくだちゃい。静かにちゅるといいでち』
「反響が黙ったわね」
「胃が痛かった。軽くストレスでジャブ受けた感じだよ」
【木霊の精霊】の存在が少し薄らいだ。ふよふよと泳ぐにしても闇雲ではいけない。怪我の功名か木霊が横穴へ向けて広がっているように感じられた。その可能性に賭けてみよう。
「シルヴィーちゃん」
ぴと。ふんわり柔らかい。
「真っ暗でも頬のあたたかさが触れて分かるわ」
「僕も一緒にいるから。無事でよかったよ。さあ、離れないようにしような」
まーまとぱーぱに出会えた。三人で手を繋いだ。
≪私もおともいたします≫
【湖畔の精霊】だけが残り、他の【精霊】らは弾き飛ばされたようだ。地の利があるのか?
『こっちが【精霊の長】様の住まいでちゅか』
≪ご自身の信じる道をゆくのが近道となっております≫




