ぷぴ8 四天王見参
ラムル湖に着いた。
『むぴ。ちゃうねー』
「よくわかったね。前とは少し違って北の方へ回ったんだ」
まーまは乳母車を坂に向かって落ちないように横向きに止めた。ぱーぱがオフホワイトの布の上に青さが特別な編んだ敷物を広げて、まーまに手を貸す。
『ちゃうねー』
ぱーぱが布の上に座らせてくれた。ハイハイしてまーまの傍へいく。分かってくれるかな。
「シルヴィーちゃんは悩んでいるみたいだわ。赤ちゃん肌が眉間の皺で台無しだし」
突っ込みを入れたいところだが、この空間での緊張感が半端なかった。
「悪漢が襲ってきたら迷惑だろうよ。ぱーぱのところへくるかい?」
ざわわ……。
私の心の海に静まっていたあるものが波がさらうようだ。
さあ――。
≪皆のもの、【精霊の長娘】様がとうとう参られた。【長】様を護る隊が動くぞ≫
≪【四天王】は配置済みだ。とうとう参られたか……。【長の娘】を皆で導こう≫
【精霊の長娘】コースへドンピシャだと心で叫ぶ。私は思い出していた。ロゼ島へ生まれ落ちて直ぐのこと。
≪ラムル地方にエルフも暮らすその名もラムル湖があります。エルフはいつかあなた様の力になるでしょう≫
エルフならばまーまもぱーぱも姿が見えるだろう。私はエルフと通じても『うちのシルヴィーちゃん』でいられるのだろうか。【風の精霊】が【木の精霊】を揺する。ざわついていた【精霊】もアモンの一家が特別な階段へ通りやすいようにした。
「ミシェル、ミシェル?」
「ん……。ああ、眠りこけていたか」
「驚かないで周りをよく感じて」
「どれ」
≪【水の精霊長】をつとめます、【ウンディーネ】と申す。湖や泉などに暮らしておる≫
≪【火の精霊長】を司りますは、【サラマンダー】よ。燃える炎の中や溶岩に潜んでいるの≫
≪【風の精霊】をまとめるのは、【風の精霊長】の【シルフ】と親しんでね。風は見えない掴まらないわ≫
≪長が産まれし頃からお傍におりました【地の精霊長】は、【ノーム】じゃ。地中に棲みついて長いの ≫
『水【ウンディーネ】と地の【ノーム】は男性的な長、火の【サラマンダー】と風の【シルフ】は女性的な長ね』
≪【精霊】は姿を見せることはないと思ってほしいわ。傍で【精霊の長娘】様を支えるだけ≫
『その【精霊の長】様に会いたいのだけど』
さわさわさわ……。
【精霊】達が円卓を設けた。
会わせるべきか否か話し合っていたようだ。私が出しゃばっても仕方がないので、ぱーぱに高い高いをおねだりしていた。
「僕も年齢かな。腰が痛くて」
「少しの労働で腰が痛いだなんて、パン屋さんをやっていけるの?」
「パンか……」
ぱーぱは高い高いをおしまいにして、敷物で自由にハイハイさせた。あんよは上手をしてくれるのかな。
「おい、湖の真ん中だ!」
「どうしたの」
『ばあっぴ! ぷぴ!』
私は【精霊】の会議を聞いていなかったし、決定事項についても報告を得ていない。
ザ、ザ、ザ、ザザーン……。
「広大な湖の中央から水が噴き出ている。生き物か? 相当な大きさだぞ」
「逃げるわよね。ミシェル」
がさがさと持ってきた敷物やシーツをしまう。
「とにかくだ、シルヴィーちゃんを――」
「――あら、シルヴィーちゃんは? シルヴィーちゃん! 心臓に悪いから傍にきて」
『はひゅう――ん』
私は空でぱたぱた手足を動かしていた。
「え!」
「はあ?」
『きまちたでちゅ』
まーまがカチコチに凍った。
『傍にきてほしがっていたので、きまちた』
「ルイーズ、成長すると人は飛ぶのか」
「初めてのことに、私の心臓はハートの形になったわ。きゅんって」
アクセルもあればブレーキもあるようだ。ただ、一時停止のときにぱたぱたを止めると落ちそうなので続ける。
≪参りますか。【精霊の長娘】様≫
『あのでちゅね、、【サラマンダー】。アモン夫妻と再会できる約束があるのなら、いきまちゅよ』
≪謁見次第では叶えられるわ≫
ふいっと風をよこして、【シルフ】が答える。
『大丈夫でち』
「どこへ? 私も行くから」
まーまは心配してくれている。そしてぱーぱも。
「僕だけおいていかないでくれよ。あの噴き出た水に用があるんだろう?」
熱い……。胸の奥から炎がちらっと燃え出したのが風を受けて竜巻状になる。具現化しよう。
『額にあるオリオン銀の三ツ星よ、第三の目を開眼し給えでちゅ――!』
額に三つある小さな点が輝いて一つのピンクの目がズズズズと隆起してきた。もとより開いていた二つの目と合わせて、トライアングルの線が額の上空においてピンク色で結ばれる。『プロビデンスの目』に似ていた。
『ラムル湖に住まいし【精霊の長】様への道を照らすでちゅ――!』
≪【水の精霊長】をつとめます、【ウンディーネ】! お助けいたす≫
≪【火の精霊長】を司りますは、【サラマンダー】! 胸の炎を託して≫
≪【風の精霊長】は、【シルフ】! ルイーゼを運ぶわ≫
≪【地の精霊長】は、【ノーム】! ミシェルを儂が運ぶぞ≫
エルフもいると聞いた。どこかで会うこともあるだろう。
『吹き出すエネルギーの源へ、いざいくでちゅよ』
「ただ者ではないと思っていたが、シルヴィーちゃんは」
「シルヴィーちゃんに畏怖の念はないわ。私が産んだ赤ちゃんだもの。愛しているのは変わらないの」




