ぷぴ6 月の夜はピンク
二階へ先にルイーズが上がり、ぱーぱが抱っこしたまま数段上がって私を引き渡すと、ぱーぱも梯子を上がる。同じように三階へも移動して三人で三階へ行った。赤ちゃんの籠は持ち出したのでそこへ私は寝かせてもらった。
『ばあぶっば』
「シルヴィーちゃんはいつもご機嫌ね」
よしよしされたけど、私は聞き耳を立てていた。もうあんよも上手になっているのに、がらがらを渡された。仕方がない。肉体的には急変できないから。でも忌まわしい涎掛けは外してもらった。嫌がった甲斐もある。
「お兄さんはよく、『極意に近付くにはどれも一味足りない』と指摘されたことを汚点として悩んでいたわ。ある意味極意以外は及第点なのだけど。完璧主義者なのね」
私は麦茶好きと思われている。実際、ちょこちょこ喉が渇くからあるとありがたい。まだストロー飲みだけどコップ飲みも習得したい。まーまもぱーぱも次はどれができるんだとやってこないから。成り行き任せなところがある。
「ルイーズのちょっとしたお願いとは、お義兄さんのこと?」
「お兄さんというより、ミシェルよ。あなたのこと」
「僕?」
『ばぶば』
勘の鈍い男だな。ミシェルの喜びはルイーズの喜びだと早く気が付いてほしい。流れでパンの話と相場が決まっているのもあるし。
『おちゅき』
月の発音は難しい赤ちゃんでした。綺麗な夜に誘われて早く空を飛びたいと思う。赤ちゃんだけど背中には天使の羽があるのだ。なにせ女神様のお導きなだけに。背中がうずうずするのは本当だ。羽が鳥のようなのか蝶や蜻蛉のようなのか、まだ見ぬ形だが。
「お兄さんは、よく晴れた月夜に予感がしたそうよ。窓の外を見て」
「冴えわたる程の晴天なんだろうな。月がよく分かる。あの月光が照らしているのは……。シルヴィーちゃん? 家を壊された僕達の次をどう生きるかは赤ちゃん次第ってことなのか」
分かればよろしい。
「妹夫婦の成功とは、お兄さんの妄想でも願望でもないわ。家は直ぐに元には戻らないのよ。家の修繕をするにせよ、遊んでもいられないの。働いて幾分かでも用立てしないと両親に悪くて。成功を信じて家族でがんばりましょう」
「うん、ルイーズは絵に描いたように真面目だ。五つからの幼馴染だから、僕の間抜けな失敗とかは忘れてくれよな。泥団子でパンを作ったから食べてくれと泣いたとかさ」
幼い頃に魚の骨が喉に刺さったようだ。魚の骨か、以前は食べ物と一緒に飲み込んでしまえと乱暴に扱われたが、今は道具を用いて観察して抜くようになった。以上お魚時間の報告でした。あれ? 少し記憶が戻っているのか?
「ねえ、『ミシェルに伝授したいたった一つのこと』とはどんなものかしら?」
「修行をすれば会得できると信じている。僕は恩義に報いるために、一子相伝とまでいかなくても一家相伝かな? ルイーズとシルヴィーちゃんを含めてがんばりたいよ」
二人とも暗黙の了解だけど、『パン屋さん』のことだよね。
「申し訳ないけど、ご両親にお借りして三階に泊まらせてもらおうか。訪問が唐突で悪かったけど、二人分の藁もある」
「シーツを借りてくるわね」
「布団は僕が頼むよ。重たいからさ」
パンパンと手を叩いて真新しいベッドが仕上がった。シーツは綺麗に洗ってある。カトリーヌ・デュフールも家事真面目派だった。
「お待たせしました。お姫様」
抱っこして籠より動きやすいミニベッドへ移された。寝具を作っている間も私を一人にしないで、見守ってくれるちゃんとした夫婦だった。常識があって心地いい家族だ。あれ? また魚の骨が引っかかる。喉の奥よりもっと手前までせり上がってきた。
「おやすみなんしょ」
「おやちゅみ、ミシェル」
私のお名前はシルヴィーちゃんでないことは分かっていた。けれども転生前のことが丸っきり知れない。リボンはいつつけたか? 遠く波打つように夢の中を泳いでいた。
――ヒントをさしあげましょう。懸命に働いておりましたが、トラブルに巻き込まれて失職いたしました。天界から覗いていて事情を知り、ロゼ島で新しく幸福な道を歩まれるように転生させます。
アモン夫妻の元へくる直近の画像がこれだ。アルバムがあれば最初の一頁にある。
『おちゅきちゃま、本当のこと知りたいでちゅ』
さすがにお月様とはお話しできないか。【精霊】にいつも助けてもらえていたから、無理を願ってしまった。
≪ラムル湖畔にエルフが暮らしています。エルフの【精霊の長】様を訪ねると様々な本当を教えてくれますよ≫
『ありがとうでちゅ。【藁の精霊】よ』
≪【長】の名前を聞き出そうとするのは禁忌ですから≫
『了解でちゅ』
この間出かけたばかりで念派でお願いするのも気が引ける。色々と様子をみよう。情報が沢山あったせいか眠気がハードだ。も、う……。あれ? 夢の中だったのでは――?




