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ぷぴ4 まーまの家へ逃れて

「すぴすぴ……」

「よく寝てるのお。女の子だったな」

「シルヴィー・アモンちゃんです。お義父さん。お義母さんのリボンですよ」


 疲れたときは、回復に時間がかかる。赤ちゃんだから全体的に体力が少な目なんだ。これでごはんタイムだと元気がもりもりだけど、まーまもぱーぱものんびり屋さんだから忘れている。


「シルヴィーちゃんか、『森』を示す乙女向けの意味だな。どうだ、育てていて大変だろうよ」


 まーまのお父さん、シャルル・デュフールは産まれた日にお祝いにきてくれた。四十六歳で、瞳が黒真珠のように奥まで吸い込まれるハンサムなのだが、髪は黒かったにしても短いというか少ないという印象だが口髭が立派だ。大きくなったら引っ張って遊びたい。いーっていってほしい。


「じいじったら、娘のルイーズのお世話は殆ど任せっきりだったのにね。孫とは違うものなのかしら」

「ばあばは、お腹の下の方で考えているんだろうよ。いいよ、いいから。シルヴィーちゃんならお世話をがんばるよ」

「お父さん、全然手がかからないのよ? 静かだし驚く程に発達が早くて。【精霊の申し子】かと思うくらい」


 ばあばはカトリーヌ・デュフール。麗しの四十五歳でじいじより一つ下だ。燃えるような赤い瞳に反して栗色の髪を肩で切りそろえて清潔感がある。殆どの奥様方は髪は長くネットに入れて後ろで巻いているものだから、活発な印象を受けた。


 私のリボンには、端に『Catherine(カトリーヌ)』と刺繍がしてあった。もしかしたら、ルイーズを経由して私のところへ届いたかとも思ったけれども、本当のようだ。転生の道を通るときに【女神】様の前で既にあったのは、カトリーヌの刺繍も終えていたのだろう。世の中生き返る私もいるくらいだし、驚くこともないか。斜め上をいくことは少なくない。


「――そんな訳で、家は直ぐには建て直せないの」

「そりゃあ、アモンさんも災難だったな。第一、ルンルンだなんてふざけた輩は知らないし」

「幸せをひがんで隙を狙ったかも知れないな」


 ええい、ちょんまげめ! 峰打ちでござる。とやっとや! ふう、疲れた妄想殺法。【精霊】のお陰で最悪の場合にならなかったからよかった。


「すみません、お義父さん方にもご迷惑をお掛けして」

「大丈夫よ、ミシェル。後でお兄ちゃんにパン店のことも相談しましょうよ」

「助かります! 僕の初師匠ですから」


 ぱーぱが本気で頭を下げている。たいした人物なんだろうな。


「なんとや。ルイーズ達もパンの店を開きたいのか? はあ、遺伝かね」

「幸せのパンを作っているお兄ちゃんに似たのね」

『ぷ……。ぷぴぷ』

「あらあら、おっきしちゃったわ」


 ミルクと離乳食の支度をしてくれた。この頃は白い肌からは出にくいらしい。偶にごめんねと零していた。


「お父さんとお母さんには特別サービス付きよ。店内全品二割引きの割引定期券をプレゼントするわ」

「ルイーズ、なんだいなんだい。じいじは隠れちゃうがな」

「幾つになっても恩情があるんだから。アモン家も三人家族になったの。自分達のことだけ考えていればいいのよ」


 ミシェルがまたもや、うーんマンドリルになっていた。たいした思い付きをしないのが難点なぱーぱだ。遊ぶならまーまよりぱーぱがいい。天井まで高い高いをしてくれる。恐らく少し脳筋(のうきん)が入っているが。クールに策を練るタイプより頭に向日葵があるタイプが好きだ。


「お世話になっております。二割? まーまってば、半額にしないと」


 じいじとばあばで揃って両手でノン(いいえ)と言った。


「そこじゃあない」

「そこじゃなくって」


 デュフール家とアモン家って面白い。さり気ない日常を楽しめるのっていいことだよね。

 

『ぷぷぴーぴっぴ』


 ガタ、ガタタ。

 玄関? 先程の輩か。正々堂々と正面から文句をつけにきたのか。


「あら、玄関は直したばかりなのにね」

「建付けがいまいちだったね。お母さん」


 ガタン、バン!

 コツコツコツ、コツコツコツ……。


『ばぶう――?』

「大丈夫よ、シルヴィーちゃん」


 勢いよく戸を閉めて居間の方へ迷いなくやってくる。まーまが抱き上げて横抱っこでゆらゆらしてくれた。背中もとんとんと叩いてくれる。


 コツコツ……。


 ルンルンのくせに、生意気にも後を追ってきたのか。実家まで押し掛けた輩を不届き千万でも表し切れない。


「しっ。まーまとシルヴィーちゃんは一緒にかくれんぼしましょうね」


 赤ちゃん無双でやっつけちゃるのに。居間へ入るところで叩いてやりたい。


『うぴぷ――! うぴぴぷ――』


 私はまーまの腕を振りほどいて、天井までぐんと高く上がった。


「シル、シルヴィーちゃん?」

「どうした、シルヴィーちゃん!」

「シルヴィーちゃん、危ないわよ」

「おりてこんか、シルヴィーちゃん」


 皆の声をよそに、私は入り口を目指す。いい塩梅に戸が開いたら、攻撃できるポジションについた。【ランプの精霊】が私に耳打ちした。


≪ピンクのリボンとは、【精霊の長】様がご自身の【精霊の長娘】様をご自慢する目印だと聞いたわ。シルヴィーちゃんには負っているものがあるのね≫

『事情は知らないでちゅ。ただ、リボンが取れたらアモン家から飛び出すときだと【女神】様から教えられまちた』


 【ガラスの精霊】も加わる。


≪本当にお人形のように薔薇色の頬にくりっとしたピンクの瞳だわね。輝かしい顔貌は、【精霊の(さわ)り】とも呼ばれているの。特段にできること――スキルが増える度に、シルヴィーちゃんの体のどこかに生まれたときにはなかった印が一つずつ増えていくらしいわ。印は体を徐々に喰い込んでいくそうだから気を付けてね≫

『はいでちゅ』


 私は、まーまとぱーぱがパン屋を盛り立てるのにスキルを活かしたい。愛してくれた人に想いを傾けることは大切なこと。体を痛めても神様や【精霊】との取引だとも思った。


『ばぶ、びぶぶ』

「まあったく、ハイスピードハイハイで。ほらじいじの腕に掴まって」

「ぱーぱもいるよ。怒らないから」


 悠長にしていられない。のほほん家族とは違うんだ。


『額にあるオリオン銀の三ツ星よ、第三の目を開眼し給えでちゅ――!』 


 額にある三つの小さな点が輝いて一つのピンクの目がズズズズと隆起してきた。もとより開いていた二つの目と合わせて、トライアングルの線がピンク色で結ばれる。


「じいじ、我が家のシルヴィーちゃんが変わってしまったわ」

「魔法でも剣でもありなんだ。仕方がないさ」


 私の元いた世界の一部では国璽としても用いられた『プロビデンスの()』に似ていた。インパクトがある。


『我が第三の目よ、扉を開けし者へ棍棒で叩く衝撃を与えるがいいでちゅ。流れる【風の精霊】を集めて大いなる力となり、悪漢退治を助け給え! お願いでち』


 ――キイイイ。


 タイミングよく開き始めた。

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