ぷぴ3 悪漢を無双の第三の目
嫌味ちょんまげはどかどかと家に上がった。迷惑だな。
「ロゼ湖畔の北は大旦那様の土地なんすよ。すぐに出ていってけらっさい」
「契約書は初めてみます。手違いがあったと思うので、持ち主の方とお話をさせてください。撤去されたら、僕達の暮らすところなんてありません」
「出ていかなければ、それ相応の処遇が待ってるってこってすよ。おい、そろそろやっちまえ」
荒くれ者は次々破壊していく。蹴っ飛ばすだけではなく、木の棒で殴りかかった。計画的犯行に私は憎らしいと思う。
ガタターン! ガンガン!
大切な看板や入り口は、代々アモン家のものだ。嫌がらせを受けて落胆するまーまとぱーぱ。ぱーぱはおとなしいので暴力に対して暴力で受けたりはしない。夫妻はせめてもと私のフィーディングスプーンや最低限の育児用品を集めて持ち出した。持ってこられなかったと落胆しているのは、大切な布や保存食が盗られてしまっていた件だ。森の隅にいるのあの輩以外が持っていくとは考えられない。まーまに抱き締められながら、誰も悪いことをしていないのにと私は憤慨する。
ゴオウ、ゴウゴウ……。
胸の奥で燃え盛る炎を感じた。産まれた頃から気が付いてはいた特殊な能力が開花していく。
『ここは、赤ちゃん無双しかないでちゅ――!』
まーまがはっと私の顔を覗いた。
「……シルヴィーちゃん?」
『ばぶ――! むちょうでちゅ!』
おでこにかかった銀髪を【大いなる風の精霊】に任せて後ろへとなびかせる。呪文を、と思ったところで簡単な単語しか口にできなかった。なるべく心を込めて唱えるしかない。
『額にあるオリオン銀の三ツ星よ、第三の目を開眼し給えでちゅ――!』
私自身、驚くことの連続だった。額に三つあった小さな点が輝いて一つのピンクの目がズズズズと隆起してきた。もとより開いていた二つの目と合わせて、トライアングルの線が額の上空においてピンク色で結ばれる。私の元いた世界の一部では国璽としても用いられた『プロビデンスの目』に似ていた。詰らない記憶はあったようだが、実際に役に立つかは腕のみせどころだ。
「ルイーズ、シルヴィーちゃんに目が?」
「魔法の才能があったのかしら……」
「成長が著しく早かったものな」
まーまとぱーぱは私の耳にする声が聞こえないのだろう。この場を切り抜けたら、ピンクのリボンを分けて情報を共有したい。解くと危険だったな。切り分けてはどうなんだろう。【ロゼ島精霊の国~ペリィ・デ・フェ~】でさえ、人間の過分な侵入で本物の【精霊】と出会うことはなくなった。しかし、【女神】様からいただいたピンクのリボンを着けているとあらゆる声が耳に入ってくる。よし、【木の精霊】からだ。
『もし、【木の精霊】でちゅか?』
≪儂が【木の精霊】だぼーん。なんぞ? あなたは【精霊の長娘】ではないですか≫
目の前にあった楠木がゆらっと動いた。
『いかにもでちゅ。一度は意識を失った【精霊の長娘】の可能性もあるんでちゅよ。【女神】様のご指示でアモン夫妻に育てられている次第でちて。不当な理由で壊されている夫妻の家が東側にあってでちゅね、家に使われている木が可愛そうなんでちゅ。だから、魂を吹き込んでほしいのでちゅ』
≪あれは酷い。木にも宿る我々を無視しているだぼーん。家を護るべく奮起しようではないか≫
本来なら揺れ動く状態ではない家の木材が不自然に倒れて、破壊している輩にのしかかった。
「うおー! 助けてくれ……」
「んじゃ、こりゃー?」
虫のいい話だ。 自分達は木を乱暴に壊し、いざ【木の精霊】によって押しつぶされると助けを呼ぶなど、後先を考えない生き方だ。
「オレ達だって生活がかかってるんだ。お助けを」
「ルンルン様が土地の貸主であるから返還を求めているだけだって」
『ばーぶっ。ばぶばぶ』
私は手足をばたつかせて一所懸命主張した。
「どうやら、シルヴィーちゃんが怒っていたようだね」
ぱーぱが分かってくれた。
「あなた方が悪さをするからだわ。【木の精霊】に怒られたのよ」
まーまの一言で反省してもらって、私は次だ。お日様に頼もう。
『どうか【太陽の精霊】よ、自然を大切にしない輩を炙ってほちいでちゅ』
≪おーいえー。骨まで焼いて、あ・げ・る≫
ジジ……。ジジジジジジ……。
太陽の光は熱でもある。集中的に浴びるとどうなるかは、ご明察あれ。
「もしかして、ヤバイ? サンパ」
「どうした? アタタ」
「俺のケツが燃えている気がする……」
「わー! さっさと叩けよ。土でもいいから転がってろよ」
「アチー! アチーよお」
まーまもぱーぱもほっとしているのか、目をまんまるにしていた。
『精霊同士、【木の精霊】と【太陽の精霊】のお手並み拝見でちたよ。素晴らしいでちゅね』
≪仕上げはどうするだぼーん≫
≪おーいえー。二度とくるなってこってす≫
『あぢゅう、【風の精霊】か【湖の精霊】を呼ぶか迷うでちゅ』
少し、うーんマンドリルになっていたが、間もなく解決に至る。【真実の精霊】の香りが届いたからだ。
『よし、三択目で悪いでちゅが【真実の精霊】よ、炎に空気を送り込んでくだしゃい。目障りな輩に早くこの場を立ち去ってほしいでちゅ』
同じく唱えた。
『額にあるオリオン銀の三ツ星よ、第三の目を開眼し給えでちゅ――!』
更に、具体的なお願いをする。
『我が第三の目よ、指し示す光のところが輩の逃げ道なので、蛇を這わせておくがいいでちゅ』
≪【長の娘】よ、猛毒があるとの噂があるミワヤマノをですか?≫
『白くて可愛い子どもの蛇に見えるけど、だからこそ生き抜くために弱い毒で相手を誤解させる力がある蛇でちゅ』
よし、もうルンルンなんて嫌味ちょんまげは登場しないことを願いたい。
『ぶーぶっぶ』
「あら? ごはんには早いわよ。おトイレだとこの辺は茂みに入るしかないわね」
『赤ちゃんだってごはんとトイレ以外の話をするんでちゅ』
むぎっと眉間に皺を寄せた。
さあ、パンを作ろう! まーまの家には楽しいパン作りの環境が整っているそうだ。【真実の精霊】が安全に照らしてくれている。土を掃いた道の上に、花びらが重なるように落ちていた。土の上でも花筏だね。綺麗な春らしく真っすぐなこの道は、【桜の精霊】が作ってくれたもの。
「ルイーズ、育児用品以外を殆ど乱暴にされてしまったが、道筋は輝いていると思わないか?」
「うん。真っすぐに照らすパン焼きの窯まで、ミシェルとシルヴィーちゃんがいてくれたらいいの。メルシー地方を南へ進みましょう」
私が【精霊】にお願いして、道中無事に連れていかなければならない。責任感が重たくて、一番身軽なのに一番ぐったりしていた。
「マチュー、カトリーヌ、シャルル! ただいま――!」
「ルイーズじゃないかい」
「ミシェルもようこそ」
『やれやれ、忘れられてまちゅね』
ふひー、一汗掻いたわ。赤ちゃん無双はこのあたりで撤退しよう。




