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ぷぴ26 家

 誰よりも早く起きた。隣のぱーぱを見るとまだ眠っているようだった。


『涙が足跡を付けたのね……』


 可哀そうでならなかった。ピンクのリボンは愛と絆だ。ぱーぱの顔の上でリボンを振るい、まーまの上でも目覚めの合図を送った。朧げ加減が程よい。【女神】様がいても大丈夫だ。


<ミシェルは両親と面会を希望しますか?>


 ぱーぱの口元から『あ、あいた、い』と読み取れた。


『お願いします。ぱーぱも同感したわ』

<ミシェルが建て直した家に向かえば会える段取りにしておきます>

<儂らはシルヴィーの成長を一歩みることができた。これにて失礼いたそう>


 すっと気配が消えた。


『ぱーぱ、いいことがあるようでちよ。アンシャンテの家へいきまちょ』

「あれ? 同じ夢を見ていたのか? そうか、いいことか」

「うーん、いい朝ね。眠り過ぎたみたい。さっぱりしたし、コココと山羊親子の面倒をみてくるわ」


 昨日と同じ朝だ。ただ、ぱーぱは今日は遠くへ販売しようと持ち掛けた。


「ミシェル、どうしたの」

「ちょっと、僕も一度だけ振り返りたいんだ」


 コトコト……。

 カタコトコト……。


「いつもと違う、それだけなのにとての懐かしいわね、ミシェル」

「僕は落ち着かないけどな」


 コトコトコト……。


「あの木陰でランチにしようか。今日もパッチワーク屋さんの名前は広く響きわたっているようで、半分以上売れているな」

『パンのいい値がついている方から売れていまちゅね。少し高くても食べたいものや美味しそうだというものからはけていった感じがちまちゅ』


 売り物とは別にサンドウィッチを用意してくれた。パンはぱーぱが挟むのはまーまで仲良くお仕事をしていた。静かにいただく。凪のような家庭もあるだろう。でも、ぱーぱの胸は漣では済まない感じがする。


「再出発だ、もうアンシャンテ地方には入っているからな」


 コトコトコトコトコト……。

 カタコトカタコト……。


 ぱーぱが販売車を置き、立派な黄色い家を眺めた。まーまと私はぱーぱが語るのを待つが、口をつぐんでしまい、表情は能面のようだった。


「この家は……」


 二つ拳を作り、瞬間決壊した。


「こ、この、家、家をアモンという……。アモンという苗字は『家』のことだ。僕が両親と暮らした家なんだ……」


 家に入るとずうっと締め切っていたからか、空気がこもっていた。


『まーまは見覚えがありまちゅか?』

「うーん、これほど綺麗な家なら覚えていそうだけど」

『覚えていないのでちゅね』


 誰もいないはずの家を見て歩く。私は飛んでいるが。


「ここが食卓だ。僕が火災に遭う前と同じくした」


 懐かしそうに一つの椅子を引いて腰掛けた。まーまは隣に座った。


『ピンクのリボンが、二つの魂に結び付いていまちゅ。お話ができるようでちゅよ』

「僕からの伝言をお願いしたい。——名前も知らないけれども、アモンという苗字は知っているかい」


「……」


『聞いたままを伝えたいのでちゅが。あ、このリボンに触れてくだちゃい、ぱーぱ』


 ぱーぱがリボンの端に触れてくれた。もう片方に二人が触れる。


「私達はアモンさんではないわ。エルザよ。エルザ・ガルニエと申しますの」

「俺もアモンさんとはお会いしたことがないね。リュカだ。リュカ・ガルニエ」


 お母さんとお父さんである人がぱーぱを知らないという。


「僕はミシェル・アモンだよ。幼馴染のルイーズと結婚して子宝にも恵まれた。シルヴィーという娘だ」


 ミシェルは両親と面会した。だが、もう自分達を忘れてしまっていた。アモンという名前も家も忘れている。哀しい再会となったが、ぱーぱにはどうだったのだろう。


「僕は、ルイーズとシルヴィーとで穏やかに愛情豊かな家庭にしたい。想い出に生きていてくれて感謝します」


 ぱーぱを後ろからハグしたのはまーまだった。私もぱーぱを抱きしめたかったが、体が小さ過ぎた。手をよちよちと握っているのが限界だった。


「新しい家庭を懐かしい家庭に倣って築くのをもっと大切にしたい」


<家庭を護り、家庭の一員として励んだあなたに与えましょう>


 【女神】様が神々しく舞い降りた。


<シルヴィー・アモンは、ロゼ島の言葉ではシルヴィーが『森』でアモンが『家』から由来しているそうです。どこか思い出せませんか?>


 ——森? あ!


『私の昔の名前は、綾森(あやもり)萌生(めい)と言ったわ。苗字に森が入っている運命を感じる——』

<これも命名されたとき、ミシェル・アモンが父としての想いを込めたからでしょう>


 私も同感だ。ぱーぱも優しい人なのだ。人に自分の苦しさをみせずに私みたいな変わった赤ちゃんを受け入れてくれたし、ほのぼのまーまをも必ず見守っている。


「僕の気持ちが、シルちゃんの昔の姿と繋がっていたのか」

「ミシェル、幼いころから優しいあなた。私では届かないけれどもとても深い慈しみ。明日を向きましょうよ」

『私も力になりたい。微笑みを咲かせたい。まーまとぱーぱと私が。時折【長娘】として、【精霊】と人との繋がりを支えながら、心の拠り所はうちにおいてがんばるわ』


 黄色い家で家族の気持ちを確かめ合った。


「さて、アンシャンテ地方へ戻るのは少し怖かったんだが」

『ぱーぱ、大変な思いだわ』


 三人とも目頭にハンカチをあてがっていた。


<では、今度お会いするのは、シルヴィーの記念となる日といたしましょう>


 【女神】様の気配が消えると、私達に道が見えてきた。


『シルヴィーと家族の手捏ねパン繁盛記をぱーぱと同じくつけようかな』


「こんの真似っこちゃんめ!」

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