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ぷぴ23 まーまにいてぱーぱにいない

 忘れていたように食卓の存在に気が付いた。


「落ち着くか、二人とも」


 ぱーぱが私を抱っこして赤ちゃん椅子に座らせて、両側にまーまとぱーぱが戻ってくれた。


「ケーキもまだだったわね」


 楽しい誕生日のお祝いだったことを食べかけのパンや切り分けようとされていたケーキが語っていた。しかし、喧噪から水を打ったような静けさだ。楽しいお誕生日会が煤でも垂れ込めているのか。誰かが言い出さないと盛り下がる。


『続きをちまちょ。まーまとぱーぱのあたたかい想いが込められたお誕生日でちゅ。シルヴィーの名前はこの日から始まりまちた』


 お祝いされる本人から切り出した。一番無難だろう。


「シルヴィーちゃん、貫禄が増したわ」

「僕も同感だな」


 まーまが大きなケーキを切り分けるべく刃物を支度しなおしてきた。ぱーぱの疲れた目元に活気が光る。


『見えていたと思いまちゅが、【精霊】の方々は悪漢を森の奥へと連れて去りました。でも、【精霊の長】様はぱーぱの傍においでです』


 ぱーぱは左右を見回していたが、【長】様がいない方へ挨拶をしていた。


「光栄です。【精霊の長】様にはちょうどいい椅子がないですね。クッションを食卓におきましたので、よろしければご利用ください」

<ほう、仕立てのいい布だな>

『仕立てがいいと【精霊の長】様が仰っていまちゅよ』


 ぱーぱは奥から刺繍の最も綺麗なクッションを持ってきた。


「こちらもお使いください。妻や義理の母がお裁縫が好きで、ほころびではなく敢えてパッチワークに仕立てたものがあります。ロゼ島チャーノ海岸に市~マルシェ・オ・ピュス~が立つので、海向こうの客人への手土産品としております」

<ふむふむ、湖の中に籠っていては【精霊】の言葉が耳に届くだけだ。世のことを知ることは豊かになれる>


 【精霊の長】様は一歩も外へ出られないのか。私が【娘】の立場になったら、世のことを知らずに過ごすのか。まーまやぱーぱにもう会えないとは、転生して幸福から遠ざかっていくばかりだ。私の心が行方不明になっている間、ぱーぱが話を進めてくれた。


「僕達は移動店舗をしているのですが、アモン・パン店ではなくパッチワーク屋さんと呼ばれるのです。ルイーズの作ったエプロンや三角巾のイメージでパッチワークが強いのでしょうね」

<どうだね。【精霊の長】の件、考えてくれるかね。養父としての功績は儂が引退しても続くと思ってくれ>


 もしかして、【精霊の長】様はお誕生日も三人で祝っていて、昨年もラムル湖を三人で訪れたから勘違いしているのかも知れない。どうして、まーまとぱーぱしかいないのか。賭けよう。


『この場に、まーまのご両親や兄君がいないのをどうしてか分かりますか? 【精霊の長】様』

<特段、調べてはおらなんだが>


 まーまとぱーぱの顔色は変わらない。


『近くにまーまのご実家がありながら、初孫、しかもお祝いごとにこない訳はないと思いませんか』

<そうさな。儂ならば使いを出して呼ぶだろうよ>


『理由は――』

「待て! シルちゃん、私の誠意なのよ」


 誠意だとは察していた。


「ルイーズ、気遣ってくれていたのか。シルちゃんも気が付いていたんだ」

『大事なことでちゅよ。【精霊の長】様からは養女として引退後の【精霊の長】を任せるべく【精霊の長娘】なる話がでてまちゅ』


 【長】様は成り行きを見守っていた。


「僕には父も母もおりません……」


 ぱーぱの……。ぱーぱの方のじいじやばあばを知らない。お会いしていないし、どんな方かも話すら知らない。ぱーぱのものはこの家に少なすぎた。実家からのものなどだ。ぱーぱが大切にしていたのは、『パンノート』だけだ。


『ぱーぱに両親がいないのでちゅか? 確かにお会いちてまちぇん』

「ミシェルの両親の話は、シルヴィーが大きくなってからと思って」

『あの、【精霊の長】様が挨拶をなさるようです』


 私以外は【長】様の声は都合のいいところしか人間には聞こえないようだ。制御しているのは【長】様側にあるだろう。


<せっかくのお祝いの席が悪漢によって汚されてしまったな。シルヴィーの活躍で自ら護れたようだが。家族の団欒の席に邪魔した儂も悪かったし、込み入ったこともあるだろうから遠慮しよう。【精霊の長娘】の件については考えておいてくれ>


 すうっと消えていった。先程までいた四天王も軍も全て去り、アモン家の小さなひとときを過ごすようにとの雰囲気が醸し出されていた。


『皆、帰られまちた。ケーキは明日もいただきまちょう』

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