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ぷぴ2 赤ちゃん無双前夜

 まーまがお化粧を落としている傍で、私も抱っこされながら鏡に姿を見た。綺麗なまーまも素のままのまーまも大好きなのって頬をぺちぺちしてしまった。


「あら、おしゃまさんね」

「気に入ったかい? 銀髪を左で少しちょろりんと結んでいるものは、お義母さんのシャルルさんからいただいたものだよ。リボンは偶然にも瞳と同じピンク色だね。女の子ならピンクで男の子ならスカイブルーでと用意してくれたそうで」


 お腹の中でリボンをしていた記憶は、ここへ繋がるようだ。アモン家に生まれるべくして生まれたのを実感した。


「シルヴィーちゃん、ああ、我らの娘ちゃんシルヴィーちゃんよ」


 あんよしてほしいのか、両手を広げて待っている。いつまで待てるかな。様子をみていた。


「くすくす……。ミシェル、赤ちゃんが引くわよ」


 私はごろごろしているだけで可愛いかは分からないけれども、アモン夫妻はとても大切にしてくれる。リボンのちょんちょりんで浮き立つ。過去の自分はお洒落をできない境遇にあったのか、この世界で自由を謳歌するのだ。耳の奥から厳しい声を思い出した。


 ――安物の化粧品で顔は整えたつもりなんかね。第一、真っ赤な服に濃紺のベルトでウエストマークとは、いいスタイルアピールだよ。オトコノコ・ホイホイみたいな恰好をしていくな。地味な服にするように。


 前世の記憶が過った。大分酷いことを言われていたのだな。見た目だけでフォーリンラブしないし、「ホイホイ」にかかる奴はGで十分だ。


「そろそろ、ね」

「あたたかい内におうちへ、ね」

『にやちゅくな。はずかちいでち』


 記憶が微かに過ったのは湖畔の煌めきのせいだ。また、おねだりしてこようと振り返った。


≪またね。【湖畔の精霊】よ。きっといつか【精霊の長】様と出会うでしょうね≫

『あい』


 自分探しもしたいのは本当だ。


 ◆◆


 湖から帰り、ほくほくジャガイモのだけっこメニューが出てきた。まーまは偶にだけっこメニューへ果敢にチャレンジする。


「ごめんなさい。家に殆どストックがなかったわ。明朝、採りにいくわね」

「僕もラムル湖が楽しくてうっかりしていたよ。どうしてどれもが美味しそうだよ。えーと、ジャガイモのコンソメスープ、こふきいも、ポテトだけっこサラダ、ポテト入りパン」

「それとシルヴィーちゃん用のポテロールもあるわ」


 ポテロールとは? だけっこなだけにジャガイモをジャガイモで巻いたのかな。でんぷんオンパレードだ。


「もうあちちじゃないわ。ごはんのお時間よ」

『ぶぶぶぶ』

「軽く引いている感じがするけど?」

「味見したし消化にいいから。はい、あーんして」


 スプーンの先でつつかれると口が開いてしまう。ああ、物悲しきは赤ちゃんのサガよ。


『んまま』

「おいしい?」

「まだ口の中みたいだよ」


 うーんマンドリル。実はアニメでしか知らない南方のお猿さん。お猿さんを真似てお口をすぼめて味わうと、ふかしたお芋をクロワッサン生地で包んであった。サイズは長い方で三センチだ。まーまお手製赤ちゃんごはんの新境地か?


『うんまっ。うんま』


 褒め倒す・次のごはんも・食べるでちゅ 防人の赤ちゃん五七五


「やーん、シルヴィーちゃんが美味しそうにもぐもぐしてるわ」


 まーまは自身のほっぺたを落とさないようにか手を添えて支えていた。いや、照れ隠しだ。ぱーぱの幸せ絶頂期に似ている。全くこの夫婦は少しのことで感動しているから、独身の――。赤ちゃんだもの独身よね? 独身の私からしたら羨ましい限りでして限りなんだって。


『どくちん?』

「は? まーま、シルヴィーが不思議ちゃんだよ」


 細かい時間に三度も独身を呟くなんて、照れた。ぼんやりと思い出すと、前世はシングルだったようだ。結婚に憧れていたのは事実だろう。タイミングよくアモン家と巡り合えたのも奇跡だ。


「まーまは幸せそうだね。三十路も四十路も元気で暮らしてほしい。いつか疲れ果てても僕は傍にいたい。心優しいシルヴィーちゃんも一緒だよ」

「人は百八年生きるとロゼ島のパストゥール牧師さんが仰っていたわ。残りの人生……。ミシェルとシルヴィーちゃんも一緒だなんて、幸せ過ぎて言葉はほろっと馬車ごと天へ駆けてゆくの……」


 私は二個目のポテロールを口にしたが、早くも満腹の予感がする。お腹も一杯だが、胸が一杯で涙があるなら川を作りそうだった。雪解けを過ぎると山の潤いは裾野へと流してくれる。


≪【川の精霊】よ。想いを添わせて流れていきますね≫


「おやすみなんしょ」

「おやちゅみ、ミシェル」


 ぱーぱの支えとまーまのがんばりで私が産まれた。転生前と同じく女の子だ。シルヴィー・アモンと命名されると、夫妻の宝物のように丁寧に育てられた。呑気な方々のようで、ご近所のお子さんより成長が早いのをあまり気にされないようだ。明日は自分で着替えようか。


 などと勝手な話をしているのは、私の中の私のせいだからだ。彼女は名前も落としてしまった可哀そうな子なのだが、若くして世の中のことに詳しい。一つのドックンドックンが心の臓に流れ込む。私達は別に産まれたから、表の人間はルイーズとミシェルの赤ちゃん、体内での人格で保っているのはシルヴィーちゃんと呼ばれている過去に背負ったものがある私だ。赤ちゃんは容器として小さかったし、特異のことをするにも体力が及ばなかった。がんばらなければ。


 ◆◆


 ベエエエ、メエーベ。

 ケケー、コッコッコ……。


 翌朝まーまに抱っこされて、牧草地へいく。いつも日の出前に行く働き者のまーまだ。


「ぱーぱはどこかって? 薪割りをしているのよ。内緒でいっちゃおうかしら」


 もうパッカーンの音もしなくなっていた。【精霊】の力を貸してもいいけれども、基本は人間は人間の力でがばってほしい。限界がきて、それでも必要だと思うことなら、私から【精霊】に頼もうと思う。


「家には山羊が二頭いるのよ。小さくて跳ねているのが、フルールだわ。シルヴィーちゃんが産まれて二日後に誕生した仔山羊なの。その傍にいるのがウイエで、お母さん山羊よ」


 フルールがウイエを追いかける姿にほっこりした。親子ってなごむ。


「鳥小屋もユニークだわ」


 鳥小屋では、雌鶏が巣ごもりを始めると飲まず食わずのようだった。巣ごもり用の箱から離して体温を戻し、体調維持のために卵はまーまがいただいていった。お母さんになりたい鶏がまた巣ごもりをしに箱に入った。大きな卵かと思ったら、お水入れをひっくり返してお腹の下へと潜り込ませていた。


「シルヴィーちゃん、我が家では山羊のお乳も卵もこうして得られるのよ。だから、ミシェルだって私の夢にウィ(はい)と頷いてくれると思うのよ」


 パン……。私はどこか引っかかった。しかし、喉元まで出かかっている記憶も言葉もどうしようもない。時間をかけてがんばるしかない。


「この頃、得たいの知れない悪漢がでるそうよ。スザンから聞いたの」

「絡まれないようにするしかないね」


 私はベビーベッドで上にカラカラがついている。楽しいと思ったら赤ちゃん度増し増しだ。右にまーま、奥にぱーぱと並んでいつも休んでいる。


「枕に願いを歌い込もうか。まあ、夢の中のことだけど。『あたたかい家庭、あたたかいパン店を営む姿をみせてください』と、敬虔な信者よりで」

「神様へは欲深いお願いをしてはいけないわ」

「そ、そうだったね」


 ぱーぱのお決まりの仕草、頭を掻くのはいいけれども、だらしなく鼻の下を伸ばすのは乙女的に恥ずかしい。でもまーまはぽーっとして惚れ直すみたいだ。どうにかしたれや、いちゃこら夫婦! 花の独身零歳だぞ! あ、このまま大きくなってプロポーズを受ければいいのか。もちろん、自分も磨くし。


「すうーぴ。すうーぴぴ」


 私も疲れたのかすうっと寝入った。大きくなったら、ぱーぱとまーまと一緒にパン屋をする夢を抱いて――。


 ◆◆


「やや、おはよう美人まーまと娘ちゃん諸君」

「ミシェルは緩みっぱなしね」


 私は手をばたつかせて、元気を表したつもりだった。


『ぶっぶー』


 ――朝ご飯をゆっくり食べていた頃、災厄が襲ってきた。


「おっほん。土地の貸主であーるルンルンだが」


 だれやおっさん。ルンルンは偽名決定だな。


「サンパ、広げろ!」

「はっ。アタタ」


 サンパと呼ばれている方がずんぐりむっくりで、アタタはもやしが無駄に伸びた感じの男たちだった。サンパが結んでいたロール状の薄目の皮を開いた。


「バババ、バーンって羊皮紙の文字は読めるかな? メルシー地方はルンルン様に属したんだって。ああ、サインをしたっけね。名前だけは書けるのか」


 なに! とっとと帰れよ嫌味ちょんまげ。私は惚けてハイハイをしていった。そして甘えるようにちょんまげのズボンにしがみつき、一気にずるっとおろしてやった。小気味好い。待て、私の性格が悪くないか。いや、砦を護るのは必要なことだ。


「このがきゃ、なんす?」

「すいません、おしめを取り換える時間なのですよ」


 いい嘘を吐きましたね。見た目年齢からいって私はおしめがあるわ。


「おしっこしたんか? やべ、早くつまみ出せ」


 私は厄介払いくらいには役に立つようだった。まーまとぱーぱにもお返しをできていなかったから、いい機会だ。


 ルンルンおっさんバタバタ記は続くんです。嫌っすね。

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