ぷぴ19 パッチワーク
「お店の名前はどうする? 販売車を作ったら看板にするからさ」
「私はお揃いのエプロンと三角巾を用意するわ。店名は刺繍しようと思うの。持ち帰り用の品、包み用の布も細々と支度するわね」
とうとう、前世ちゃんの出番のようだった。【想い出の精霊】よ、心の奥深くにある優しさに語り掛けてくれたまえ。
『……遠い記憶からシルちゃんの目がひらっひらって覚めてきたでちゅ。とあるお国のとある頃、雨が降る日は傘という高級な品物を用いて雨粒を避けていたのでちゅよ。一日働いて買えるかどうかの品らしいでちゅ。唐傘、番傘が自然由来の材料で作られており、高くても壊れてしまう儚さがありまちゅの』
二人は続きを催促するように聞き入っていた。やったあ。赤ちゃん無双を暴力ならずになしえたか。
『そこで、ここからが機転を利かせたでちゅよ。店の宣伝にちたんでちゅ! ババン! 三井越後屋などでちが、お客様がお帰りの際に、雨ですのでどうぞと傘を差しだしたのでちゅ! 傘を貸すだけでもうかりまんなあでちゅでちゅね』
パチパチパチ……!
「まあ、返ってこない傘があったとしてもだ、そのサービスを周囲は見ているという訳か」
「シルちゃん、【精霊】の力も借りなくて天才だわ」
『てへえ』
ぐるぐる飛んでいた。恥ずかしいけど嬉しい。
「それなら、パンの包みにうちのパン店の名前とマークを入れるといいな」
ぱーぱが首を傾げていた。
「もう布はなかったような気がするが。輩が持っていってしまって」
「ちょっとこっちへ入って」
家に一旦戻り、先程の母セレクトをお披露目した。
「実家で母が織ったものがあったの。お願いして分けてもらったわ。不足分はじいじが先日西の市へいく話をしていたからついでに用立ててもらって」
にこにことして、本当にあまーいアモン家だ。
『たのちみでちゅ』
「シルちゃんの三角巾はピンクのリボンを上手く出せるように工夫する予定よ」
「かわいいじゃないか」
布を私に当てて考えているようだ。
『ありあとでちゅ』
「外国にロゼ島と同じような言語を用いているところがあるそうなんだ。我々の島から西に出て漕ぎ出すと辿り着いた国があったとの伝説が『コランタン・マルセル西方見聞録』にあったそうだよ」
そこだとリエゾンもあるから、『ブランジュリーダーモン』になる。覚えにくいし長い。はてな、どこで知ったのか。海外の言葉だよ。私の前世でかそれより前のことなのかも分からない。前世で、おかあさんは私を捜しているのか。捜されなくても心侘しい。
「綴ってみるか。発音とイメージが異なるかも知れない」
アモン・パン店。
「よし、決まりだな」
『いいでちゅね』
「アモン・パン店がいい。シンプルだし覚えやすい」
ぱーぱは活き活きしている。
「なら、私は販売する歌を考えるわ」
「心強いよ」
『シルちゃんも歌うでちゅよ』
「いやあ……。赤ちゃん語が可愛いかなあ、と」
「ですわ」
◆◆
一日二日と費やしたが、形になっていった。
「おーい、販売用の車ができたよ。僕が前に立って後ろに並べてあるパンを引くんだ。結構いいできだろう」
「アモン・パン店と輝いて見えるわ」
まーまが驚いている。やったね。
『シルちゃんがピンクに光らせたでちよ』
「あはは……。明るい時間だから疲れるし休もうか。帰り道に暗かったら頼みたいな」
ぱーぱはテンションがゆるい。
「シルちゃん、気遣ってもらっただけだから、落ち込まないで。ほうら、エプロンと三角巾ができたわよ」
シルヴィー・アモンは銀髪を左で少しちょろりんとピンクのリボンで結んでいる。その上からペールグリーンで三角巾を被った。
『パッチワークのセンスが抜群でちゅ』
エプロンもロゴ入りだ。ロゴにはコココのシルエットと山羊の角が描いてある。
「はい。アモン・パン店の看板赤ちゃんのできあがり。名札をつけてね」
シルヴィー・アモン。
趣味はお散歩。
好きなパンは手捏ねロールのポテ増し。
「昨日、湯あみで気が付いたのだけど、産まれたときにはなかった文様が背中にあったわ」
『ちょっと、傘の話をし過ぎたんでちね』
その後も新しいスキルを発揮すると、一つずつパン屋を盛り立てていった。背中の文様も増える。例えばお客様の呼び込みが、『らっちゃいらっちゃいらっちゃい』と、上手だったりとか細かなものでもだ。
『まーまのパンもあるんでちゅね。栗でできた栗色クリームパン』
「確かに栗色の髪が綺麗だからな。むふふ。僕の妻なんですよ、ははは! もちろん、シルちゃんのまーまだよ」
看板娘をがばって抱っこした。まーまも私も参ったもんだ。
「時々裏も手伝ってくれて助かっているよ」
「ミシェルは碧眼でウインクをすると、学校前に女学生が沢山集まるわね。高等教育を受けている女性がどうしてか集まるの。知的に見えるのかしら。銀髪は清潔にまとめているけど、本当は腰まである面白い人なんだけどね。だたのパン職人としてだけでなく、一通り薪割りからパンの焼成まで全て担って、そこは尊敬しているわ」
道々まーまの長話を聞いていた。今日もよく売れた。この界隈では、アモン・パン店ではなくパッチワーク屋さんと呼ばれる。まあ、節約を褒めてもらってありがたいね。
「知っているかな?『ぷぴっと赤ちゃん無双シルヴィーと家族の手捏ねパン繁盛記』をぱーぱがつけていることを」
まーまは目を白黒させてじっと考えていた。
「かわいらしくお話しする赤ちゃんに並ぶものはないくらいで、名をシルヴィーといい、父と母とで手捏ねパンを移動販売したら商売がとてもうまくいき、家族もにこにこです!」
一気に翻訳というか嚙み砕いてくれた。
「どう? ただ売り上げやどのパンの品が伸びたかを書くのなんてつまらないだろうよ」
『ぷぴ? シルちゃんは赤ちゃん語上手でちよ』
「まあ、ひねないでくれよ」
「ぷぴを編み出したのはシルちゃんの才能だわ」
なんだか胡麻化されている気がする。
「……僕はね、ルイーズと結婚したけれども、ルイーズは結婚前はデュフール家であたたかいお父さんやお母さん、お兄さんに囲まれていたんだ。結婚を決意した日、一緒に暮らすことを選ばずに最初から僕といる道を選んでくれた。実家とは帰れない距離ではないとは思うけれど、忙しい日もご飯は一緒にして、夜遅く繕い物をしても早朝にはコココや山羊の世話をしていた。どれも僕が頭を下げてのことなんかなかった」
静かに三人で手を繋いだ。
『まーまとシルちゃんでし』
「まーまとぱーぱよ」
「僕もシルちゃんと繋ぎたいよ……」
ブチブチいってる。
『こっちへ飛んできたでちゅよ』
「ぱああってなるね! こういうのいいね」
『パッチワークはこういうことでちね――!』
まーまがぱーぱと結婚した理由はこのあたりにありそうだ。




