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ぷぴ18 パンを売りて

「移動販売にはメリットもデメリットも双方あるよ。でも、やってみたいと思っているときがチャンスなんだ。海辺では板に乗って遊ぶものがあるらしいな。怖い生き物がいるとも聞くが、肝試しだ!」


 右腕をガッツと突き上げて立ち上がった。ぱーぱのこんな力強い姿は初めてみた。まーまは拳を見上げたまま、首が動かなくなったのか。


「まあ……」


 細く声を流すけれども、意味もないし考えていることが分かりにくい。


『まーまの目が胡麻粒になっていまちゅね』

「本当に点だよ。くりっと大きなピンクの瞳が可愛いよ。さあ、カモンカモンナア、戻ってこいよ――」


 そのまま目がくるくると回って驚いていたのか。ぱーぱは陽気に踊っていた。


「ぷはあ、ただいま」

『どこへもいったらメっでちよ。ちんばいちまちゅ』


 ぱーぱが明るく笑い飛ばした。


「移動販売だけどな、衛生面や金銭面に商品の補充面など困難もつきまとうだろう。けれども、やってのけられたらアモン家の幸せは家族が各々持っているピースを寄せ合って、完成した際の絵が見えるだろう。どんな景色でも素晴らしいに違いない。よし!」


 ミュージカルが始まりそうだった。嫌いじゃないけど。似合わない地味さ。いや、化けるのかも知れない。地味な下地は化粧ののりが違うからね。え? ぱーぱはハンサムの他にどうにも表現できないが。


『私がロゼ島へくる前の記憶を持つ苦悩を抱えながらも常に肯定してくれる家族に恩を感じていまちた。だから、家族の肖像というビジョンに賭けているんでちゅ。昔見たナイトウオッチという個性豊かな群像肖像画を思い出すんでちね。ぱーぱは有能なのにまーまに爪を隠していて、まーまはできたときにとってもはしゃいでいつも微笑んでくれる。優しい家族なのでしゅよ』


 ドアがバターン! と開いて直ぐにバターン! と閉まって、なんだかー! と驚いたら、お客様だった。


「麗しの四十五歳、ばあばのカトリーヌ・デュフールがシルヴィーちゃんに会いにきたわよ。ホホホホー! 内緒の内緒でして、本当は布のお裾分けなの」


 まーまが嬉しそうに母を招き入れた。


「外は風もあるから、中がいいわよ」

「ありがとう、ルイーゼ。愛娘ルイーゼ」


 頬にキスを娘から母へ、母から娘へとした。ロゼ島では一度なら親しい関係で略式で、正式には三度することになっているそうだ。いつだかぱーぱに聞いた。まーまに再会した際、緊張して四回したのが武勇伝だそうだ。


「頼まれたのはこっちね。女の子がほしいと常日頃聞かされ続けていたので男の子でもいいようにペールトーンでまとめてメインはグリーンの寒色系にしたんだよ」

「あ、お義母さんも遠いところをようこそお越しいただいて」


 ちなみに、キスを伴う挨拶は同性同士でしか行われないそうだ。男性だと上下関係がはっきりしてしまってバツが悪いらしい。メンドクサイ。


「結局は同じだったろうけれども、安いものでも仕上げに【精霊】の祈りを込めてすればきっと赤ちゃんの将来が明るいと思ったよ。可愛い服になったかな。刺繍をしてから縫い、流行っているといいつつパッチワークでボロ隠しをして、大きな刺繍を施してある生地は穴隠しと視線を逸らす意味があるの。それから謎の位置にポケットがあったら新しい隠し方だよ。覚えておいてね」


 まーまが首肯して止まらない。メモを取っていないな。もしかして文字が書けないのかも知れない。ぱーぱは看板やレシピなどに困った様子は見られなかった。


 切れ端は実家からもらっているようだ。


「ええ? もう帰っちゃうの?」


 私をひょいと抱っこしてあやしてくれた。でもあやしてほしいタイミングでもないけれども。


「これからは家族でがんばるんだよ。赤ちゃんにまで恵まれたんだ。あらゆることに感謝を忘れずに。ばあばはお助け要員で十分だって。じいじは呼んだらあぶないわ。毎日シルヴィーちゃんは今頃寝たかとか話しては恋しがっているからね。夫婦仲良く、親子仲良く」


 ばあばは一陣の風だった。まーまは似ていないし、ぱーぱにも面影がない。


『楽しいことが起こる気がちまちゅ』


 もともと私も含めて仲良しでおっとりしているが、一つ前を向いていく姿勢を日常に落とし込むことが可能だと思っている。ばあばを見習わなくてもいいけれども。


『ほ……』

「どうした」

「ん、お店の名前をどうしようかねえ、皆の者」


 本格的会議が始まった。ゴーン!

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