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ぷぴ14 パン店と恵み

 祝福がきらきらと白い世界で瞬いていた。もう、さようならの時間だ。肝心のこと、名前や年齢は知らなくても生きていけるから自らが吐露しなかったと思って去ろう。まーまもおかあはんも大切なおかあさん。それでいい。


<ここでのことは他言無用じゃ。儂の安寧はラムル湖で余生を送り、【精霊】が困ったときに助けるのみだ。もし、【精霊の長娘】がどうしても力がいるときは、ピンクのリボンを外して合図をせい>


 溢れる程の眩しさの中で、湖に入る前においてきた乳母車やオフホワイトの布に敷いた青い編み物が私達の傍へと返された。


『ピンクのリボンを取ると、大切な方々と会えなくなるでちゅ』

「シルヴィーちゃんは元の赤ちゃんに戻ったようね」

「内緒にしておこうか」


 まーまが胸元へおいでと手を開いた。ふよっと辿り着く。


<儂の娘である【精霊の長娘】のみが知るエルフの呪文を編んだ儂の名をよくぞ堪えて言わなんだな>

「もとより存じませんわ」

「僕も【精霊の長】様としか存じません」

『右に同じでちゅ』


 一瞬にして湖はおろかルイーズの実家へ戻っていた。念派のようなものが残っていた。


<なら、構うまいよ>


 【精霊の長】様、私の自分を辿る旅、家族の結束の旅へ力となってくださってありがとうございました。


 ◆◆


 まーまの実家の前に着いた。


「僕の『パンノート』がテーブルにあったよ」

「うっかりしていたのね。よかったじゃない」

『はじゃーま!』


 玄関の戸を開くと、ラムル湖へ向かった日と同じ光景だった。


≪お帰りなさい≫


 【藁の精霊】もはしゃいでいた。


≪お帰りなさい≫


 【精霊】達があちらこちらからピンクのフラワーを散りばめてくれた。


「やあ、僕はモテモテだなあ」

「ミシェル……。僕ら、だわ」


 怖いと思ったのは当の本人だろう。私も怖かった。ウワキなんて台詞が出たら、黒塗りされそうだ。


≪私は【烏骨鶏の精霊】よ。シャルロットを護っているわ≫


 ココココココ……。


「おお! 自由なコココ達だな。どうしたんだ?」

「カミーユ、ソフィア、シャルロットはお散歩中ね。ばあばは? ご飯をもらったかな」


 ふよふよと家の周囲を探検赤ちゃんだ。畑との脇に小屋があった。水入れがひっくり返ったのか、容器の周囲が濡れていた。


『可愛いでちゅね。コココちゃん、お水がほしいでちゅよね』


 帰宅して早々疲れているだろうけれども、ぱーぱは小屋のエサを補充したり水を井戸から汲んで、ビタミン補給に草もあげて住みやすくしていた。


「コココ、散歩はちょっとお休みして」


 ぱーぱに小屋へと誘導されると、決め手はまーまだった。まーまも窯の方から壺を持ってきた。


「小魚のダシがらよ。卵の殻も丈夫になるわ。はい、コココはハウスよ」


 意外だった。二人ともチートとか要らないようだ。この世界で生きる術を知っている。働き者だし文句なしだ。


「思えばシルヴィーちゃんが産まれてからとんでもないことの連続だわね」


 ぱーぱは玄関にかけてある茶色の上着を羽織った。


「僕らの家を見てくるよ」

「私も気になっていたの」

『シルもいくでちゅ』


 まーまがぱーぱと手を取ってばたばた躍った。面白い家族だな。ほんわかする。


「シルですって! かわいいー」

「これからはシルちゃんって呼んだりしてな」

『いいでちゅよ。シルちゃんでち』


 三人で細い道をいくとアモン家につく。直ぐにおかしさに気が付いた。


「アモンの看板がないわ。じいじがミシェルと新居を建てるときに作ってくれたスーギーの板を炙って年輪に焼き目をつけてくれた心のこもった看板だったのに」

「マジで書き換えたな。ルンルンになっているんだが。いまや会いたくないおっさんナンバーワンだな」


 乳母車から飛び出した。ふよふよと飛んでいたら、まーまに抱っこされて乳母車に連れ戻された。


「だんめ。理解力のない輩に吹聴されたら家族がバラバラになってしまうわ」

『シルも交渉するでち。任せるでちよ』


 ぱーぱが大きくため息をつく。


「どこに赤ちゃんに任せる親がいるんだ?」

「そうよ、殴る蹴るで解決しても根本的にはなにも変わらないの」


 私のおでこをデコピシしたぱーぱが斥候となった。


「中は誰も住んでいないみたいだな」

『待つでちゅよ。ものおきになっていまちゅよ』

「やーだー。うちのじゃがいもじゃない」


 ほくほくジャガイモのだけっこメニューを思い出した。あれも美味しくてポテロールも秀逸だった。


「シルちゃん。赤ちゃんが大きくなるには、まーまとぱーぱで金子を用意して森に一つある学校でお勉強をしてもらうんだよ。僕は森の管理や家庭用の菜園はこのまま続ける意気込みがあるが、ちょっと足りないかな」

「もうひとつお仕事を増やそうと思ったのよ。ぱーぱと語り合って、パンのお店よ! パン店なら設備を居抜きで使えそうだったから実家でとも思ったけど、【精霊の長】様にお会いして考えが変わったのよ」


 ぱーぱが看板を外し、新しく作ると言っていた。


「家の近くにパン用の設備を建てようと思う。これならデュフール家に半額で召し上がっていただけるよ。同じ屋根の下でというとお互いに遠慮も出てしまうからね」

『コココのカミーユ、ソフィア、シャルロットはどうちゅるでちか』


 まーまが優しいねと笑顔をくれる。


「シルちゃんの周りは恵みの【精霊】が沢山いるわ。うちの方でコココと山羊は可愛がりましょうよ」


 まーまは後ろを向いていた。ただ、片足をトンと地につける。気持ちの線を引いたように思えた。


「人は百八年生きるとロゼ島のパストゥール牧師さんが仰っていたわ。残りの人生……。ミシェルとシルちゃんも一緒だなんて、幸せ過ぎて言葉はほろっとね」

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