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ぷぴ11 命の出逢いと別れ

<入るがよい>


 靄があって入り口を確かめられないが、まーまが飛んでいる私を抱っこしてきた。不安だからかと一瞬思ったが、違う。私を護るためだ。


「シルヴィーちゃん、一緒にいましょう。ぱーぱは私の後ろだからね」

『あぶあ』

「ルイーズは肝が据わっているよ。道理でお産でも『痛くない!』て叫んでたもんだ」


<遠慮なく座れ>


 空気の中に空気を含んだ重たい声だった。とても威圧される。ロゼ島へきてうちを襲った輩はいたけれども、まーまとぱーぱに癒された。それだけでなく、生き方についても考え始めた。


 靄が晴れないのならと、そっと瞼を閉じた。考えごとが走り出してしまう。マウリッツ・エッシャーの絵か? 騙されかかっていないか。


<我が皆の示すところの【精霊の長】である>


 声すらも特段に透き通っていた。ピアノがあれば一番高い音、習ったことがなくて本当の名前は知らないけれども、綺麗だとは思う。だた、万物の精霊のみならず人間だった押し黙ってしまう。


「ああん」

「うお!」

『ぷびー』


 重力が違う……。いきなり座らされてしまった。エルフの砦か。真っ白いだけで先が見えない。


<邪念を払い、素直な気持ちでいれば我の姿が浮かぶだろうよ>


 禅寺? まーまは正座、ぱーぱはあぐらかと思わせてやはり正座、ばぶっちな私はまーまに抱かれていたが、両親の間に足を開いてお座りした。これなら赤ちゃんとしても不自然ではない。ええ、例え空を飛んでいたとしても、重要ではないだろう。


<座ったかいの。我は長生きし過ぎた。『過ぎたるは猶及ばざるが如し』とエルフの耳でも知ることができる。どうして長生きについて話しているか分かるかいの?>


 話に馴染んでいかなければ。過ぎたるは、か。ぱーぱのことなら話せる。


『ミシェル・アモンの調理は全てレシピ以上も以下もしないのが特徴なんでちゅよ。書いてある順番にぴったり計量したものを用い、温度管理も万全と決まっているのでちゅ。これを『ぱーぱ食堂の法則』と私は呼んでいまちゅ。予定より短時間で終わらせようとか考えないのは、天才でなければできまちぇんし、パン作りにも活きるだろうと思っておりまちゅ。我が家の手捏てこねテーブルロールは私も大好きで、いつか商売にしたらいいのにと思うのでちゅよ』

「シルヴィーちゃんは、ぱーぱのことをよくみていてくれたんだね。でも、道筋がなければできないみたいで寂しいなあ」


 しかし、【精霊の長】様が訴えたかったのは別にあったようだ。


<過不足なくということもある。しかし、長生きについて思うところを述べてほしい>


 少し胸にあるものを語ったせいか、白い靄が薄らいできた。心の靄なのだろか。エルフと接するのは難しい。向こうにいる存在が重たく、私は根負けした。


『転生のことでちゅか』


<転生はアモン家の一員になるのに避けて通れぬ。【精霊】は【精霊の長】が誕生に祝福を与えて各々の宿るところへと飛び立ってゆく。生命の誕生するところでもあり、寿命を迎えると【長】の元を訪れて別れを告げるところでもある。シルヴィーとやらは大切な疑問を持ってきたのではないかな>


 ぎくりとした。自分の本当の名前や年齢、前世でのことなど知りたいことが沢山あった。


<話してみよ。いずれ両親にも伝えねばならんだろうて>


 聞かれているのは、転生前の【女神】様に会う直前のことだろう。幾分かしか分かっていない。転生は伏せて話してみようか。


『――薄暗い江素田川を眺めていた映像が目に浮かぶでちゅ。仕事先で貶められたらしいのでちゅが、思い詰めて実故橋みこのはしの欄干に立ったようなのでしゅよ』

「シルヴィーちゃん!」

「シルヴィーちゃん?」


 やはり突飛過ぎたか。しかし、【精霊の長】様と会える機会はもうないかも知れないし。ごめんなさい。育ててくれた両親を差し置いて我儘な娘です。ごめんなさい。


『まーまとぱーぱごめんなちゃい。分かることがありそうなチャンスを逃したくないんでちゅよ』


 息を大きく吸って、ふううと長く吐き出す。意気込みを充電した。電気はないけれども、例えばの話だ。


『訛り懐かしい母と思しき人物がでちゅね、娘は父とは違って就職口が安定していたと諸手を挙げて喜びまちた。喜んでくれたんでちゅ』


 それまで、毎日怒ったり暗くなったりと付き合いづらい母親だったのに、驚いたのは確かだ。

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