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【完結】銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
最終章 銀と血のダンピール

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⑤悪意の連鎖

 迷い込んだ先に、村があった。


 人口は少ないものの、噂話が集まりやすい場所で、リサにとっては非常に暮らしやすそうな土地だった。


 彼女は仕方なく、普通の人間のふりをしてその地に住み着くことにした。


 人間たちとコミュニティを築きながら、居なくなっても不自然ではない者を捕まえて生き血を啜る。


 そんな日々が続いたある日のこと、山を越えた村に住んでいるという青年――、ヘルターが夜な夜な動物の生き血を啜っている姿を目撃したという噂を聞いた。


 その際、ヴァンパイアに対する呪言を呻いていたらしい。


 怖かった。

彼が何者になってしまったのか分からなかったし、確実に自分が恨まれていることを知ってしまったから。


 気を紛らわせようと、村にある本屋で、ヴァンパイアに関する伝承を読んだ。


 そこにはヴァンパイアを殺すヴァンパイア――、ダンピールのことが書かれていた。


 特徴がヘルターと一致しているような気がする。

一緒にいたら今頃彼に殺されていたかもしれないと考えると、恐怖で身体が震えた。


 どうか、彼が自分のことを忘れてくれますように。


 そんな叶いもしないことを、居もしない神に向けて願った。





 リサが洗濯物を干している時のことだった。


 どこで聞きつけたのかは分からないが、ヴァンパイアハンターの女と一緒に、一番会いたくなかった彼が現れた。


 二人の距離が、やけに近い。

鈍感な人間であっても、それが何を意味するのかくらいは分かる。


 リサはヘルターのことを諦めていたにも関わらず、この時ばかりは嫉妬に狂いそうだった。


 ひと思いに殺してやろうと刃物を手に取って女の方に投げつける。


 女はひらりとそれを躱し、右手に持っていた拳銃でリサの額をぶち抜いた。


 そしてその隙にヘルターが脇から接近し、いとも簡単に首を切り落とす。


 頭が転がる。

なのに、何故か意識ははっきりしていた。


 だからこそ、見てしまった。


 ヘルターはその女――、ジルヴァラインを愛おしそうに呼んで、微笑みながらこの場を去っていく。


 ダンピールになっただろうに、血を渇望しているはずなのに、そんなにも憎いのか、ヘルターはリサの血を一滴も飲まずに離れていく。


 それがあまりにも惨めで、本当にあの想いが一方的なものだったのだと、突きつけられた気がした。


 あの時、もしも彼がダンピールではなく、ヴァンパイアになっていたら、それでも恨まれてしまっただろうか。


 涙が地面に落ちていく。



 リサはそんな惨めな気持ちのまま、静かに死を待っていた。


 首を断ち切られてしまった為、そのまますぐに死ぬと思っていたが、なかなかそうはならない。


 身体を動かしてみようと試みる。

何故かいつもと変わらない感覚で指先を動かせた。

腕も、足も、問題なく動く。


 そのまま眼球を動かして、自身の切り離された身体を見る。


 何故か身体が蛆虫のように分離して、蠢いている。

自分のことなのに気持ちが悪くて、吐いてしまいそうだった。


 あまりにも恐ろしくて、おぞましい光景。

しかし同時に、自分はまだ死なないということを確信した。


 そうとはいえ、このまま誰かに見つかってしまえば、どんな問題が起きるか分からない。


 リサは思いつきで、身体と頭の肉を一気に霧散させた。


 体組織は霧のようになって、空間を漂う。


 この力を上手く利用すれば、ヘルターに復讐出来るかもしれない。

彼を奪ったあの女のことも殺せるかもしれない。


 リサはこの霧のような身体を、広範囲に漂わせながら生きることにした。


 便利なことに、体組織のある場所であれば音を聞くことも、物を見ることも問題なく出来た。

リサにとっては好都合だ。


 試しに元の姿に戻れるか試してみたが、残念ながらそれは上手く出来ず、イメージ力が足りなかったのか、奇妙な形の生き物になってしまった。


 身体をくっつけて人間を模倣するのは、一旦諦めることにした。


 自分の身体は特殊らしく、時間が経つにつれて、体組織がどんどん増殖していくのを感じた。


 最初は村の一角分しか漂えなかったが、半年程度で村の半分は覆えるくらいの大きさになった。


 当時はそれが、人間から逸脱していくのを感じさせられるようで、少し嫌だった。


 まだヘルターのことが好きだったのだろう。

既に嫌われているのは分かっていたのに、これ以上気持ち悪いと思われたくなかったのかもしれない。





 ある日、霧散した状態のまま村の中を彷徨っていたところ、ヘルターとジルヴァラインの間に双子の子どもが産まれたという噂を聞いた。


 またもジルヴァラインに対する嫉妬に駆られたリサは、この村を出て、山を越え、彼らが住んでいるという村に辿り着いた。


 夫妻が住んでいるのは、思っていたよりも小さい屋敷。


 その日はジルヴァラインが双子を産んで二日目の深夜だった。


 リサに躊躇は無かった。

確かな殺意を持って、愛の巣へと侵入する。


 夫婦はすっかり眠りこけている。

ヘルターが愛おしそうに妻を抱きしめているのを見て腹が立ったリサは、自身の肉を紡ぎ、キッチンからナイフを持ってきた。


 どちらを殺せば溜飲が下がるだろうか。


 ヘルターを殺せば、一時は自分を受け入れなかったことの報いだと笑い飛ばせるかもしれないが、今後一生会えないことを後悔するかもしれない。


 ジルヴァラインを殺せばどうだろうか。

ヘルターの腕の中で少しずつ冷たくなっていく様を見るのも、朝目が覚めて、彼女が亡くなっている現実に絶望する彼を見るのも、愉快かもしれない。


 けれど、ヘルターはこれからの人生を、ずっと亡くなった妻を想って生きるだろうか。


 一生彼女の死に囚われるのを見るのも、他の女性と親密になるのを見るのも、リサにとっては耐え難い苦痛だった。


 悩んでいる間に赤ん坊が起きたのか、泣き声が聞こえてきた。

ベッドに近づく。


 二人とも黒髪の、小さくて可愛い男の子だった。


 リサはその赤ん坊を見てほくそ笑んだ。


 殺さなくても、死ぬより恐ろしい業を与えてしまえばいい。


 リサは自身の血を、片方の子どもだけに分け与えた。


 現在では血呪いを与えられた後天性吸血種は、交配しない限り仲間を増やすことが出来ない。


 しかし、この頃のリサの血は濃く、それを与えられた赤ん坊は、現在でいうところの『吸血種』の体質となった。



 翌朝目覚めたアウザーヴェルテ夫妻は、自身に噛みついて血を吸う我が子を見て絶望した。

そして、生まれた瞬間からそういう生き物だったのだと勘違いした。


 そして、リサの予想通り、その子どもを殺すことが出来なかった。

それが愉快で愉快で仕方がなかった。


 皮肉にもヴァンパイアハンターである二人の落ち度が原因で、リサの仲間はねずみ算式に増えていくのだった。





 それから百年以上経過し、ヴァンパイアの呼び方が変わった頃、リサは各地を訪れて、才能のある仲間に『血呑みの貴族』の称号を与えていった。


 そして、自分に従順な駒になるよう、教育した。


 また、いつか人質として使えるかもしれないという悪意を込めて、アウザーヴェルテの子孫には必ず称号を与えた。


 才能がない子に対しては、他の上位種を殺して血呪いを植え付けるなんてこともした。

リサはヘルターが死んで尚、彼への執着を捨てきれなかったのだ。



 ヘルターとジルヴァラインの人間側の子孫が、忘れ去られていた吸血種の存在を発見し、彼らを討伐する為の教会を設立した頃、リサはエヴェリンという名の吸血種と出会った。


 彼女はプラチナブロンドの髪に赤い目をした少女の姿をしており、仲間ですら駒として扱う残忍さを持ち合わせていた。


 エヴェリンはリサを恐れなかった。

むしろこちらを女王(クイーン)と呼びながらも、親友であるかのような近さで接してきた。


 意外とリサは、彼女のそういうところを気に入った。


 エヴェリンに公爵(デューク)の称号を与えると、彼女はリサにある取引を持ちかけてきた。


 リサは霧散した身体でも、自身に触れている吸血種に命令することが出来る。


 エヴェリンの血呪いは後天性吸血種を生むことも出来るが、少量のみを人間に与えた場合は、その状態のままで洗脳することが出来る。


 この二つの能力を組み合わせれば、この星にいる全ての人類を女王(クイーン)の管理下に置き、支配することも夢ではない。


 とはいえ、非現実的な夢だった。

公爵(デューク)もまるで趣味の一環であるかのように、軽いノリで提案してきた。


 それでも、リサはこの計画に乗ることにした。

人類による裏切りへの復讐として。

二度と彼らに裏切られない為に。


 リサは自身の肉の一部をエヴェリンに与え、自由に使うことを許可した。


 エヴェリンはその代わりにリサに自身の血呪いの一部を切り取って貸し出した。


 そしてリサが必要に駆られた時、『自分の姿』を模倣できるよう、寄生することを許し、彼女の宿主となった。





 悪友エヴェリンが死んだ。


 彼女とは、仇討ちをしようと思い合えるような関係性ではない。


 公爵(デューク)は自分の死ですら娯楽として消費するような人物だったから。


 だが少なくとも、リサは彼女が死んだことが悲しかった。


 哀悼の花を手向けたい。

ダンピールの頭を乗せた赤い花を。





「ぐああああああっ」


 ダンピールの薄められた血を浴び、リサの身体は少しずつ小さくなっている。


 バルーは獣のように上位種の肉に食らいつき、ナーデルは地面に落ちた血を使った砲弾を放った。


 リサは怒りに身を任せ、巨大な腕を振り上げた。


「!!」


 巨大な砲口が突き出ている建物に、思い切り手がぶつかる。

教会がミシミシと音を立てて、破壊されていく。


 上部のみとは言え、巨大な手が退けられたそこは、瓦礫の山と化していた。


「あ……」


 破壊された辺りには、マルク、パンテル、ティーゲル、レオがいるはずだ。


「ああっ……!」


 ナーデルは目を見開いて、その場所を凝視した。


「グワァアアアッ!!」


 正気ではないはずのバルーの瞳に、確かな怒りが宿った。


「よくも……、よくもお父さまを! みんなを!」


 ナーデルは髪を全て地面に垂らし、そこにある血液をどんどん吸い上げていった。


「うあああああっ!!」


 バルーもナーデルも、鬼神のごとき唸り声を上げて、巨大な少女に向かっていく。


 殺す!

 絶対に殺す!!


 自身の中の憎悪を全て、解き放つ。

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