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銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第六章 白い檻と死

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⑦両片想いの二人

 バルーはレオに握られた手を見ながら、困惑の表情を浮かべている。


「これは意外だな……」


「え?」


 そう言いながら、レオの腕を観察する。

自分でも握ってみたりしながら、少し困ったような顔で「うーん」と唸った。


「ダンピールになると筋力が上がると思い込んでいたんだけど、レオくんの場合は普通の吸血種よりも、力が入ってないような気がする」


 レオの握力は変わっていない。

バルーがダンピールになってしまった時には、周りのものを全て破壊するほどの力が出ていたこともあり、意外な結果だ。


「どれどれ」


 マルクがエリーゼをレオの身体に向ける。

先端から光が出力され、全身をくまなく照らす。

装着している眼帯から、分析結果が頭の中へと送信された。


「確かに筋肉量に変化はなさそうだ。その代わり神経過敏になっているんじゃないか?前との違いは無いか?」


 彼の質問に、レオは少し考えるような姿勢で辺りを見回した。


「実は、サプ……、みんなの顔がとてもよく見える、あと、ずっとざわざわうるさく感じるんだが、近くに人が集まっているのかね?」


 マルクは首を横に振った。

それを見たレオは、自分の中で何か納得したような表情を浮かべる。


「そうなると、遠くの音が聞こえているのかもしれんな。空気の流れのようなものも鋭敏に感じる……」


「そりゃすごいことだぞ! うまくすれば、エリーゼよりも明確に、どこに何があるのか分かるようになるかもしれないな」


 銀弾の父と呼ばれる天才技術者の頭の中で、どんどん計算式が組み上がっていく。

彼のカソックから飛び出ているエリーゼがそれにヤキモチを妬いたのか、マルクの身体にそっと巻き付いた。


 ナーデルはそんな光景を見てため息をつき、呆れた様子を見せている。

 バルーは感動しているのか、爛々とした瞳をレオに向けた。


「そっか。レオくんはバルーお兄さんとは違って、筋肉ではなく感覚が鋭くなったんだね。嗅覚だけなら負けないぞ!」


 そう言って自慢気に胸を張る。


 レオは自身の鼻の調子を確認する為に、スンと周辺の匂いを嗅いだ。


「牢番が部屋の外に二人。汗の匂いがするから、中の様子が分からず、恐怖を感じているように思うんだが……」


「あらっ!? ちょっとー! お兄さんそんなこと分かんないよ! もう負けちゃった!?」


 マウントを取るつもりはなく、あくまで生真面目に言われたことを確認してみただけなのだが、意図せずそう受け止められてしまった。


 しかし、すんなりと負けを認めたバルーを見て肩の力が抜けたのか、レオはフッと笑った。


 ずっと緊張状態にあったが、やっとリラックス出来たらしい。


 見たところサプナの靴に掛かっている血呪いが解けたわけではないようなので、血呪いが使えなくなったと言っても、新たに生み出せないだけで、現状特に支障もなさそうだ。


自分(ジブン)は、もう二度と人間を傷つけてしまわないかね」


 レオにとって最も恐るべきことは、自分が他者を傷つけてしまうことだ。

ある意味怪力を手に入れてしまっていたら、もっと卑屈な考えになっていたかもしれない。


 バルーはそんな彼を静かに見つめながら、天使のように優しく微笑みかけた。


「努力次第だけど、今までより随分と楽だと思うよ」


 答えを聞いたレオの瞳に光が宿る。


 吸血種として生きてきた百五十年、ずっと自分の体質に悩み、それでもしがみつくように、ギリギリのところで生き永らえてきた。


 自分を慕ってくれる村民たちを傷つけないように、ずっと爪を隠しながら生きてきた。


 もちろんダンピールも、血が足りなくなれば飢餓状態に陥り、人を襲ってしまう可能性はあるが、レオにとっては自身が『人間の敵』ではなくなったことが、何よりも重要だった。


「もう、サプナを傷つけてしまわないかね」


 切実な願い。

密かに恋心を抱いていた彼女を、何よりも大切にしたい。

もう二度とあんな真似はしたくない。


 そんな想いが、言葉に詰まっている。


「うん。大丈夫」


 バルーの返事を聞いたレオは、まるで幼い子どものように、嬉しそうに微笑んだ。


「わ、私、です……か?」


 サプナが顔を真っ赤にして、小さな声でそう尋ねる。


 彼女はレオの質問に自分の名前が上がったことに驚いているのか、小麦色の肌でも分かりやすいくらい紅潮している。


 尋ねられた本人は、最初こそ普通の顔だったが、みるみるうちに耳まで赤くしてしまった。

これ以上想いを悟られたくなくて、彼女から素早く目を逸らす。


「それは……、その! 君は……! 子どもの頃から見知った者だ! これ以上傷つけてしまったら、ご両親に顔向け出来ん!」


「これ以上って……、侯爵(マーキス)さま……、私に、何を……」


 レオは先程、自身が本能のままに唇を貪ってしまったことを思い出し、両手で顔面を隠した。


 血呪いを施すだけであれば、操られてしまったせいだと言い訳も出来る。

だがあの時、言いようもない、感じたことのない快楽に全身を委ね、彼女が気を失っているのにも気づかないまま、夢中になってしまった。


 確実にやらなくていいことまでやっていた。


 だんだん汗が出てきた。

冷静になろうとすればするほど、あの時何故彼女が自分を跳ね除けずに受け入れたのかとか、自分のことをどう思っているのかとか、聞きたいことがたくさん溢れてくる。


 ギギギと音が鳴りそうなほど不自然な動きで首を動かし、真っ赤な顔でモジモジしているサプナを見た。


 なんで君はそんなに可愛いんだ、と口から出そうになるのを堪える。


「な、何でもないのだ! 忘れたまえ!」


 そう強気に言いながらそっぽを向くレオを見て、マルクもナーデルも生温かい視線を投げた。


 レオもサプナも自分に自信がなさ過ぎる。

周りから見れば一目瞭然の両片想いは、まだ長引きそうだ。


「いやー、ダンピールになれてよかった! 死んでたらお兄さんどうしようかと思ったよー」


「お前は反省しろ間抜け!」


 父親の怒声を合図に、その妻がバルーの頭に軽くチョップした。

叱られてばかりの彼は、少し拗ねたように口先を尖らせる。


 マルクが空気を変えるために咳払いし、口を開く。


「実際のところ課題は多いぞ。エイブにキーホルダーを持たせて操っていたのが本当に公爵(デューク)なのかも分からない。教会が特定した場所に奴らがいるかも未確定だ」


 彼の言う通り。

今回の事件は、まだ解決からは程遠い位置にいる。

全ては憶測の域を出ないのだ。


「サプナの親父さんのことも早く助けてやりたいが、……まずはレオをダンピールとして教会に認めてもらいつつ、戦力に数えられるレベルまで持っていきたい。キーホルダーの中にあった物質の鑑定もしてもらわないといけないしな」


「やることが多いのに、なかなか動きにくい状況ね」


 ナーデルが不安そうに言うのを尻目に、マルクは満面の笑みを浮かべた。


「んじゃ、俺は早速レオの銀弾を作るかな!」


「え?」


 エリーゼからメジャーや器具を取り出したマルクが、座り込んでぼんやりしているレオに、じわじわと接近していく。


「わた、し、血清、増やしま、す」


「おう! 頼むぞ!」


 早速作業に取り掛かるサプナの背中に、熱い視線が突き刺さる。

その熱が自身にも移ってしまったかのように、彼女の身体も熱くなっていく。


 誰が自分を見ているのか分かってしまった彼女は、後ろを振り向くことができなかった。





 カソックの襟元に、銀色の目を模したピンを付けた聖職者たちが四人、オカルト雑誌『エヒト』の出版社へと訪れていた。


 全員、激しく緊張している。



 マルク・アンヒューラー司教がエリーゼを使って検出した成分については未だ判明していないものの、それが埋め込まれていたキーホルダーは、エヒトの先月号の付録だったことが判明した。


 エヒトは以前からダンピールや教会の動きを大袈裟に伝えていたこともあり、ジルヴァ教にとって不都合な記事が出そうになる度に圧力を掛けてきた。


 調査目的の為、教会でもこの雑誌を毎号調べていたが、そちらに付いていたキーホルダーからも同様の物体が検出された。


 この出版社は確実に黒だ。


 建物の中に吸血種、もしくはそれに繋がる者がいる。

これまでもこの出版社に乗り込み、身体検査を実施したこともあったが、今まで一度も吸血種の存在や、血呪いは検出されなかった。


 だが今回、被害者であるエイブ・ハンギッヒが人間の身でありながら、他の聖職者に紛れ込んで内部に潜入し、後天性吸血種保護施設まで入り込むことが出来たことで、『ジルヴァ教の者が洗脳され、潜入の手助けをした』可能性が出てきてしまったのだ。


 要するに、教会側で行った身体検査の結果が信用出来る情報ではなくなったということ。

これは教会内部を震撼させる恐ろしい事実だった。


 即座に全職員の身体検査を複数人で実施したところ、以前公爵(デューク)と思しき人物の調査を行っていた聖職者三人の身体から、ごく微量に、エイブが与えられていたものと同様の血呪いが検出された。

彼らは後天性吸血種用の血清を打ち、現在経過観察中だ。



 そして、その公爵(デューク)につながる手掛かりは、必ずこの出版社にある。

踏み込めば、確実に命のやり取りになるだろう。


「行くぞ」


 四人は銀弾を片手に、建物の扉に手を掛けた。

息を顰める。


「銀の目だ! 全員伏せ――」


 その言葉は途中で途切れた。


 そこには誰も居ない。

それどころか、デスクも、書類も、そこには何も置かれておらず、あるのは石壁と、無機質な床や天井、ガラス窓のみだ。


「な……」

「調べるぞ」


 聖職者たちは息を呑みながら屋内に入っていく。

全員が入ったタイミングで、独りでに扉が閉まった。


 背後に火花が走る。

一人がそれに気づいて声を上げるが、時既に遅し。


 激しい爆発。


 瞬時に肉が焼け、ポップコーンのように弾け飛んでいく。


 建物のガラスは全て吹き飛び、周辺にあるもの全てを破壊した。





「号外でぇす! 号外ですよぅ!」


 大きな眼鏡を掛けたプラチナブロンドの少女が楽しげな様子で、道行く人々に新聞を配り歩いている。


 その新聞の見出しには『ジルヴァ教内部で怪物が神父を殺害!教会は人類の敵か!?』と書かれていた。


 一面には、殺害された瞬間のエイブの写真がでかでかと掲載されていた。

◇◆◇


ここまで読んでくださってありがとうございます!

これにて6章は終了となります!

とうとう悪意が蠢き始めました。そして、サプナとレオの恋模様はいかに!?


もしよろしければ、下にある☆☆☆☆☆にて、正直なご評価を頂けますと幸いです!


また、ブックマーク登録もして頂けますと、大変励みになります!


どうぞよろしくお願い致します!

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