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【完結】銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第六章 白い檻と死

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⑤子どもたちとマルク

 ミオは事件を解決する為に、何でも協力しようと気合十分だ。


 そんな彼女の真剣な顔を見たマルクも、その気持ちを素直に受け取ることにした。


「俺からも協力をお願いしたい。……さっきは俺の妻が驚かせて悪かった」


 ミオはその言葉に対して、にっこり笑ってみせた。


「全然大丈夫だよ! おじさんこそ怪我はない?」


「全然大丈夫だ! バルーが助けてくれたからな!」


 この男は本当にバルーのことを大切に思っているのだろう。

ミオは少し胸が熱くなった。


 機械腕を当たり前のように妻と呼んでいることに関しては、あまり突っ込んではいけない気がしたので、スルーしておく。


「とりあえず……、あの死んでる修道士様に噛みつこうと思わなかった子たち、呼んでみる?」


「ああ、助かるよ」


 ミオは再度保護施設の方に近寄った。


 辺り一面バルーの血で真っ赤に染まっている。

どうやら手首を切った後、みんなが血を飲めるように撒き散らしたらしい。

床に落ちた血を舐め取ったような痕跡も残っている。


「……あいつ……無茶しやがって……あとで説教だな」


 ダンピールと言えども、失血すれば命が危ないのだろう。

 マルクが険しい顔をするのを横目に、ミオは例の子どもたちを呼びつけた。


 窓際にやって来たのは四人の子どもたちだった。


「あれ?お前たち、ルクス園に居た子たちじゃないか?」


「?」


「オッサン誰?」


 四人の子どもたちに、マルクは見覚えがあった。

リーベンの母親であるアデリナと戦闘になった際に居合わせた、後天性吸血種たちだ。


 子どもたちは、マルクが自分たちのことを知っている事実に困惑している。


「何でオレたちのこと知ってんの?」


「……ああ、あの時俺、現地に居なかったんだっけか」


「怖い……」


 黒い短髪の少年グンターの後ろに、金色の癖毛を持つイザークが怯えるように身体を縮めながら隠れた。


 その隣りにいる茶髪のお下げ髪の少女がロミー。

みんなの一歩後ろに立っているオリーブ色の三つ編みの少女がヴァネッサ。


 自身で調べた情報だった為、よく覚えている。


「なるほど、これは納得だ」


「おじさん?」


「ああ、悪いなミオちゃん。この四人はバルーと戦闘経験があるんだ」


 マルクがそう言うと、どうして彼がそんなことを知っているのか、怖くなったのだろう。

四人は少し窓から距離を取るようにして離れた。


「その時にバルーの血を……」


「オッサン怖……」


「ストーカーでしょ!」


「変態……!」


 四人の発言を聞いた奥にいる子どもたちまで、ざわざわと騒ぎ始める。

マルクは全身で『違う違う』と否定したが、それが実に滑稽な動きだった。


 ミオはそれを見てため息をつく。


「こうなったらみんな言うこと聞かないよ。おじさん、からかわれてる」


「うっそだろ……」


 マルクが肩を落とすと、ヴァネッサが楽しそうに笑い出し、ロミーも釣られて笑い出した。


 子どもというのは不思議なもので、瞬時にマルクはいじってもいい人だと認識してしまったようだ。


 だが、時が悪い。

殺人事件の調査においてふざけられてしまえば、正しい情報を得られなくなる。


 役に立たなそうな男を脇に置いて、みんなの知り合いでもあるミオの方が前に出た。


「ねえ、四人はさっき神父様が襲われてた時ってどうしてたの?」


「え? あ、何が起きたかよく分かんなくて、壁際で固まってたよな?」


「うん」


 ミオの横にズイッと真剣な顔をしたマルクが並び立った。


「血を飲みたいって思わなかったのか?」


「おじさんは変態だから教えてあげなーい」


「……うそぉ」


 完全に遊ばれてしまっている。

ここは全面的にミオに任せた方が良さそうだ。


「改めて聞くけど、吸血欲求は?」


「えっと……怖くて近づけないよ……。だって……、ダンピールはアデリナとモーリッツのこと……」


 イザークがそう言って、残りの三人は暗い顔をした。

未だに知り合いの死を引きずっているのだ。


 ミオは意を決して、厳しい表情を四人に向ける。


「みんなは、神父様に助けてもらったんだよ」


「分かってるよ! でも……、オレたちにとっては二人も家族だったんだ! ……アデリナがエルマのことを殺したってことも分かってるけど……、それでもさ……!」


 グンターが言うことも分かる。

家族だと信頼していた人を殺されれば、その仇を憎むのは当然だろう。

それでも、もう事実を受け止めて先に進まないといけない。


「吸血種は、あたしたちを利用しようとしてる。あんたがよく言うアデリナって吸血種が、みんなを後天性吸血種にしたから死人が出たって思わない?」


 ミオの言葉には説得力があった。

あのルクス園での事件の時、アデリナは前線に出ず、子どもたちに命令して時間稼ぎしようとしていた。

それを利用と言わずして何と言うのか。


 吸血種がいたから、人が死んだのだ。


「こんな事件が起きたのも全部吸血種のせいでしょ!」


「あ……」


「あたしたちで、みんなが操られてただけなんだって証明しないと、今度はここで新しく出来た家族が殺されるんだよ」


 全員が押し黙った。

後ろにいた子どもたちも、ひと言も発さない。


 そんな中、一番気が弱いはずのイザークが、一歩前に出てきた。


「ぼ、僕っ……、そんなのやだっ……、何をしたらいいの……?」


 ミオはマルクを見た。


「俺は、みんながどうして操られてしまったのか調べられる、すごい力を持ってるんだ」


 スーパーヒーローの真似事のように、マルクは大袈裟に表現した。

それが真っ直ぐ子どもたちの心に刺さったのか、少しずつわくわくするような表情へと変わっていく。


「それで、そこの倒れてるお兄ちゃんの血を取りたいんだが」


「それなら、オレがコップかなんか使って、あのお兄ちゃんの首から出てる血を取ろうか?」


 グンターが偉そうに胸を張りながらそう言った。


「出来るか?」


「うえぇ……、グンター大丈夫?」


「私も手伝うよ」


「僕も」


 みんなが動き出した。


 子どもたちはコップを持ってきたり、エイブの遺体を動かそうとしている。


「無理すんなよ!」


 グンターがコップを構え、残りの三人でエイブの身体を支える。

 首から血が流れ、コップの中に入った。


「オッサン! このくらいでいい?」


「ありがとう。おじさんは中に入ることが出来ないから、ドアの近くにそのコップを置いてくれるか?」


 グンターが適当に置いたコップを、ロミーが気を遣って扉にぶつからない位置へと移動させた。


「エリーゼ。頼めるか」


 扉をほんの少しだけ開くと、機械腕が室内へと入っていく。

手際よくコップを取って戻ってくると、しっかりと扉を閉めた。


 マルクが何をするのか気になった子どもたちは、窓際の方に集まってきた。


 受け取ったコップの中の血液を、エリーゼに付いている小さな蓋を開けて、中に注ぐ。


 ぐるぐると内部の歯車が動き出し、ガチャンと音が鳴って停止した。

エリーゼの先端に赤黒い塊が現れる。


 マルクの眼帯を通じて、再生された血呪いの性質が表示された。


「この動き方、精神系……『人間を洗脳する能力』の血呪いみたいだな」


「すげー! オッサンかっけー!」


「何したの! 今!」


 マルクは『えっへん』と自慢気に鼻を鳴らし、ミオはそれを見て少し呆れたような表情を浮かべた。


 群がっている子どものほとんどが男の子だった。


「エリーゼ。こっちの方も確認出来るか?」


 頷くように動いたのを見て、マルクは同じように、エイブから回収していたキーホルダーを先程の蓋を開けて、中に入れた。


 同じように歯車が動きだし、停止して、先端に白い塊が現れる。


「……これは、血呪いじゃない、のか?」


 マルクはその物体をエリーゼに格納されていた試験管の中に収めた。


「今の白いのは何?」


「ごめんな。おじさんにもまだ分からない。研究室に持っていって調べてもらう必要があるが、あれが吸血種たちを操っている物質だってことは想像できる」


 マルクはミオの頭に手を乗せ、安心するような笑顔を向ける。

この人に任せておけばきっと大丈夫だ。


「あのお兄ちゃん、誰かと一緒にいるところを見たか?」


「ううん! 一人だったよ」


「じゃあ、事前に植え付けられた血呪いに操られて、ここまで来たのか……」


 マルクは顎に手を当て、考えをまとめ始めた。


「どうして操った人は、わざわざ保護施設に入らせたの? この人を死なせたいだけなら、もっと楽な方法があったはずだよね?」


「そうだよな……」


 ミオも一緒になって考え始めた。


「このお兄さんは……、修道士様じゃないんだよね……? どういう人なの?」


「ああ、この人はジルヴァ教とは違う存在を信仰してるんだ」


「じゃあ、ライバルの女神様のところで問題を起こしたかったのかな? でも、操られてるなら関係ないか……」


 マルクは閃いたように手を叩いた。


「いや、ミオちゃんの言う通りかもしれない。掛けられてた血呪いは『人間を洗脳する』ものだから、問題を起こしたいという気持ち自体が、吸血種によって作られたものだったと――」


 そう言いながら、マルクは額を抑えた。


「植え付けられていたのか……、パンテル村を襲った時点で」


 迷惑な問題児、エイブ・ハンギッヒ。

その人格すら、公爵(デューク)によって仕込まれたものだとしたら。


 後天性吸血種にするのではなく、敢えて人間として侯爵(マーキス)の側に仕えさせた理由は?

教皇とレオの繋がりを知っていた?


「……内乱」


 マルクは慌てた様子で、近くにあったタイプライターに文字を打ち込み始めた。


「?」


 ミオの視線の先に小さな紙が落ちている。

それを拾い上げ、マルクに見せる。


「おじさん、これ」


 焦りながらも彼女の方に顔を向け、紙に書かれている内容を見る。


 それは、オカルト雑誌『エヒト』の記者の名刺だった。


「……予想以上にまずいぞ」


 マルクは文字を打ち続ける。


 状況が理解出来ないミオを置いてけぼりにしつつ、文章を打ち終え、送信する。


「……突然驚かせて悪かった。情報規制を掛けるよう、偉い人にお願いしていたんだ」


「情報が漏れるとどうなるの?」


「そうだな……、怒る人がたくさん出てくるかもしれない」


 子どもたちの表情が曇るが、マルクはそれを吹き飛ばすような笑顔を向けた。


「心配すんなよ。そういうのからみんなを守る為に、俺たちがいるんだから」


 まるで皆の父親のように、彼は自信満々にそう言った。

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