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銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第五章 サプナの手紙

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④寄り添う者たち

 サプナはレオと一緒に、彼が幽閉されている地下牢で、書類を見ながら血清の製造方法について打ち合わせしている。


 恋心を精算したつもりではあるが、近くに居るとつい、彼の顔を横目で見てしまう。


 彼の体調は相変わらず良くなさそうで、青白い肌をしているが、それでも以前と比べれば、少しは元気になってきている。


 生きる理由が明確になった今、彼はもう自分の命を諦めてはいない。


「あっ」


 視線が合い、レオが声を上げた。

 サプナは驚いて咄嗟に別の方向に視線を逸らす。


 彼女の小麦色の肌がどんどん紅潮していく。


「どうかしたのかね」


『いえ、いえ、気に、なさらず』


 気持ちを知られたくない。

 心臓の音を聞かれたらまずいと思ったサプナは、少しだけ彼から距離を取った。


「こ、これなんだが」


 レオの声が一瞬裏返ったような気がするが、突っ込む余裕はない。

とにかく言おうとしていることを理解する為に、彼の手を見る。


「少し量を増やそうと思うのだが……」


 指を差された先を確認してから、もう一度レオの顔を見た。


 視線がかち合う。

優しげな表情の彼が、眼前に迫っていたことに気がつき、サプナは飛び跳ねた。


「!!」


「ぬぁッ!」


 レオは大きな声を上げながら腕で顔を隠し、その場に縮こまった。

何もそこまでしなくてもいいのに、と少しだけ傷つく。


「不躾に見てしまってすまない……!」


『いえ、エイブ、言いません、から』


「……え? エイブ?」


 もしかしたら他人の顔を見るだけで浮気だとでも言われているのかもしれない。

 このことについては何も言わないと、約束するつもりで銀文字を書いたのだが、上手く伝わらなかったらしい。


 サプナはどんよりとした気持ちになった。


「そういえば……、エイブや他の者たちは、無事に保護されているのかね?」


 彼のことを気にかけている侯爵(マーキス)を見ていると、少しだけ胸がチクリと痛む。


 それでもサプナはにっこりと微笑んだ。


 村民たちは全員、教会が災害時に解放する避難所兼住宅にて保護されており、しっかりプライベートスペースも確保されている。


 そのことを紙に書いて見せると、レオはホッと胸をなで下ろした。


「そうか、よかった。それで……エイブは最近どうしている?」


『何故、私、聞く、?』


 先程からずっと、彼のことばかり気にされるのが嫌になってきた。

ほんの少し意地悪な気持ちで、そう質問し返す。


「彼は、目を離すとすぐに問題行動を起こすだろう?他の者に迷惑を掛けていないか心配なのだ」


 サプナはそう言い訳するレオを見ながら、少しだけ手を震わせる。


 自分がいない間も、エイブはきっと他人に高圧的に振る舞っていたはずだ。

レオはそれを知った上で、彼と一緒に居るのだと分かって、少し嫌な気持ちになった。


 あの男の何処がいいのだろう。

応援すると決めたのに、それはそれとして、エイブへの批判も浮かんできてしまう。


侯爵(マーキス)、仕事、手伝い、希望、却下、された。怒り、暴れて、少々、問題』


 彼が駄々をこねて暴れ、聖職者たちに迷惑を掛けていたことを正直に話す。

 レオはハッキリと、眉間に皺を寄せた。


「それでは、エイブはここに来られないということかね」


 直接そう質問されるのは結構きついものがある。

 それでもサプナは逃げず、正直に頷いた。


「それなら、君はまたここに来るかね」


 突然矛先が自分に向く。

どういう意図があってそう尋ねられるのか、よく分からなかった。

 そもそも血清を作る仕事があるのだから、来るのは当然のことだ。


 ああ、そういうことか。

エイブが来られないのに、何故お前が来るのだという厭味か。


『私、来る』


 事実だけを述べる。

何の意図があろうと、もう関係ない。


「そうだな。妙な質問をして悪かった」


 サプナは何となく気まずさを覚えた。

 牢を出て、必要な薬品や器具の整理をし始める。


「……サプナ。もしかして、何か怒らせたかね」


 声を掛けられても、聞こえていないふりをした。

彼の質問に対しての答えが「YES」だからこそ、サプナは敢えて答えなかった。


「……こういうところだろうな……。自分(ジブン)は本当にダメな奴だ」


 レオはそう独りごちたが、サプナはそれも聞こえていないふりをした。





 しばらく時間が経って、サプナは自分の鞄を持ったまま牢を後にしようとしていた。


「バルーオニイサンの血を採りに行くのかね?」


『そう。その、後、研究室、寄って、帰る』


「そうか。また明日……来てくれたまえ」


 目を細めて、少し寂しそうにしている。

そんな顔をされたら離れられないと思いつつも、不自然にならないように頭を下げ、その場から逃げ出すようにして部屋を出た。


 この恋は諦めた。

彼のことを諦めたはずだった。


 それなのにどうしても、一緒にいるだけで胸が高鳴ってしまう。

そして、期待して、失望する。


 もうそういうのは止めてほしい。

出来ないけれど、叫び出したい気持ちだった。


 ピンヒールをカツカツ鳴らしながら、バルー達がいる地下牢へと向かう。


 その通り道に後天性吸血種の保護施設があり、中から子どもたちが手を振っていて、サプナも振り返した。


 気持ちを入れ替えなければ。

そう両手で頬を叩く。



「サプナ!」


 出迎えてくれたマルクは半分泣きそうな顔でこちらに歩み寄ってきた。


「手紙、ありがとうな」


 急に照れくさくなったサプナは、顔を赤らめながら小さく頷く。


「おまえ、可愛いところあったのね」


『ナーデル、意地悪』


「そうかしら? わたしたちのこと大好きなくせに」


 そう言われたサプナは、銀文字を出さずに小さく頷いた。


「ぐふっ……! 何それ!可愛すぎるでしょうが!」


「ごめんね。手紙を読んでからずっとこんな調子なんだ……」


 どうやらナーデルは、すっかりサプナのファンになってしまったらしい。


『城、いた時、怒り』


「ああ、それは……あのときは……、もしかしたらバルーが、サプナのことを気に入ってしまうかもしれないと思っていた部分も……ちょっとあったり……」


「……え! そうだったの!?」


 バルーは全力で否定するように首を横に振った。

何もそこまですることはないだろうと思う。


「だって……、口を布で隠していても、隠しきれないくらい綺麗な人なんだもの」


『私、が、綺麗、?』


「そうよ! サプナは本当に綺麗な人よ。おまけにあんなに健気だったなんて、認識を変えられてしまったじゃないの」


 今度は何故か怒っている。


「レオもエイブも、見る目が無いんだわ」


 サプナはそれを聞いて、ふっと微笑んだ。


『ありがとう、ナーデル』


 これからは彼女とも仲良くなれるような気がする。

自分の努力次第だが。


『採血、しに、来た』


「あ! そうだったんだね!」


 サプナは机の上で採血用の道具を準備する。


「……そういや、俺だけ年食ってるけど、『友だち』になってもいいのか?」


『何、今更』


「え?」


『司教、一番、私、気にして、いた。既、友人、思っている』


 共闘回数も多く、パンテル村に行く時もずっと気にかけてくれていたマルクのことを、サプナはこの中で一番信頼していた。


 教授職を離れているにも関わらず、未だに生徒のことを気に掛けている姿を見て、感銘さえ受けたくらいだ。


 年齢差は関係ない。

彼に限っては、役職すら気にしないだろう。


「よ、良かった……」


『気にする、ところ、変』


 むしろ彼の方が嫌がるのではないかと少し不安だったが、それも杞憂だった。


 準備した道具を手に、バルーが拘束されている椅子に向かう。


 腕を解放し、袖を捲る。


「サプナさん、レオくんと一緒に居るみたいだけど、大丈夫?」


 彼がそう言うのを聞きながら、血管に注射針を刺す。


侯爵(マーキス)、理性的、血呪い、使用しない』


「そうじゃなくて」


 バルーは心配するような顔でサプナを見ている。


「サプナさんの気持ちの問題」


 やはり優しい人だ、と思った。

放っておいても問題ない他人事なのに、彼にはそれが出来ないのだ。

どこまでも共感し、寄り添おうとしてくれる。


『失恋、二年前、既、諦め』


「そうなんだ……」


 採血しながら、サプナは少しだけ当時のことを思い出していた。


『でも、当時、結構、悩み』


「……うん。そうだよね」


『今、大丈夫。エイブ、侯爵(マーキス)、幸福。私、支える』


 バルーが代わりに悲しそうな顔をしてくれたのが、サプナにとっては救いだった。


 採血が完了し、傷口に絆創膏を貼る。

ダンピールなのであまり意味はないかもしれないが。


「その二人の件に関してなんだが」


 そう声を掛けてきたのは、檻の外にいたマルクだった。


「お節介だろうけど、俺がレオにエイブってやつとの関係性聞いてきてやろうか?」


 サプナはわざとジト目で彼を見た。


『それ、本当、お節介』


「だって……、何だか釈然としないじゃねえか……。身を引くのは確認してからでもいいだろ?」


 サプナは首を横に振った。


侯爵(マーキス)、吸血種、繁栄、本能、嫌悪。女性、交際、しない』


 そう書いた後、サプナは不思議とスッキリした表情を浮かべていた。


 こんな自分の話を聞いてくれる人がいる。

動こうとしてくれる人がいる。

そのことが何よりも嬉しかった。


「分かった。バルーお兄さんたちは、サプナさんが納得してるならいいんだ」


 バルーがそう微笑みながら言った。


「俺は納得してねえし」


「はいはい。お節介おじさんはおだまりなさいねー」


 マルクとナーデルが親子らしく、無邪気にそんなことを言っている。


 サプナはそれらのやり取りを聞きながら手早く器具を片付け、軽く頭を下げると、研究室の方へと歩き去った。


 少し照れくさかったのだ。

これまでまともに自分を気にかけてくれる人がいなかったから。



 研究室へと向かう途中、後天性吸血種たちが保護されている施設の前で、彼女は急に立ち止まった。


「……?」


 嗅ぎ慣れないが、覚えのある匂いが一瞬鼻先を掠めた。


「……」


 急にあの記憶が蘇ってくる。


 エイブとレオが口付けをしていたあの日、部屋からしていた御香と同じ匂いだ。


「…………」


 急に胃が重たくなるような感覚に包まれた。

いい気分で過ごしていたのに、嫌なことを思い出させられた。


 香りは記憶と直結しやすい。


 サプナは早く忘れられるよう、頭を軽く振ってから、研究室の方へと逃げるように早足で向かう。


 少し、不安な気持ちを抱いて。

◇◆◇


ここまで読んでくださってありがとうございます!

これにて5章は終了となります!

次章は久しぶりにあの子が登場!お楽しみに!


もしよろしければ、下にある☆☆☆☆☆にて、正直なご評価を頂けますと幸いです!


また、ブックマーク登録もして頂けますと、大変励みになります!


どうぞよろしくお願い致します!

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