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【完結】銀と血のダンピール 〜吸血鬼殺しの怪物になった、家畜神父の物語〜  作者: 岫住胡乱
第四章 黒豹の古城

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⑥マルクの分析

「連戦で疲れてない?」


「問題ないよ。サプナさんは大丈夫?」


『問題、無い』


 ナーデルが二人に労いの言葉を掛ける。


 黒豹と戦闘したことで次の通路への扉が開いた為、サプナが罠の確認をしながら進んでいくことになった。


 状況は戦闘前と変わらないが、助け合ったことで何となく一体感が生まれ、和やかな雰囲気になっている。



 新たに現れた通路には、不思議と罠が無いらしい。

それがかえって不気味な感じだ。


「入るか……? でもな……」


 廊下の先から男の声が聞こえてきて、ナーデルがその声に反応した。

渋くて聞き覚えのあるその声は、道を進むにつれて聞き取りやすくなってくる。


「……お父さま?」


「ん? おお! みんなも来たか!」


 独り言を話していたのはマルクで間違いなかった。

こちらに向かって笑顔で手を振っている。


「無事だった? 何処も怪我してない?」


「おう! 俺は何の問題もない! エリーゼが助けてくれたからな。それよりお前たちの方は大丈夫だったか?」


 カソックの下から出ている尻尾のような機械を撫でながらそう尋ねるマルクに、一同はこれまでのことを話した。


「黒豹の吸血種か……。やっぱそうだよなあ」


「ん?」


 男はうーん、と顎に手をやって何かを考えるような素振りを見せる。


「……バルーに改めて聞きたいんだが、この城は全体的に林檎の匂いがするんだよな?」


「うん。罠は大体葡萄の匂いがするけど、お城全体で言うと林檎だね。あ、黒豹は葡萄の匂いだよ!」


「そうだよな……。そうなんだよな……」


 マルクは頭を押さえながらまた、うーんと唸っている。


「何か問題かしら」


「いや、ここまでエリーゼに空間分析してもらいながら進んできたんだが、度々人を見つけたんだよ」


 口髭を撫でながら困ったようにそう言う。


「罠からは吸血種の匂い、城からは人間の匂い……。俺が分析した相手が仮に人間だとすると、俺達に攻撃してきてるのは()()ってことにならないか?」


 バルーとナーデルが顔を見合わせる。

これまで吸血種とは戦ってきたが、普通の人間とは敵対してこなかった。

 予想外で、ショッキングな憶測だ。


「サプナ」


『私、まだ、言えない』


 ナーデルは即座にそう答えた彼女の言葉を尊重し、それ以上は質問を続けなかった。


「……でも、おかしいよ。バルーお兄さんはここまで黒豹の吸血種と戦ってきたんだよ?」


「……そうなんだよな。……考えられるとすれば、ヘルターが吸血種で、信徒を利用しているんじゃないかってところなんだが……」


 マルクはそう言いながら、そっとヘルターを信仰しているサプナの様子を窺う。


 彼女はいつもと変わらず、ジト目でこちらを見ている。

機嫌を損ねたわけではなさそうで少しほっとした。


「……まあ、ここで話してても答えは出ないよな。俺が気にしているのはこの先のことだ」


「何か見つけたの?」


 マルクはしっかりと頷いた。


「この先にも居るんだよ。黒豹が」


「あら。じゃあ同じように倒すだけね」


「そのことなんだが、何か妙な感じがして、一人だとなかなか踏み込めなかったんだよな」


 マルクは少し勿体ぶった様子でそう言う。


「呼吸はしているみたいなんだが、身動きひとつ取らないんだよ」


「寝てるんじゃなくて?」


「いや、ただじっとこっちを見ているような感じだ。さすがに不気味で、中に入るか迷っていたタイミングでお前たちが来たんだよ」


 バルーは鼻をクンクンと動かした。


「今までの黒豹と同じ、二種類の吸血種の匂いがするね」


「サプナとお父さまはすぐに隠れられるように準備しておいて頂戴」


 それを聞いたマルクは、エリーゼを火炎放射器型に変形させた。


 マルクを戦闘にして、黒豹がいる部屋へと入っていく。


 部屋の中央に、その吸血種は鎮座していた。

他の黒豹と比べても、身体がかなり大きい。


 攻撃してくるでもなく、ただジッとこちらの方を眺めているのが不気味だ。


 サプナは黒豹を見てわずかに嬉しそうな表情になった。


「これ……攻撃してもいい、のかな?」


「気が引けるわね」


「俺が撃って様子見てみるか?」


 サプナはそれを聞いた途端、急にぶすっとした表情になった。


『黒豹、大切。しかし、吸血種、倒す。複雑、気持ち』


「悪いなサプナ。嫌だったら見えないところに居てもいいんだぞ」


 彼女は首を横に振る。

覚悟は決まったらしい。


「んじゃ、やるぞ」


 マルクは意を決してエリーゼを構えた。

砲口から水銀が射出され、黒豹の肌に直接浴びせかける。


「?」


 通常の吸血種であれば、すぐに身体が灼けていくはずだが、この黒豹に至っては全く変化が見られない。

 水銀はただ、肌の上を滑り落ちていく。


「……なんだ……こいつ……?」


 そのまま対策も分からず、水銀をずっと当てていると、黒豹はのっそりと立ち上がった。


 人間の五倍はありそうな大きさをしている。

赤黒いその毛は、光を反射して輝いていて、得体の知れない存在であることを改めて認識させられた。


 黒豹の口がカッと開かれる。


「……お父さま!避けて!」


 マルクの足元にレーザービームのような赤い光線が放たれ、床を破壊する。


 焼き切れてズタズタになった床からは煙が立ち上った。


「は、はあ!?」


 カソックの裾を焦がしながら、男は素っ頓狂な声をあげる。


 黒豹はまた元の位置に戻り、座り込んだ。


「なんだろう……。二種類の匂いがしてはいるんだけど、もしかして……」


 バルーはまたクンクンと鼻を動かす。


「みんな、確証は無いんだけど、外側の血呪いも内側にいるのも、上位種かもしれない」


「なんですって!」


 ナーデルの困惑した声に、バルーは頷いた。


「さっきまでのは内側が普通の吸血種だったけど、今回は違うみたいだし、通常の方法では倒せないのかも。危険は承知で色々と試してみよう」


 そう言いながら準備運動するように右腕をぐるぐると回す。


 バルーは無害そうな顔をしながら、思い切り黒豹の顔面に右フックを食らわせた。


「!」


 吸血種は全く身動きを取らない。

バルーはそのまま蹴り上げたり、左手でもストレートを出したりして、攻撃を継続した。


 しかし、黒豹は平然としている。

しばらく攻撃を受け続けてから、のそりと起き上がる。


 口が開き、赤い閃光が集まる。

そのままバルーに向かってレーザーが放たれた。


 一度攻撃を見ていたバルーは、それを軽々と避けられはしたが、困ったような表情で頭を掻いた。


「攻撃が全く入ってないね……。どうしようか」


「バルーの攻撃が効かないなんて、信じられないわね……」


 ナーデルは静かに、考え込むように腕を組んだ。


「ダメージを反射するカウンター攻撃って感じだよな……」


「そうね。こちらから攻撃すればするほど、不利になると思うわ」


 それを聞いたバルーは、ますます困った顔が酷くなった。


「……っ」


 胸元を掴む。


「……バルー!どうしたの!?」


 異変に気がついたナーデルが駆け寄る。


「飲み……たい……」


「え?」


「血が……、欲しい……」


 それを聞いたナーデルはトランクを開き、抑制剤入りの血液バッグを渡そうとした、しかし、バルーはそれを拒み、黒豹を真っ直ぐ見つめる。


「……はぁ……っ、血……、美味しそう……。噛まないと……」


「血に酔ってるのか! 上位種の血のせいか?」


「これは早めに対処しないとかなりまずいわね……。念のためお父さまとサプナはバルーから離れて」


 バルーは息を荒げながら黒豹に噛みつこうと飛び掛かった。

しかし、当然歯は立たず、光線が壁を焼く。


「バルー! しっかりしなさい! 攻撃したらわたしたちも危険なのよ!」


「分かってる……。でも、すごく美味しそうで、はぁ……、浴びたい……、ぐぅっ……抵抗できない……!」


 本人も理性と本能の狭間で戦っているようだが、本能が少々優位に立ってしまっている。


 このままではいつか光線に当たってやられてしまいかねない。


「あの黒豹の体質について早めに分析した方がいいな」


「ええ。皮膚が水銀を弾いていたように見えたわね」


 ナーデルはそう言いながら飛んでくる光線を避けた。


『司祭、の、攻撃、無効。皮膚、頑丈』


「となると、エリーゼの弾丸も無効だろう。物理攻撃は銀であっても効かないと見ていいだろうな」


 光線が壁を焼いていく。


「!」


 サプナがバルーを見て驚いた顔をしている。


 バルーは口をモゴモゴ動かしていて、顎周りが血だらけになっていた。


「……おい! 怪我したのか!?」


「ふぁ?」


 何故か嬉しそうな顔をしたまま、まだ口を動かしている。


「すごくおいしいんだ! みんなも飲めたら良かったのに!」


「さらっと怖いこと言うな! ……って、黒豹に傷を付けられたのか!?」


 バルーはサッと赤い閃光を避けて頷いた。


 そして、舌をベッと出す。

 そこには黒豹の長い舌の先端が収まっていた。


「おま……、口から光線出るのに……、なんつー無謀なことを!」


『司祭、!、死ぬ、気、!?』


 珍しくサプナの銀文字も怒っているような乱暴な書体になっている。


「んー? 口開けた瞬間、ベロならいけるかなって」


「噛み切れなかったら顔面であの光線喰らってたんだぞ! 本当に反省しろ! 間抜け!」


 マルクは珍しく額に青筋を立てて本気で怒っていた。


 謝るバルーの横で、光線を撃ち終わった黒豹がじっと座り込む。


「……まあ、バルーのお陰で少なくとも口には攻撃が通りそうなことが分かったわね……」


「迷惑掛けて本当にごめん。でも、これ舐めてたら落ち着いてきた」


 バルーはそう言いながら黒豹の舌先を飴のように舐めている。


「試しに口をこじ開けられるかやってみようか?」


「ああ……可能なら攻撃できるわね」


「それやるとしたら、必ずこいつの目の前に誰か立たないといけないだろ? 俺は光線を避けられる自信がないんだが」


 サプナがそれを聞いて、マルクの肩に手を置き、やめたほうがいいと首を横に振った。


『口、開く、瞬間、光線、可能性、有。危険』


「でも、それならどうやってこの黒豹に攻撃するの?」


 バルーの質問に、誰も答えられなかった。


 マルクは静かに部屋を見渡す。


 窓は無く、天井が高い。

どうやら密閉空間になっているようだ。


 上を見上げる。


「……俺片目しか無いからよく見えないんだが、アレが何か代わりに見てくれるか?」


 そう言いながら天井にある()()を指差した。

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